東京オートサロン 2019

【東京オートサロン 2019】サブブランド“AMR”の目指す方向性は? チーフエンジニア マット・ベッカー氏に聞く

「『ラゴンダ』についてはまだ内緒(笑)。競合の多い市場に投入する『DBX』が今一番のフォーカス」

2019年1月11日~13日 開催

「東京オートサロン 2019」に初めて出展したアストンマーティン・ジャパンのブースで展示された「DB11 AMR」

 アストンマーティン・ジャパンは、1月11日~13日に開催された「東京オートサロン 2019」において初めてブースを構えた。そこには「DB11 AMR」が展示され、日本においてもサブブランドの「AMR(アストンマーティン・レーシング)」訴求の意気込みが感じられた。そこで、アストンマーティン・ラゴンダリミテッド ビークルエンジニアリング チーフエンジニアのマット・ベッカー氏が来日したのを機に、AMRについて、そして間もなく登場する予定の「DBX」について聞いた。

GTのフレーバーを残しながら、よりドライバーズカーに

アストンマーティン・ラゴンダリミテッド ビークルエンジニアリング チーフエンジニア マット・ベッカー氏

――まずはAMRと通常のカタログモデルとの違いはどういうものなのでしょう。

マット・ベッカー氏:特に動的性能やエンジン性能の向上、排気音、スタイリングあたりで差別化をしています。

――そもそもなぜAMRブランドが必要なのですか。

ベッカー氏:意図としては、ロードカーとレースカーのつながりを表現したかったのです。カタログモデルはエレガントなイメージに対して、よりわくわくさせるような、高揚感が持てるような仕上がり。お客さまから見ると、GTとしてのフレーバーは残しつつ、(AMRという)選択肢が増えたという考えです。

――AMRというブランドとして必ず達成しなければいけないことは何でしょう。

ベッカー氏:より一体感があるクルマです。われわれにとってAMRはドライバーズカーですから、よりドライバーが一体感を覚えるクルマになっていなければいけません。

 DB11 AMRでは排気系のフラップがオプションであります。ドライバーによってはより大きな排気音で一体感を覚える方もいるでしょう。あるいは、保守的な人は閉じたままで運転するかもしれません。私としてはおとなしく運転したいと思いますけどね(笑)。

――今後、アストンマーティンの他のモデルにもAMRモデルは追加されていくのでしょうか。

ベッカー氏:将来的にはそうなっていきます。

――「ラピード AMR」が2018年にローンチされていますが、4ドアモデルと今回のDB11 AMRのような2ドアモデルとで、開発するうえでの違いはありますか。

ベッカー氏:あります。DB11と比べるとラピードの方が通常のモデルとの差別化がよりされています。一方、DB11 AMRとラピード AMRの共通点としては、シャシーや排気音のチューニング、ボディデザインにおいて共通のコンセプトを持たせています。そうすることで、よりドライバーが一体感を感じられるようにしているのです。

より理想を求めたDB11 AMR

――今回の東京オートサロン 2019でお披露目されたDB11 AMRを開発するにあたって、レースカーからインスピレーションを得た部分はあるのでしょうか。

ベッカー氏:カラーやデザインにおいてインスピレーションを得ていますが、クルマの開発やチューニングはあくまでもわれわれ内部のロードカーの開発者の考えを反映しています。

 その開発の方向は、動的性能やビジュアル、排気音において、より一層ドライバーとの一体感を高めることです。当初のDB11のV12に遡ってみましょう。個人的に100%満足できていない側面がありましたので、私が初めて開発に関わったDB11 V8は、動力性能を向上させました。初期のDB11のV12に学んだ多くのことをV8に反映しているのです。しかし、V8がV12より優れたクルマであってはいけませんよね。そこでアンディ・パーマーCEOがこのままじゃダメだということで、V8よりもさらにより優れた、上に行くクルマを仕上げました。それがこのDB11 AMRなのです。

 ただし、ここでポイントなのはDB11 AMRを極端なクルマにはしたくなかったということです。あくまでもGTカーですから、例えばスプリングレートはDB11 AMRとDB11 V12は全く同じものを採用し、乗り心地を確保しています。

――スプリングレートは同じであってもハンドリング性能が向上していたり、エンジン出力が向上しているということです。具体的にどういったところを変更することによってそれらを達成しているのでしょう。

ベッカー氏:例えばシャシーにおいてリアサブフレームのブッシュの横剛性を上げています。また、ショックアブソーバーをチューニングすることによって、よりハンドリング性能をアップさせているのです。フロントのアンチロールバーも剛性を上げています。さらにGT、スポーツ、スポーツプラスモードの3つのドライブモードをより最適化し差別化してもいます。

 排気系も違うものを採用しました。これによって高回転域でより音圧が高い特性を出していますし、アクセルOFFをした際にはより大きいアフターバーンが聞こえるでしょう。

DB11 AMRは、ドライバーとの一体感を高める開発を行なったと語ったベッカー氏

標準車の延長線上でより希少性を求めて

――アストンマーティンのサブブランド、AMRの競合はどこを想定していますか。例えばBMWにはM、メルセデス・ベンツにはAMGがあるように、それと同じようなスタンスと考えてよいのでしょうか。

ベッカー氏:そうとも言えますが、ただ、残念なのはメルセデスの場合にはAMGをすべてのモデルに“バッヂ”を貼ってしまっていますし、BMWも“M Sport”のバッヂを同じように乱用してしまい、希少性がなくなってしまうと思っています。一方、われわれのAMRはもうちょっと特別なもので、個性的なものでもありますので、バッヂをどんどん貼って増やしていくものではありません。

――その特別なものというのをもう少し具体的に教えてください。

ベッカー氏:やはり先ほども言ったように、デザインであったり排気音であったり、また走行性能が明らかに通常のモデルとは違うということです。メルセデス・ベンツやBMWもそうですが、ホイールやトリムを変えた程度です。一方、われわれは明らかに標準モデルとは違うものを開発しています。

――例えばAMGでは独自のモデルとして「AMG GT」などを出しています。そういったことをAMRでは考えていかないのでしょうか。

ベッカー氏:確かに「AMR PRO」というモデルもありますが、これはあくまでも少量生産なので主流ではありません。AMRは標準モデルの延長線上にあると考えていますので、例えば旧「ヴァンテージ」にAMR PROモデルはありましたが、少量生産でしたので非常に特別なクルマだったのです。ただし、今後はそのようなオプションを提供していこうとは考えています。

DBXは競合をしっかり研究し、よりエキサイティングに

――ここからは今後のアストンマーティンについて教えてください。まもなくSUVモデルであるDBXがデビューするようですし、「ラゴンダ」も出てくると聞いています。そういったクルマたちについて答えられる範囲で、特にベッカーさんが担当するエンジニアリング面で教えてください。

ベッカー氏:ラゴンダについてはまだかなり先の話ですから内緒です(笑)。今一番のフォーカスはDBXです。特にこのクルマは競合の多い市場に投入することになります。いま最も難しい問題は、これほど大きくて重いクルマで、目標としている動的性能を達成できるかということです。しかし、われわれには優秀なエンジニアがいますのでなんとかできると思っています。

「ラゴンダ」については「まだ内緒」と語ったベッカー氏。現在最も注力しているのはブランド初のSUVモデル「DBX」だという

――確かに競合が多い市場ですね。その中でアストンマーティンとしての差別化はどのように考えているのでしょう。

ベッカー氏:ポルシェ「カイエン」の新旧、アウディ「Q7」、ランドローバー「レンジローバー スポーツ」など数多くのベンチマーキングを行なうことによって、ここはいいとかここは駄目だというところが分かってきました。そして、その中でわれわれが気に入った要素はどんどん取り込んでいって、気に入らないところはわれわれ自身が改良できると考えていきました。

 一例としてポルシェ「カイエン ターボ」は非常に優れたクルマですが、運転した際や排気音を聞いた時にエキサイティングな気持ちにはならなかったのです。その点ではそれを超えるために運転して、排気音を聞いてエキサイティングな気持ちになるクルマを目指しています。そしてもちろんより美しいクルマ、これが重要なのです。

――アストンマーティンはSUVであっても、これぞアストンマーティンだというハンドリングや性能が備わっているクルマと想像し、期待してしまうのですがいかがでしょう。

ベッカー氏:もちろんそうですし、そうでなければわれわれがちゃんと仕事をやっていないということになってしまいます。アンディ・パーマーCEOから文句が出てしまいますよ。彼もかなり期待をされていますからね。

内田俊一

AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー 25 バカラと同じくルノー 10。

Photo:内田千鶴子