
☆ネットフリックスでは現在、ドラマ版「正体」と映画「正体」の両方が配信され、そして映画館ではミニシアター系で上映中、あるいは上映を控えています。映画は昨年12月に、ドラマ版は2月初めごろに観ました。違いを少し考えてみました:
★WOWOWのドラマ「正体」(亀梨和也主演)は、時間にして4回で約200分。映画「正体」(横浜流星主演)は約120分。一番大きな違いは年齢です。ドラマは逃亡時32歳、映画は21歳。冤罪で死刑判決を受けるのが映画では3年前の18歳なので、ドラマでは29歳ということに。結末は、警官の銃弾で命を失う小説とは違ってどちらも救いがあります。
ドラマは主演の亀梨さんの実年齢に寄せた結果なのか、32歳の逃亡者で、原作通り様々な人との関りの中で、濡れ衣の「殺人犯」の『正体』である人柄を丁寧に描き「冤罪」の惨さを訴えます。
一方、映画では、年齢は原作通り。冤罪で死刑囚となった18歳から大人になって社会に出る大事な時期の4年間を失った鏑木が、逃亡中に初めての人生体験・社会体験を重ねていく過程が描かれていて、養護施設育ちで高校三年生だった鏑木のビールや焼き鳥の初体験には、視聴者は父性や母性の眼差しで鏑木を見てしまうのではないかと思います。
☆もう一つの違いは、追いかける側。ドラマでは又貫刑事は鏑木を犯人として追っているだけで人物の内面を取り上げていません。映画では原作と違って、執拗に追いかける又貫刑事(山田孝之)はセリフは少ないのですが、映画の大切なテーマでもある「なぜ逃げた?」という問いかけをして、上司の命令に反して誤認捜査であったこと(すなわち冤罪)を認め、鏑木が無罪判決を受ける法廷では傍聴席に座っています。
一方、登場場面は一度きりですが、上司の刑事部長(松重豊)が警察権力の惨さを一身に体現して凄味があります。18歳の殺人犯の見せしめとして死刑を という『大儀』のもと鏑木慶一という個人は問題では無いという非情さで冤罪が仕立て上げられます。最近の大河原化工機事件もこんなだったのではと思わされて現実味があります。因みに、日本の有罪率は99.9%。警察に疑われた時点で有罪と思えるほどです。
☆鏑木は逃亡中、姿を変えて様々な職業に就きながら自分の無実を証明してくれる目撃者を探す逃避行を続けます。その間に築かれた人間関係は、映画では主に面会の場面で、面会に訪れた人たちの短い言葉とガラスの仕切りの向こうでそれを受け止める鏑木の表情で描かれます。パンフレットによると、沙耶香(青)、和也(緑)、舞(赤)を足すと白(鏑木)になるという色設定があるそうです。光の三原則ですね。確かに撃たれた後の最初の場面の鏑木が真っ白なウエアで現れるとハッとします。それまでは灰色っぽい衣装ばかりでした。複数回観る場合は色に注目しても面白いかもしれません。
暫く一緒に暮らした安藤沙耶香(吉岡里穂)を中心に逃亡中の鏑木と関わった人たちで署名運動が起こり、又貫刑事の決断で再捜査、再審の道が開かれます。そして、最終場面、法廷で無音の『無罪』判決に喜ぶ傍聴席のゆかりの人たちと、無罪判決を受けて戸惑いと喜びの表情を浮かべる鏑木の顔のアップで映画は終わります。

・結果として映画は「この世(人)は信じるに値する」ということを描いていると受け止められます。原作では『死』で断ち切られる冤罪の苦しみでしたが、映画では「冤罪の苦しみを生きる」姿が描かれます。原作者の染井氏が映画の中で無罪が言い渡される法廷の傍聴席に座って撮影に参加されていますが、「映画は小説のアンサーだ」とか「救われる」と仰っているのは、この事かなと思います。
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サンスポ
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