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GRヤリス、富士24時間でデビューウィン 開発ドライバーでもある石浦宏明選手「レースで徹底的にトラブルを洗い出すはずが、結果的にノートラブル」

2020年9月5日15時~6日15時 決勝

32号車 ROOKIE Racing GR YARIS(井口卓人、佐々木雅弘、MORIZO、勝田範彦、石浦宏明組)が富士24時間でST-2クラスをデビューウィン。開発ドライバーの石浦宏明選手に話をうかがった

 富士スピードウェイ(静岡県駿東郡小山町)で9月4日~6日、「ピレリ スーパー耐久シリーズ2020 第1戦 NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レース」(以下、富士24時間レース)が開催された。ST-2クラスでは、32号車 ROOKIE Racing GR YARIS(井口卓人、佐々木雅弘、MORIZO、勝田範彦、石浦宏明組)がクラス優勝。発売されたばかりのGRヤリスをベースとしたスーパー耐久車両が見事デビューウィンを飾った。

 このGRヤリスには、SUPER GTドライバーの大嶋和也選手や石浦宏明選手らトヨタ系のドライバーが数多く開発に携わっているほか、勝田範彦選手といったラリードライバーも加わっていることが知られている。GRヤリスのゴール後、GRヤリスの開発ドライバーでもあり、富士24時間レースで32号車GRヤリスをドライブした石浦宏明選手に話をうかがった。

ROOKIE RacingのドライバーとGRヤリス
チェッカーフラッグを受けるGRヤリス

──ST-2クラス優勝おめでとうございます。発売されたばかりのGRヤリスが見事デビューウィンしたわけですが、石浦選手としてはどのようなところを見せられたと思いますか?

石浦宏明選手:ありがとうございます。ROOKIE Racingのダブル優勝を見せられたと思っています。このクルマは、モータースポーツとかも意識してサーキットで市販車の開発メンバーも加わって開発してきました。

 発売したばかりですけど、ヤリスの性能も見せられました。

 本当はこの24時間レースで(GRヤリスを)痛めつけて、徹底的にトラブルを洗い出すっていう目的もあったんですけど……。結果的にノートラブルのレースとなりました。もちろんすごい準備をしてきて、スタッフの人たちも準備をしてきているのですが。

 普通の場合だと、ドライバーに対して縁石を踏まないようにとか、シフトをゆっくりやれとか、エンジン回さないとか注文があって走るのですが、今回はそういう(トラブルを出す)目的だったのでまったくいたわったりとかせずに、本当にガンガンガンガンいったんです。20時間ちょっと。

 それ(ノートラブル)が証明でき、予選でも速さを、ポールっていう速さを証明できました。決勝でもこうやって荒れた天候の中で、四駆のメリットを活かしつつ、ジェントルマンドライバーの代表のモリゾウ選手も楽しく走れて、ウェット路面の中においてST-2クラスで一番いいタイムで走っていたので、雨の中で速く走れるクルマであるということも証明できたのかなと。

 ジェントルマンドライバーが安心してスポーツをできるクルマっていうところも見せられたのかなと思います。

──GRヤリスの開発ドライバーとしてはどうですか?

石浦宏明選手:(開発ドライバーは)初めての経験でもあるので、GRヤリスがみなさんにとって、楽しめるクルマなのかとかいろんな不安もありました。そうした中で、スタッフのみなさんと本当に最後まで、みなさんがいいクルマだねって言ってくれることを信じていろんなテストをずっとやってきました。

 今、いろいろな方にGRヤリスを乗ってもらって、面白いって言ってもらって。最近YouTubeとかにもいくつか映像が出ていますが、自分たちもこうやって楽しめているので、正直ほっとしたっていう気持ちもあります。
 GRヤリスは、これからもっと世界中のモータースポーツに使われていくクルマだと思うので、みなさんが好きなように味付けして、サーキットだけじゃなくジムカーナとかいろいろなところで使ってくれたらと思います。


 石浦宏明選手によると、本来この24時間レースの参戦は、GRヤリスのトラブルを洗い出す目的にあったという。GRヤリスの開発を担当したトヨタ自動車 GAZOO Racing Company GRプロジェクト推進室 齋藤尚彦氏も、「24時間レースでデータを持ち帰っていただく」と語っており、車両開発の一環として参加したことを示唆していた。

 ところがGRヤリスは、その軽量コンパクトなボディと優れた4WD性能、そしてパワフルなエンジンを持っていることを実証し、ウェット路面でも好タイムをマーク。スポーツ4WDの代表である、WRX STIやランサーエボリューションXに打ち勝つことができた。

 数々の名車を生み出してきた日本のスポーツ4WDの一角にGRヤリスが加わったのは間違いないだろう。さらにGRヤリスの素晴らしいところは、今現在新車で購入できること。「作り手の意思がこもった多品種少量生産」「スポーツカーを作り続ける」というトヨタの強い意志のもとにGRヤリスは作られており、豊田章男社長はGRヤリスの発表会で、以下のような言葉を語っている。

「トヨタのスポーツカーを取り戻したい、ずっとそう思い続けてきました。86はラリーでもサーキットでも私の大事な相棒です。スープラもその名にふさわしいクルマとして、復活させることができました。ですが、やはりトヨタが自らの手で作るスポーツカーが欲しい。その想いがずっと私の心にはありました。WRCへの参戦も、そこで得た技術や技能を織り込んだトヨタのスポーツカーを作りたいと思っていたからです。WRCでチャンピオンを獲ったとき、欧州で我々の実力が認められました。勝てるクルマがあって初めて、本当の意味でのクルマ屋として、認めてもらえるのだと感じます。このGR-FOURは、世界で勝つためにトヨタが一から作ってきたスポーツカーです。その一からも、今まではトヨタは一般のお客さまが買うクルマを作り、そのクルマの中でレースに使えるように改造してまいりました。今度は違います。レースに勝つために、そこで出すクルマのために普段のお客さまに乗っていただくクルマはどうあるべきか? まったく逆転の発想で作り出したクルマが、このGR-FOURです」。

 モータースポーツで勝てるクルマでありながら、普段使いもできるクルマ。モータースポーツから生まれたGRヤリスは、それを一つ一つ実証していくに違いない。

ROOKIE Racingが開設しているインスタグラムのMCさん。ST-2クラス、ST-1クラスをダブルウィンしたため精力的にインタビューしていた