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トヨタとホンダがタッグ、燃料電池バスを用いた移動式発電・給電システム「ムービングイー」を見てきた

互いにない製品の“共創”で災害時のエネルギー供給に貢献

2020年8月31日 開催

東京 青山のHonda青山ビルに、トヨタの燃料電池バス「CHARGING STATION(チャージングステーション)」が展示された

災害時のエネルギー供給についてトヨタとホンダがタッグ

 そもそもの始まりは2019年のスーパー台風によって引き起こされた千葉の大停電だった。電気不足に苦しむ自治体に対して、各メーカーは3・11の経験をもとに多くの電動車を千葉に集結させ、給電機能を活用し歓迎された。もちろん電動車だけで全ての世帯に電気が行き渡るわけではないが、緊急性の高い分野では有効な手段だ。

 しかし千葉の大停電は長引き、電気が枯渇する地域も続出した。千葉は高い山はないが丘陵地帯が続き、倒木や電柱が倒れるなど道路を塞ぎ、被災した民家までクルマがたどり着けないケースが出てきた。期待されたFCバスも航続距離の短さで遠距離地域での給電ができず、ベース基地の置ける場所が限られてしまった。

 一方、本田技研工業はバスやトラックのような大型のFCEVの生産は行なっていないので、手持ちの乗用車では運べる電気は極めて限定的だ。しかしバッテリーは長い経験があり、1985年から始まったインバーターの波形技術の開発が実を結び、いわゆる“キレイな電気”を供給することにかけては高い実績がある。例えば、コンサートなどでホンダのバッテリーから供給された電気で奏でられる音はミュージシャンにも好評だという。医療機器も正確に動かすためにはキレイな電気は重要で、厳しい法規規制があるものの技術的には使うことができる。

 燃料電池に秀でた技術を持っているトヨタ自動車は、乗用車だけでなく、産業用フォークリフトやトラック、船を動かすことが可能なノウハウを蓄積しており、すでに他社からも参入しやすいようにFC技術の特許も2万3740件を公開している。

 トヨタとホンダ、この2社は自動車では競合するメーカーだが、燃料電池やバッテリーの使い方、特に災害時のエネルギー供給についてはお互いに同志でもある。この2社は以前よりFCやバッテリーの使い方についての協議をしていたが、2019年の災害で意識が変わり、素早く次の行動に移った。

本来、トヨタとホンダは“競争”ライバルだが、今回のコラボは互いにない製品の“共創”という位置付け

電気を目的地まで運ぶバケツリレー

 今回、トヨタはFCバスを給電車として本格的に活用するためにFCバスをベースにして、FCユニット(MIRAIのもの)を2個から4個に増やし、給電できるチャージングステーションとして開発した。低床を活かして床下に水素タンクを9個積んでおり、その上に床を張ってフラットにして、後述するホンダのバッテリーパックを中型20個、小型36個を搭載し、それらを降ろしてからは休息所として使え、災害時の前線でベース基地の役割を果たす。

チャージングステーションの車内はくつろげる空間に仕上げた。チャージングステーションはトヨタのFCバスをベースにしており、広範囲に活動するために搭載水素量を従来の約24kgから約47kgとほぼ倍とし、航続距離は従来の200kmから約400kmに拡大。ボディサイズは1万555×2490×3340mm(全長×全幅×全高)

 航続距離も従来のFCバスでは200kmぐらいだったが一気に約400kmまで伸び、防災の前線基地をより被災地に近いところに置けるようになった。実際の運用としては水素ステーションから100kmぐらいまでのところにチャージングステーションを配置し、すぐに水素ステーションで燃料補給できる体制を整えて電気を常に供給する運用が好ましい。ちなみにこのチャージングステーションは、フルに能力を発揮すると50人が一般的に使う電気量を3日間賄えるという。

 一方、ホンダはキレイな電気を供給できるバッテリーを活用し、簡単に持ち運べる利便性を持たせた。つまりFCバスという井戸からバッテリーパックというバケツで電気を目的地まで運ぶイメージだ。これらのコンセプトは「Moving e(ムービングイー)」と呼ばれて、自走できるチャージングステーションをトヨタが担い、そこから先のバケツリレーはホンダが担う構造を作り上げた。

 FCバスでは電気の取り出し口は後部に1箇所持っていたが、チャージングステーションではそれを2箇所に増設し、直流300Vの電気をホンダの移動可能な給電機「Power Exporter 9000」に送り込む。1口あたりの容量は9kWなので合計18kWの出力がある。

チャージングステーションの外に並べられているのが、中型電源試作機のモバイルパワーパック充電・給電器「Honda Mobile Power Pack Charge and Supply Concept」。この中に電池交換式2輪向けバッテリー「Honda Mobile Power Pack」があり、着脱式のバッテリーを交換することで長時間にわたって使用できる
チャージングステーションから充電を行なっているのが可搬型外部給電気「Power Exporter 9000」。大型電気製品からパソコンなどの精密機器まで、さまざまな電気機器に最大9kVAまでの電力を供給できる
チャージングステーションの電気を取り出す給電口は、従来のFCバスの1口から2口に増設された
こちらは小型電源に位置付けられるポータブル蓄電機「LiBAID(リベイド)E500」

 Power Exporter 9000は変換機として一般家庭で使える交流100Vに変え、そのアウトプットを6口、200Vを1口備える。ここからバッテリーパックに充電することも可能だが、Power Exporter 9000から先、中型、小型の持ち運びできるパワーパックに電気を小分けすることで利便性が向上する。中型は「Honda Mobile Power Pack Charge and Supply Concept」と呼ばれるプロトタイプのモバイル充電給電器が計画されている。

 この中型バッテリーパックはPower Exporter 9000(1機)から24個が充電可能で、ここから電気の小分けが始まる。重量が51kgあるPower Exporter 9000に比べて、約20kgとスーツケースを引っ張るイメージだ。出力は1500Wあり、大きな冷蔵庫も動かせ、充電時間はおよそ40分になる。この規模のバッテリー容量だと、家庭にある電化製品はほぼ全て使えるので、非常時だけでなく、アウトドアでの活用も現実的になる。

 このプロトタイプの中型バッテリーパックの中にはさらに小型電池パックを2個収納しており、この電池パック2個でホンダの2輪電動バイク、リース用の「PCX エレクトリック」などに使用することができる。日本郵便などで使っている「BENLY e:(ベンリィ イー)」では午前中で次のバッテリーに交換して走るという使い方になっているが、2個の電池パックで約50Km走れるという。

 電気の持ち運びはいろいろな選択肢がある。さらに量産モデルとして小型で重量約5kgのポータブルバッテリー「LiB-AID E500」もあり、300Wの出力があるので電気が必要な場所、例えばスマートフォンの充電やLEDランプ、ラジオの音源などに活用できる。

中型電源試作機やLiB-AID E500を用いた、避難所でのプライベートスペースの活用例
こちらは在宅避難スペースでの活用例
N-VANを使った移動オフィスでの活用例
中型電源試作機に収まるのがHonda Mobile Power Pack

 Moving eは内閣府が提唱する日常的に使いながら非常時に活用する平時活用、有事利用で生活に溶け込めれば緊急時にもまごつかない。そのためにはもっとシステム活用のアイデアを集めて活用することが重要で、自治体だけでなく民生用に活用することが発展するキーになるだろう。