試乗インプレッション

また会おう「ビートル」! 2019年に販売終了の「ザ・ビートル」特別仕様車

“See You! The Beetle キャンペーン”第4弾モデル

2019年に日本での販売を終了

 世界中で愛されてきた「ザ・ビートル」。日本では2012年6月1日に販売が開始され、およそ7年の販売期間(販売台数はオープンモデルの「カブリオレ」を含み約3万5000台)を経て2019年に日本での販売を終了する。ザ・ビートルは、フォルクスワーゲンの歴史そのものである「ビートル」(1938年)がその原型であることはご存知の通り。2003年に生産が終了したビートルに前後して登場した「ニュー・ビートル」(1999年)の後継車種としても知られる。

 今回、その販売終了を記念してこれまで人気の高かった数々のオプション装備などを標準で装備する「ザ・ビートル Meister(マイスター)」シリーズが発売された。同シリーズは、“See You! The Beetle”キャンペーン第4弾としての位置付けで「Design マイスター」「2.0 R-Line マイスター」「R-Line マイスター」の全3グレードによって構成された。このうち、今回試乗したのはベーシックなDesign マイスターだ。

 ザ・ビートル Design マイスターは「ザ・ビートル Design」をベースに、バイキセノンヘッドライト(ハイトコントロール機能付)、フォルクスワーゲン純正ナビゲーションシステム「716SDCW」、リアビューカメラ「Rear Assist」、2ゾーンフルオートエアコンディショナー(運転席/助手席独立調整、自動内気循環機能付)、アレルゲン除去機能付フレッシュエアフィルター(花粉/ダスト除去外気導入フィルター)、パドルシフト、レザーマルチファンクションステアリングホイール、215/55 R17タイヤ/マイスター専用10スポークアルミホイールなど、数々の装備が標準で付く。

 さらに試乗車には、Design マイスター専用に用意されるレザーシートパッケージ(運転席と助手席にはシートヒーターが付く)を装備し、有償のオプションボディカラー「ハバネロオレンジメタリック」をまとっていた。

「ザ・ビートル」の特別仕様車「Meister(マイスター)」は、「Design マイスター」「2.0 R-Line マイスター」「R-Line Meister」の3グレードを展開。今回試乗したのはベーシックなDesign マイスター(303万円)で、ボディサイズは4285×1815×1495mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2535mm
Design マイスターのエクステリアでは、ベースになる「ザ・ビートル Design」からバイキセノンヘッドライト(ハイトコントロール機能付)、マイスター専用10スポークアルミホイール(タイヤはブリヂストン「TURANZA ER300」)を専用装備
インテリアではフォルクスワーゲン純正ナビゲーションシステム「716SDCW」、パドルシフト、レザーマルチファンクションステアリングホイールといった専用装備が与えられる

 搭載エンジンは、直列4気筒1.2リッター直噴SOHCターボ(105PS/17.8kgfm)で7速DSG(デュアルクラッチトランスミッション)を組み合わせる。車両重量は1300kg、アイドリングストップ機構は付かず、JC08モード燃費は17.6km/Lを達成する。

出るかピュアEV版のビートル

 久しぶりにザ・ビートルを試乗したが、改めてステアリングを握ると現行のフォルクスワーゲンの中では、とりわけどっしりとした走行性能であることが再確認できた。ご存知のように、ザ・ビートルのベースは6代目のゴルフ。よって、新たなクルマの設計思想で今やフォルクスワーゲンの代名詞ともなった「MQB プラットフォーム」は採用していない。分かりやすい表現とすれば(厳密にはかなり異なる部分があるものの)、ベースとなる6代目ゴルフのプラットフォームにザ・ビートルのボディを搭載したのがザ・ビートルである、ともいえる。

“どっしりとした”と表現した走行性能からは、いかにも反応の鈍い重そうな走りをイメージされるだろうが、そうではない。ザ・ビートルのキャラクターには、往年のビートルを思わせるデザインアイコン的要素とともに、走行性能については実用車であることが重要視されている。

 それは、211PS/28.6kgfmを発生する2.0リッターターボエンジン搭載車にしてもそうだ。この2.0リッターターボエンジンは余力こそたくさんあるものの、受け入れる側のシャーシやサスペンション側は、じんわりそれを受け止めるセッティングが施されている。いわゆる打てば響くというようなキビキビとしたハンドリングではない。よって、カーブの続くワインディングであってもハイペースで走るのではなく、流れゆく景色を楽しみながら余裕をもって優雅に走らせるほうが似合う。

 試乗した1.2リッターターボエンジン搭載車はわずか105PSしかないが、こうした優雅な走りを楽しむには十分だった。撮影場所に選んだのは、カーブが多く3~5%の上り勾配が連続する山道。性能確認のため、パドルシフトを利用して低いギヤ段で走ってみたが、このステージでは1300kgの車両重量に対するパワー不足は否めず、減速しながらカーブに進入するという普通の運転操作であっても、カーブの先が切れ込んでいるとクルマが無理しているような動き(いわゆるアンダーステア傾向)を強く見せる。

 そこで、なるべくペースを一定に、またエンジン回転をそれほど上げずに一段高いギヤで走らせるようにしてみたのだが、これまでとは状況は一転して乗りやすくなった。1500-4100rpmの幅広い常用領域で最大トルク(17.8kgfm)を発生し続けるため、ゆっくりとしたアクセル操作であってもドライバーの思い描いたように速度コントロールができて気持ちがいい。

 郊外の県道を交通の流れに合わせて40~50km/h程度で走行させると、実用車であることをつくづく実感。信号待ちからのスタートでは、丁寧なアクセル操作をしているつもりでも割と元気よく発進し、そのまま速度の増速に合わせてどんどんシフトアップを繰り返す。ギヤ比が細かく刻まれた7速DSGのうち、5~6速/1500-1700rpm程度で走り続ける際の走行フィールは感動こそ少なくロードノイズも若干入り込むものの、エンジンからの遮音性は高く、前述したトルク特性と相まってしずしずと走り続ける。「このままずっとこの調子で走っていても疲れないだろうな」といった、ほんわかしたムードさえ感じられる。

 DSGは短時間での変速が売り物だが、ザ・ビートルのDSGは変速開始から完了までの時間が長め。どちらかというと、少し前のトルクコンバーター方式ATに似たフィーリングで、変速時には山なりに高まるエンジン音をはっきり認識させるようなフワッとした変速特性をみせる。加えて、この世代のDSGは坂道発進が苦手項目だったが、今となってはそれを見越した運転操作が懐かしくも感じられる。

 こうして1938年から続くビートルの系譜は、いったん終わりを告げることになる。これまでザ・ビートルにはたくさんのスペシャルモデルが導入されてきたが、個人的なシリーズNo.1を挙げるとすれば「ザ・ビートル・デューン」だ。

 あえて“いったん”としたのはMQBに続く、新しい電動化プラットフォーム「MEB(Modular Electric Drive Matrix)」が明らかとなっているから。このMEBを用いたピュアEV(電気自動車)が「I.D.」シリーズとして2020年には市販され、往年のフォルクスワーゲン「タイプII」をイメージしたとされる「I.D. Buzz」もコンセプトカーとして披露されている。

 こうしたことから筆者は、ビートルをI.D.シリーズとしてピュアEV版のビートルをラインアップに加えるのではないか予想している。果たしてそれがいつになるのか、そもそもEV版ビートルは出現するのか……。ビートルがこれまで築き上げてきた文化は電動化とともに第4世代へ受け継がれることを切に願う。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:堤晋一