
原題の「Leonora Addio」(イタリア語で「さらば、レオノーラ」 )は
ヴェルディのオペラ「イル・トロヴァトーレ」からの引用で
お互い血縁関係にあることを知らない
吟遊詩人のマンリーコと、兄のルーナ伯爵が
同じ女性(レオノーラ)を愛してしまい
それぞれが持つ愛と、正義のために争い
悲劇をもたらしてしまうという物語(らしい)

タヴィアーニ兄弟といえば「二人でひとつの頭脳」と呼ばれるほど
常に一体となって映画製作を共にしてきたものの
兄ヴィットリオが2018年に88歳で逝去し
弟のパオロが91歳で初めて単独で監督をてがけたというのが本作
デジタルならではのモノトーンの使い方が実に洒落ていて
映像センスの素晴らしさは全く衰えていません

物語はノーベル文学賞を受賞した文豪ルイジ・ピランデッロの遺灰を
戦後になりローマから故郷のシチリアへ運ぶというものと
ピランデッロの遺作短編「釘」のショートムービーの2部構成になっていて
パブロの遺作ともなっています
難解だと評されていますが、私はたぶんパオロ・タヴィアーニからの
反戦へのメッセージだと思うんですね
薄れゆく戦争の記憶への警笛

不条理劇の先駆けと言われているピランデッロの
人間のアイデンティティを洞察した著書の数々は
今なお学界、映画界、演劇界などに多大な影響を残しているそうです
一方でイタリアファースト、イタリア民族主義者として
一時期はバリバリにムッソリーニを支持していたファシストだったということ
(のちにファシスト党を脱退し非政治的な信念を表明している)
だけど民族や宗教の争いや差別は、人間を幸福にしただろうか
その反省が「釘」なのではないかと

1936年ローマ、ピランデッロが69歳で死去
彼は自分の遺灰を散骨するか
故郷シチリアのアグリジェントの岩に中に収めて欲しいと遺言を残しますが
(ムッソリーニが彼の名声を利用しようとしたため)遺灰はローマに留められます
第二次世界大戦後、連合軍によりローマが解放されると
ピランデッロの遺志を尊重しようという動きがはじまり
遺灰はシチリアへ戻されることが決まり
アグリジェント市から派遣された特使が遺灰を引き取りにやって来ます

しかしアメリカ軍の飛行機では(死人と一緒なのは)縁起が悪いと搭乗拒否され
列車では遺灰の入った箱がなくなったり
(乗客がカードゲームをするために拝借していた)
イタリア人男性と言葉の通じないドイツ人女性の夫婦が突然エチしだしたり
やっとシチリアに辿り着いたと思ったら
上級司祭が(ギリシャの骨壺に入っているから)祈りを捧げたくないと言い出し
遺灰をシチリア式の骨壺に入れ替えることになりますが
こんどは壺が小さすぎて大量の遺灰がこぼれてしまいます
(こぼれた遺灰を新聞にくるんで持ち帰る特使)
上級司祭が若い司祭たちに尋ねる
「ピランデッロを読んだことがある人はいますか?」
ひとりが「隠れて読んだことがあります」
さらにその後「告解(こっかい)」 したことを打ち明けます
つまり告解(懺悔)しなければならない内容だということなのでしょう(笑)

すると老いた司祭がこっそり上級司祭に
「私は読んだことがあります」「老人と若者」と伝えます
「銘文を覚えているか?」
「私の子どもたちへ、今若く、明日は年老いる」
この銘文が冒頭の臨終の床で
ピランデッロが3人の子どもに囲まれるシーンに繋がっていたんですね

棺桶屋では死人が多くてこども用の棺桶しかないと言い
その小さな棺桶の葬列を見た住民たちが「小人の葬式だ」と笑いだす
さらに岩を削り骨壺を収める墓をつくるのに何年もかかってしまうという
ピランデッロにとって悲劇なのか喜劇なのかわからない結末になってしまいますが(笑)
ラスト遺灰が海に撒かれるシーンではカラー映像になり、美しい青い海が広がります
まるで平和の象徴のように

そこから舞台は、シチリアからニューヨークにやってきた移民一族が
ブルックリンで開業したイタリア料理店に変わり
父親と共にやってきた少年は仕事も英語の覚えも早い
バンドの音楽にあわせてダンスを披露したり客を喜ばせる才能もあります
店は大繁盛、自慢の息子ですね

ある日の休憩時間、少年がぶらぶら散歩していると
1台の荷馬車が大きな鉄釘を落としていきます
その釘を拾って眺めていると、激しく喧嘩するふたりの少女が現れます
ひとりは背が高く、少年と同じような褐色の肌と黒い髪
ひとりは背が低く白人の赤毛でした
少年はふたりに近寄ると、赤毛の少女を持っていた釘で刺し殺してしまいます
黒髪の少女は逃げ、少年は警察に捕まります

警察で何を聞かれても「定めだ」としか答えない少年
釘が落ちたのも「定め」
少女を殺したのも「定め」
しかし警察署で赤毛の少女の遺体を見た少年は
刑期を終え出所したら毎年墓参りをして罪を償うことを誓います
そして約束通り大人になった少年は少女の墓を訪れ
墓の前でみるみるうちに年老いていくのでした

フィンランド人が「つり目」ポーズの写真をSNSに投稿したことが
アジア人への差別的ジェスチャーだと騒動になっていますが
(それだと日本人のお笑い芸人が、白人のモノマネをするとき
付け鼻を付けるのも差別になりますね)
欧米では赤毛も差別や虐めを受けることが多いらしく
(古くからキリスト教の聖書などで)裏切者のユダや
カインが赤髪で描かれていることから
赤毛は不吉な異端児とみなされてしまうそうです

少年は思わず赤毛の少女を殺してしまいます
彼女がどういう人間か知ってるわけでも
恨んでいるわけでもないのに
やがて少年は自ら破壊し破滅することでしか
献身的な愛を生み出す方法を覚えられなかったことに気付くのです
【解説】映画.COMより
イタリアの名匠タビアーニ兄弟の弟パオロ・タビアーニが兄ビットリオの死後初めて単独でメガホンをとり、ノーベル賞作家の遺灰を運ぶ波乱万丈な旅の行方を、美しいモノクロ映像と鮮烈なカラー映像を織り交ぜながら描いたドラマ。
1934年にノーベル文学賞を受賞した文豪ルイジ・ピランデッロは自分の遺灰を故郷シチリアへ移すよう遺言を残すが、独裁者ムッソリーニは彼の名声を利用するため遺灰をローマに留め置いてしまう。戦後、ピランデッロの遺灰はようやくシチリアへ帰還することになり、シチリア島特使がその重要な役目を命じられる。しかし、アメリカ軍の飛行機に搭乗拒否されたり、遺灰の入った壺がどこかへ消えてしまったりと、次々とトラブルが起こり……。エピローグには、ピランデッロの遺作「釘」を映像化した短編を収録。2022年・第72回ベルリン国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞した。
2022年製作/90分/PG12/イタリア
原題または英題:Leonora addio
配給:ムヴィオラ