ニュース

自工会 豊田会長の会見詳報。自動車産業には「ホームプラネット」という概念が必要

自動車税引き下げについて語る

2018年12月20日 開催

一般社団法人日本自動車工業会 会長 豊田章男氏

自動車産業は「あてにされる産業」

 自工会(日本自動車工業会)は12月20日、12月度の会長記者会見を実施。この中で自工会会長の豊田章男氏は、2度目の就任初年度となった2018年に進めてきた自工会の取り組み、自動車産業が今後進んでいくべきと考える方向性、12月14日に発表された新しい税制改正大綱と自動車関連諸税などについて語った。

 冒頭で豊田会長は5月に会長に就任してから半年が経過したことを述べ、就任直後に行なった最初の会見で「最大の課題は何か?」と質問されたことに対し、「自動車産業があてにされる産業、そして日本の成長を引っぱっていく存在であることにこだわっていくこと」と回答したことを紹介。とっさに出たというこの「あてにされる産業」という言葉に自身の思いが詰まっていたと振り返った。

「自動車産業は決して成熟した産業ではなく、ましてや単に納税を生む存在ではございません。『CASE』と称される『電動化』『自動化』などの技術を進めていけば、クルマはその存在自体が社会システムの一部となり、人々の暮らしをさらに豊かにしていくものになっていけると考えております。それは、今まさに自動車産業そのものが、今までとは違う新しい産業にモデルチェンジしていこうとしていることだと思います」と豊田会長はコメント。

 ただ、その未来は現状の延長にあるわけではなく、自らの力で生まれ変わる努力が必要だと豊田会長は述べ、現在はその過渡期にあり、前回会長を務めていた期間に表現した「6重苦」もその産みの苦しみとなっており、それは次々と起きる逆境に耐えていく「受け身の苦しみ」だったと解説。これに対し、現在はモデルチェンジに向けた産みの苦しみになっていると語った。

 1967年に発足した自工会は、排出ガス規制や貿易摩擦といった個社では乗り越えることが困難な問題にオールジャパンで結束して取り組みべく結成されたことが説明され、この「個社ではなくみんなで」という姿勢が受け継がれ、競争と協調を持ちつつ、4輪、2輪の新車販売から整備、中古車販売などを含めた「オール自動車産業」として1枚岩に結束していくことにより、国から「戦略産業」として認められて「本当の意味でのオールジャパンになっていくことが必要」と述べた。

12月度会見の登壇者。左は一般社団法人日本自動車工業会 副会長の永塚誠一氏、右は豊田会長

「ホームプラネット」という概念が必要に

 自動車産業は日本国内に止まらず、世界のさまざまな国でビジネスを行なっていると豊田会長は語り、各地の経済や人々に求められる存在でありたいとの思いから「ホームカントリー」「ホームタウン」との考えで進めてきたとしつつ、これからの自動車産業では「ホームプラネット」という概念が必要になってきているとコメント。

「『CASE』が進んでいけば、そのつながりの中で国境という概念は薄れていきます。また、空を見上げれば空に国の境はなく、地球規模になっている環境問題など、われわれのふるさとである『ホームプラネット』への思いを持って考えていかなければなりません」と豊田会長は説明した。

 さらに自動車が「あてにされる産業」であるために必要なこととして、豊田会長は「もっとクルマに乗ってもらいたい」との考えを示し、そのためにはユーザーが乗りたいと感じるようなクルマ作りを個社で進め、自工会ではクルマに乗りやすい環境作りとして「抜本的税制改革の必要性」を訴えてきたと説明。この取り組みの結実として、12月14日に「平成31年度与党税制改正大綱」が発表され、この中で歴史上初めて「自動車税減税」が恒久減税として盛り込まれたことを紹介。「自動車ユーザーのためにという思いを業界内だけでなく、行政の皆さまを含め関係者みんなで共有できた結果であるとあらためて感謝申し上げます」と豊田会長はコメントした。

 また、モータースポーツもクルマやバイクの魅力を伝える大きな力を持っていると豊田会長は紹介。2018年に行なわれたル・マン24時間レースで、2輪は本田技研工業、4輪はトヨタ自動車が勝利を収めたことを例に挙げ、日本代表として認識されるクルマやバイクが頑張る姿も自動車産業に期待が寄せられる一因になるとした。

 最後に豊田会長は「クルマに乗りやすい環境が整っていき、多くの人に『もっとクルマに乗りたい』と思っていただき、たくさんのお客さまがクルマに乗り、多くのクルマがお客さまの『愛車』になっていく。来年の2019年はそんな年にしていければと考えております。そしてさらにその先の未来、クルマが社会システムの一部としてさまざまな人の暮らしをより豊かにしていく。そんなモビリティ社会に向けて大きく歩みを進めていくのも2019年だと思います。もっともっと自動車産業があてにしていただけるよう自動車工業会は取り組んでまいりますので、今後もご支援、ご協力をよろしくお願いいたします」とコメントして締めくくった。

 このほか、会見の冒頭では2018年の自動車産業について取りまとめた動画が放映されている。

自工会「日本の自動車業界 2018年の活動について」(7分36秒)

減税額は全部で1300億円だが、依然としてユーザー負担は高いと豊田会長

質疑応答で回答する豊田会長

 後半に実施された質疑応答では、自然災害や自動車メーカーでの不祥事が多数発生した2018年の振り返りと東京モーターショーも行なわれる2019年に向けた意気込みについて質問され、豊田会長は「2018年を振り返ってどうだというところですが、今年は平成最後の年になると思っております。あらためて平成はどんな時代だったかと言いますと、平成元年に国内(新車)市場は過去最高の市場規模を記録して、それ以降はずっと右肩下がりという時代だったと思います。その意味で『試練と変革』の時代。その間に東日本大震災にはじまり、各種の自然災害に直面してきたとも思います。その意味で、われわれ日本のメーカーは、日本で生きていくことの厳しさ、そしてありがたさをあらためて感じたのが2018年だったんじゃないかと思います。ひと言で言うと『日本のもの作りを必死に守り抜いてきた30年』であったし、2018年は自然災害然り、日本のもの作り然りで、いろいろな局面で現在、過去、未来において、いろいろな形で『守り抜き』と『チャレンジ』が明らかになった年だったんじゃないかなと思っております」とコメント。

 先だって発表された税制改正大綱についての質問に対しては、「税制改正ですが、先だって決定された直後に自工会会長としてコメントを出させていただいております。そちらでも申し上げたとおり、自動車税に歴史上初めて恒久減税の決断をいただいたことには、お骨折りいただきましたいろいろな方にまず感謝を申し上げたい。もう1つの感謝は、今回は対立軸を作らず、ユーザー目線の1枚岩で『世界一高い自動車税』をどうにかしてください。携帯電話よりも、税金だけで高い1年の出費をどうにかしてください。複雑すぎる税制をどうにかしてください。といったところを解決してほしいというところにワンボイスで動けた点です。これまでだと『軽自動車対登録車』『車体課税対地方財源』といったいろいろな対立軸があったかと思います。それが(なく)ワンボイスでできた点で関係各者に感謝申し上げたいと思います」。

「ただ、今回は全部で1300億円の減税額ということでありますが、これが高いのか低いのかというところになりますと、自動車産業の税収貢献を試算すると、国税と地方税の税収を合わせますと約102兆円になります。その中で車体課税関連では8兆円とよく言われていますが、企業や就業者、ユーザーさまが税収にどれだけ貢献しているかを言えば、ざっと15兆円ぐらいになります。ですから、15兆円の中の1300億円で、仮に満額が達成されたとしても1%ちょっとの金額でございます。お願いしてきました『世界一高い自動車税をどうにかしてください』ということに関しましては、保有段階における税金負担の比較で、イギリスと比べて日本は2.4倍でしたが、今回(の税制改正)で2.2倍。ドイツに対しては2.8倍だったのが2.6倍。アメリカにおいては30倍が29倍ということで、下がってはおりますが微減で、依然として高い税金をユーザーが負担していることは変わりございません」。

「携帯電話(との比較)はどうかという点ですが、携帯電話の使用料に対してクルマを1年保有した時の税金を比べてどうかを申し上げているのですが、これもほぼ変わっておりません。ただ、携帯電話はお国の方から指導がありますので使用料がおそらく減っていくと考えますと、今までは2倍と申し上げていたところが下手をしたら3倍とか4倍になってしまうような状態です」。

「それに複雑さはどうなったか。皆さま方のメディアで今回の税制改正についてご説明いただきました。正直、私自身もどれを見ても分かりづらいと感じる複雑さで、この税金がどうなるかについて販売の現場で説明するセールススタッフは、さぞや大変だろうなというのが実感です。唯一言えることは『恒久減税』でありますので、今までのクルマに乗っておられた方よりも新たに買い換えていただく方に税金のメリットがあるということは理解していますが、それ以外はまだ複雑怪奇でよく分かんないなというのが現実でございます。その意味で、対立軸がないと申し上げましたが、唯一対立軸があったとすれば、自動車産業を『納税産業』と見ている方か、または『戦略産業』と見ているかという対立軸はあったような気がいたします」。

「100年に1度の大変革が自動車業界に襲ってきているわけですが、自動車会社だけで変革は起こせません。これからのクルマは街とつながり、人々の暮らしを変えていく社会システムになっていくと考えています。自工会といたしましてはこうした変化の中、中小企業を含めた幅広いすそ野を持つ自動車産業全体のサプライチェーンを守り、雇用を守り、地方経済を守っていくことが大切と考えております。地球温暖化や大気汚染、エネルギー問題など解決すべき課題はたくさんあります。日本の自動車産業が新たな環境技術の開発にこれまでも積極的に取り組んできて、『技術は普及してこそ初めて役に立つ』という面もあります。今までの税制によって、結果として日本は電動化率でノルウェーに次いで世界2位の先進国です。この先進国が、今後の電動化といった『CASE』に向かってどんなモビリティ社会を作り上げるのか。このあたりをお国と共に議論をしながら、皆さんが笑顔になり、かつ元気が出るようなモビリティ社会を作っていく必要があるんじゃないかなと思っております」と豊田会長は回答した。

 また、税制改正大綱に含まれていた「走行距離に応じた課税」という点について質問された豊田会長は「走行課税でございますが、これは中長期的に見ていくということですが、先ほども申し上げたように、今までの『エコカー減税』などは結果として日本を電動化率で世界2位の先進国に持ってきたと思うんですね。ですから、市場がどのようになるかは税制が大きな影響を及ぼすと思います。今後、走行税といった『使っている人がよりお金を払わなければいけない』ということは、先方の論理としては、道路はたくさん使っている人に補修などのお金がかかりますということでしょうが、それはあくまでも「納税産業」と考えている方々のお考えで、(自動車を)『成長産業』『戦略産業』として考える場合は、今後の道路というものは、例えば『CASE』の自動運転や水素自動車や電気自動車で、自動車会社がクルマを作ればいいというだけではなく、インフラとの相性というか、シンクロで開発を進めていくことが大変重要な点になります。その意味で、自動車が未来のモビリティ社会に変わっていくために、インフラや他業界との連携を含め、まだまだいろいろな課題を解決していかなければならないという中で、働いている人からさらにお金を取るということには断固反対していきたいと思います」。

「もしそれが必要であるとされるのであれば、(車体課税関連の)8兆円のうちの4兆円は自動車ユーザーに還元された税金の使われ方がしていますが、残る4兆円は一般財源に入っております。このへんも自動車ユーザーに納得のいくご説明をいただかない限り、また、日本が世界に先駆けてどんなモビリティ社会を実現したいのか。それに相まった税制ということは、われわれ民間側も提言はしてまいりますが、ぜひとも政府におかれましては、どちらかというと『ホームプラネット』というような考え方でいっていただきたいと思っております」と回答している。