試乗インプレッション

ルノーの新型「メガーヌ ルノー・スポール」、絶妙な俊敏さと安定性のバランス

5ドアで2ペダル、シャシースポールというスペックからルノーの意地を見た

「4コントロール」採用でキビキビさ際立つ

 ルノーを代表するホットハッチ「メガーヌ ルノー・スポール(R.S.)」が3代目へと進化した。メガーヌ R.S.といえば、ニュルブルクリンクや鈴鹿サーキットにおけるタイムアタックを積極的に行ない、そこで確かな結果を導き出していたイメージが強いクルマ。ならば今回もかなり過激に進化したのかと思いきや……。フタを開けてみれば、かつてのような3ドアではなく5ドアで登場。トランスミッションは2ペダルのみ(本国仕様にはMTアリ)。しかも排気量はダウンしたというではないか。さらには採用されているシャシーは、タイムアタッカーが持つシャシーカップではなく、シャシースポーツとのこと。世間に媚び始めて大丈夫? ハッキリ言えばそれが第一印象である。しかし、走らせた瞬間、そんなネガティブな思考が一気に吹き飛んだ。

 タウンスピードで動いていても、新生メガーヌ R.S.の動きはとにかく俊敏だ。ステアリングのわずかな切り込みに対して瞬間的にヨーモーメントが発生するこの仕上がりは、「メガーヌ GT」にも採用されていた「4コントロール」が備わっているからだ。同位相で1度、逆位相で2.7度リアタイヤが動くそのシステムは、GTと同様のシステムを採用してはいるが、セッティングについては改めている。

 基本的には60km/hまで逆位相でリアタイヤが切れるそれは、クルマが小さく、そして軽く感じるのだ。車重は1480kgなのだが、体感的には1tちょうどくらいのクルマに思えるほどである。これぞホットハッチ! 先代は確かに速くてよいクルマだったが、本気で攻めた時によさが際立つ印象。新型はどんな状況で乗ってもキビキビさが好感触なのだ。

 もちろん、4コントロールの動きは慣れるまでは違和感があるだろう。リアの操舵角を決定するパラメータは車速、フロントの操舵角、そしてステアリング操舵スピードの3つ。車速と切れ角については固定のパラメータとなるが、操舵スピードだけは可変になるとのこと。すなわち、瞬時にステア操作をすればリアもそれに追従。じわりとステアすれば、リアはそれほど応答しないことになるのだ。走り続けてそのさじ加減を知ると、とにかく絶妙に感じる。高速コーナーなどで丁寧にステアリングを切り込むと、リアはドッシリと安定方向に。ヘアピンコーナーなどが連続するシーンでは、ステアリングを素早く切ってみたが、するとヨーが急激に発生してクルリとクルマの向きを変えるのだ。

8月30日に発売されたCセグメントの新型5ドアハッチバック「メガーヌ ルノー・スポール」(440万円)。ボディサイズは4410×1875×1435mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2670mm。エンジンは新開発の直列4気筒DOHC 1.8リッター直噴ターボ「M5P」型を搭載し、トランスミッションにはゲトラグと共同開発した6速デュアルクラッチ式「6EDC」を採用
エクステリアではメガーヌ GTからフロントを60mm、リアを45mm広げたフェンダーが備わるとともに、F1スタイルのエアインテークブレードにワイドなエアインテークを組み込んだフロントバンパーを装備。スモールランプ、フォグランプ、ハイビームとしての役割を担うチェッカーフラッグ型の「R.S.ビジョン」も特徴の1つ。足まわりはカヤバ製で、タイヤはブリヂストン「POTENZA S001」(245/35 R19)

 今回は箱根ターンパイクとともに、低速が続く湯河原パークウェイを走ったが、いずれの環境でも違和感を得ることなく、俊敏さと安定性をバランスさせた仕上がりはなかなか。トライ&エラーで3年の歳月を要したというそのセッティングは絶妙だ。レースモードを選択すれば、逆位相になる速度は100km/hまで引き上げられるなど、あらゆる環境に合わせて仕立てられたセッティングは、乗れば乗るほど体になじむだろう。タイトターンが多い日本のワインディングが面白く感じるなんて、期待もしていなかっただけに強烈なインパクトだ。安定性やラップタイムばかりに気を取られているほかのホットハッチとはひと味違う。そこがメガーヌ R.S.の見どころの1つだろう。

 ただ、モードによって制御を変えられるのであれば、この4コントロールが解除できるモードがあってもよいような気もする。時には俊敏すぎて疲れると感じる可能性があるからだ。逆に言えば、それだけ刺激は強いのだ。

インテリアでは前後アルカンタラのシートを採用。シートエッジ、シフトブーツ、センターアームレストにはレッドステッチがあしらわれる
「コンフォート」「ニュートラル」「スポーツ」「レース」「パーソナル」という5つの走行モードを用意する「ルノー マルチセンス」。それぞれのモードに応じてメーターまわりの表示も切り替わる

明らかにライバルを引き離した

 新たな世界を構築できたのは、もちろん4コントロールだけが要因ではない。メガーヌ R.S.ではおなじみのDASS(ダブル・アクシス・ストラット・サスペンション)が、トルクステアも発生させず、しかもきちんとフロントの接地を稼いでくれるからとも言える。そもそも違和感のないフィーリングを実現できているからこそ、4輪操舵も自然に感じるのかもしれない。さらに、ダンパー・イン・ダンパーとも言える「HCC(ハイドロリック・コンプレッション・コントロール)」が路面を最後まで捉えるということもあるだろう。

 これはカヤバ製のダンパーなのだが、バンプラバーを持たず、最後の最後まで減衰することで、瞬間的な反力を発生させず、タイヤが路面に追従するのだ。引き締まった乗り味の中にもしなやかさがあり、ガツンとした瞬間的な入力を感じないその仕上がりは心地よく、どんな荒れた路面でも受け止めてくれそうな懐の深さを感じる。2014年式のメガーヌ R.S. トロフィーではフロントのみに採用されていたらしいが、今回はそれが4輪に備わる。だからこそどんなシーンでも対応できるようになったのだろう。

 最後に、心配の1つだった1.8リッターターボの仕上がりも、それを跳ね除けてみせた。最高出力279PS/6000rpm、最大トルク390Nm/2400rpmを発生させるこのエンジンは、トルクフルなだけでなく、伸び感も備わる心地よいフィーリング。レブリミットは7000rpmとなるが、そこへ向けた吹け上がりが際立っていたのだ。0-100km/h加速は5.8秒という確かな結果を残しながらも、最後は人間が感じる爽快感を備えたところは、さすがは走りのテイストにこだわりのあるルノーならではといっていいだろう。

直列4気筒DOHC 1.8リッター直噴ターボ「M5P」型エンジンは最高出力205kW(279PS)/6000rpm、最大トルク390Nm(39.8kgfm)/2400rpmを発生。JC08モード燃費(参考値)は13.3km/L

 決して世間に媚びたわけでもなく、新たな方向性を構築しようとした新生メガーヌ R.S.は、明らかにライバルを引き離したと言っていい。安全装備の充実などもあり、大きく重くなり、タイムを気にしてタイヤからシャシーまで充実させすぎた結果、日常では面白くないというクルマが多かった。だが、このクルマは明らかにそうではない。日常域もキビキビで面白く、それでいて限界域も高い。5ドアで2ペダル、しかもシャシースポールというスペックは、それでも新たな世界を見せられるというルノーの意地があったのかもしれない。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は日産エルグランドとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸