今回は現在公開中の映画『しあわせな選択』を語っていこうと思います。毎度の事ながらややネタバレ注意です。

イントロダクション
去年のベネツィア国際映画祭で話題を呼んだパク・チャヌク監督最新作。賞レースを席巻か?みたいな記事を読んだ気もしますが、あれ?どうだったかな?
製紙会社に勤めるサラリーマンのマンス(イ・ビョンホン)は25年勤めた会社を突如解雇される。妻と2人の子ども、2匹の飼い犬を養うために一刻も早く再就職先を見つけたいものの就職活動は難航。このままでは自宅の一軒家を売りに出さないといけない状況に陥る。追い詰められたマンスは、自身を雇ってもらうために現状雇われているポストの人間を消し、空いたポストを狙うであろうライバルをも殺してしまう事を思い付く。
監督はパク・チャヌク。私の好きな監督の一人です。前作『別れる決心』からもう3年も経つんですね、早いなぁ。『オールド・ボーイ』(2003年公開)や『お嬢さん』(2016年公開)などの傑作が並びますが、どの作品もエロやフェテッシュさを品良く見せるのが特徴かと思います。今回はそのフェテッシュさをコミカル見せる事をやっていたように思えました。
主演はイ・ビョンホン。チャヌク監督とは『JSA』(2000年公開)と『美しい夜、残酷な朝』(2004年公開)で組んでいますが、それらも含めて『悪魔を見た』(2010年公開)や『KCIA 南山の部長たち』(2020年公開)など良作映画への出演が多いんですよね。でもハリウッド作品となると『G.I.ジョー』(2009年公開)みたいな何だかパッとしない役どころが多いのは気のせいか…いや気のせいじゃない!これは多分ハリウッドが悪いんです。とは言え『マグニフィセント・セブン』(2016年公開)は割と好き。
この社会は蹴落とし合い
さぁ上半期公開作品で一番期待していた作品のお出ましです。という事でちょっとバイアスが掛かった状態で観ているので悪しからずと言いたいところですが、非常にシニカルでパンチの効いた作品だったと思います。
イ・ビョンホン扮するちょっと情けないおっさんがどんどん狂気に憑りつかれる様やチャヌク作品らしい妙にフェテッシュでケレンたっぷりなシーンもあるので、前半は結構クスクス笑いながら観ていられたんです。しかし後半に差し掛かってくると段々と笑顔は消えていき”あぁ…心当たりがぁ…”みたいな複雑な気持ちにもなってきます。
本作で核となる「ライバルを殺す」というのは、フィクションだからこその極端な表現であって、誰しもがライバルを蹴落とす行為によって社会的地位を築いている事に気づかされます。なにも国会議員や大企業の取締たちの間の権力闘争に限った話ではありませんよね。就職や受験といった多くの人が経験であろうイベントでも僅かなポジションの奪い合いが行われています。自身がそこへ就職/入学できたという事は誰かが争いに負けて蹴落とされた事を意味しますから。こうした争いを「仕方ない」と切り捨ててしまうのが社会システムの常識。しかし本当に「仕方ない」で済まされるのでしょうか?それでは済まされない極限状況の人だって居るはずなのに…
だからこそあのチェロを弾く事しか出来ず、少し社会性に欠ける娘さんはそんな社会的なシステムから逸脱した存在に写ります。特出した才能を生まれながらに持っていれば"社会の殺し合い"に参加する必要はないのかもしれません。はぁー皮肉だぜ。
まとめ
以上が私の見解です。
チャヌク作品の中で最も現代への風刺が効いた作品だったかと思います。復讐や愛憎をテーマにした作品が多い印象ではあるのでかなりの変化球だったようにも思えます。でもあのセルフ抜歯のシーンね、あれは『オールド・ボーイ』を思い出しますよ。『お嬢さん』の指切りシーンもそうですが、暴力シーンをやたら痛そうに撮るの好きだもんな。決してグロテスクな感じではないので、ここも品の良さなんでしょう。あぁそうか『禍々女』の時にも品についてをテーマにしクサしましたが、原因はチャヌク作品にあったのかも。
という事でこの辺でお開きです。ありがとうございました。