試乗インプレッション

セダンのような実用性と優雅なデザイン。BMW「6シリーズ グランツーリスモ」の魅力

優雅で力強い走りを堪能

クーペスタイルの伸びやかなシルエット

 なだらかな弧を描くルーフが与えられた美しいボディラインと、ゆったり座れる後席と独立したトランクルーム。こうしたセダンとクーペを融合させたモデルが市場に導入され10年以上が経過した。今回、ニューモデルとして登場した「6シリーズ グランツーリスモ」もそのカテゴリーに属する1台だ。直接的な競合車は、アウディでは「A7 スポーツバック」「S7 スポーツバック」、メルセデス・ベンツでは「CLS 450 4MATIC Sports」「CLS 220d」となる。

 試乗したのは6シリーズ グランツーリスモの「640i xDrive グランツーリスモ M Sport」だ。BMWでは3シリーズ グランツーリズモをラインアップしているため、6シリーズ グランツーリズモはその兄貴分にあたる。ボディサイズは先のアウディ、メルセデス・ベンツの同門とほぼ同じだが、美しいシルエットを保ちながらもキドニーグリルを配した端正な顔立ちなど、BMWシリーズにおける法則は維持されている。既存車種との差別化を図ることがこのカテゴリーにおける定石とされるなか、あえてそこはBMWらしさを誇張したと筆者は解釈した。

 搭載エンジンは直列6気筒DOHC 3.0リッター直噴シングルターボ(“ツインパワーターボ”という機構を説明する名称は継承)で、340PS/450N・mを発生する。トランスミッションはトルクコンバータータイプの8速ATを組み合わせ、xDriveと名乗る4輪駆動方式を採用した。ちなみに、現状のラインアップはこの640i xDrive グランツーリスモ M Sportと、国内導入を記念して販売されている全国限定40台の「Debut Edition」のみとなる。

 正直、筆者はこれまでこのカテゴリーのモデルに対して多少なりとも懐疑的なところがあった。それは、拡大したボディサイズによる取り回しや視界の悪化が考えられるからだ。合理的な設計思想のもとに完成したセダンボディをベースにしながら、優雅さを強調するために車幅を広げたこと(6シリーズ グランツーリスモの全幅は1900mm)で、日常の使い勝手の面でデメリットが生じているのではという点に最後までひっかかりがあったのだ。

 実際には、5シリーズ(セダン)の同等グレード比較ではわずか30mmしか全幅は広がっていない。しかし、運転席からの視界でいえば着座位置は高めで見晴らしは良好ながら、なめからなボディラインをまとっていることから、左前から左側方にかけての車幅感覚はその数値以上に大きくなったような印象を与える。

2017年10月に登場した「640i xDrive グランツーリスモ M Sport」(1081万円)のボディサイズは5105×1900×1540mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3070mm。エクステリアではフロントの大型キドニーグリルとヘッドライトユニットを接して配置することで、力強い存在感を表現。フラットなルーフデザインに加え、フレームレスドアウィンドウ、エアブリーザー、可動式リアスポイラーなどを採用して洗練されたスポーティさを表現するとともに、クーペライクなルーフラインがエレガントさを高めている
パワートレーンは直列6気筒DOHC 3.0リッター直噴ターボエンジンに8速ATの組み合わせ。最高出力250kW(340PS)/5500rpm、最大トルク450N・m(45.9kmf・m)/1380-5200rpmを発生し、JC08モード燃費は10.9km/Lとなっている

 その一方で、優雅なデザインから所有欲はかき立てられ、実際オーナーとなった際は美しいボディラインに心は満たされることと思う。実用一点張りがクルマの魅力ではないわけだし、自分好みのクルマとともに人生を楽しむことができれば、それはとても幸せなことだ。

 また、こうしたセダンに近い実用性と、優雅なデザインの両立を好むユーザー層は確立されているわけで、だからこそ世界的なSUV人気の横でこうしたカテゴリーが支持されており、今回の6シリーズ グランツーリスモのように新型車が導入され続けているわけだ。

インテリアでは高めのシートポジションとドライバー・オリエンテッドなコックピットデザインを採用。タッチパネルやジェスチャーコントロールが備わる「iDriveナビゲーション・システム」などを採用するとともに、安全機能・運転支援システム「ドライビング・アシスト・プラス」も標準装備
リアシートは40:20:40の分割可倒式で、ラゲッジルームの容量は610L~1800Lに広げることができる

走りはどうか?

 では、その優雅さは走行性能にも現れているのだろうか? 結論からすると、とても優雅で力強い走りを堪能することができた。20~30㎞/h程度でしずしずと走らせている場面から、ワインディングロードを気持ちよく走らせている時まで、終始一貫して滑らかだから気持ちにゆとりが生まれてくる。また、良好な視界を提供する高めに設定された着座位置もそれを助長。こうした“ゆとり”は、上質な加速フィールを体感させるパワートレーンと、それに見合う洗練された乗り心地を提供する「4輪アダプティブ・エア・サスペンション」の相乗効果によってさらに高められ、結果、誰しもが実感できる分かりやすい性能として表現された。

 4輪アダプティブ・エア・サスペンションは、基準の車高から-10mm(120km/h以上)~+20mm(35km/h以下)までの範囲で走行中、自動的に調整する機構が設けられた。運転特性を任意に変更できる「ドライブ・パフォーマンス・コントロール」とも連動しているので、走行シーンに応じた減衰特性を任意に選択することも可能だ。6シリーズ グランツーリズモの同サスペンションは、基本的にドライブ・パフォーマンス・コントロールをハードな減衰特性になる「スポーツ・モード」を選択していても乗り味は徹底してフラットで、路面からの衝撃をじんわり吸収する特性だ。また、前述した通り着座位置が5シリーズと比べて高めであることから前方視界は良好。確かに、全幅が広いことから狭い道での離合では気を遣うものの、過去に導入されてきたセダンベースのクーペモデルとの比較ではその程度は最小限に留まる。

 先進安全技術にも触れておきたい。短時間ながら高速道路での試乗がかなったので、アダプティブクルーズコントロール(ACC)と、ステアリング&レーン・コントロール・アシストを連動させたSAEによる自動化レベル2の機能をテストした。改めて“使いやすいな”と実感したのは、HMI(ヒューマンマシンインターフェイス)であるステアリングスイッチだ。BMWが日本市場においてACCなどの運転支援機能を3シリーズをはじめとした普及価格帯のモデルに導入してから5年以上が経過しているが、現行7/5シリーズからステアリングスイッチのサイズが大きくなり、スイッチ操作した際の節度感が大幅に向上した。運転中、手のひらと指を少しだけスイッチ側へと移動させるだけでスイッチを注視することなく、各種の運転支援操作を行なうことができる。今回は、ステアリング操舵アシストがさらに滑らかになったことが確認できた。

 ちなみに筆者は以前、BMWの2輪車(1993年式のK100RS 4V ABS)に乗っていたことがある。1980年代初頭に設計されたその2輪車のハンドルスイッチは非常に独特であった。たとえば右ウインカーは右のスイッチを、左ウインカーは左のスイッチをそれぞれ前方に押すと点滅させることができ、キャンセルは自動的に行なわれた。任意で消灯させるには、右の別スイッチを今度は押し上げることで完了する。2輪車の場合も4輪車と同様に、なるべくハンドル(ステアリング)から手を放さないことが安全な運転操作につながることは明白だ。BMWは時代が求める新しい技術を積極的に取り入れながら、人に要求する操作ロジックは極力シンプルとし、誤解を抱かせない操作系統で完結させるという哲学をもっている。

 セダンの実用性を大きく損なうことなく、クーペの美しさを組み合わせた6シリーズ グランツーリズモは、伝統の直列6気筒エンジンと、しっとりとした乗り味を提供する専用設定が施された4輪アダプティブ・エア・サスペンションによって、独自の世界観の上に成り立つ優雅な走行性能を両立させた。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:安田 剛