
タイトルは長谷川泰子が70歳のときに受けたインタビュー(告白)を
村上護が編集・書籍化した「中原中也との愛 ゆきてかへらぬ」より
不世出の天才詩人と呼ばれ30歳でこの世を去った中原中也と
のちに日本を代表する文芸評論家となる小林秀雄との三角関係を
恋人だった長谷川泰子の目線から描いたもの
映画のほうも長谷川泰子=演じる広瀬すずにスポットが当てられていて
”すずちゃん”の映画と言っていい(笑)

なので、中原の人となりや精神状態、詩を生み出すまでの苦しみや
小林がどういった文学批評眼だったのかは、ほとんどわかりません
中原や小林と別れた後も、男たちからの援助で暮らしてきたという泰子
男と続かなかったのも、女優として成功しなかったのも
実はそれほどの女ではなかった
ただ男を勘違いさせるのが上手かったのかな、と

脚本は田中陽造が40年以上前に書き上げたものを
根岸吉太郎が16年ぶりにメガホンを取り映画化
なんとこのお二方
日活ロマンポルノ全盛期を支えた大御所というではありませんか
当時を知っている人はどんな愛欲にまみれたドラマか期待したそうですが(笑)
羞恥的を感じるシーンはほとんどなく
どちらかといえばフランソワ・トリュフォーぽい

大正12年(1924)の京都
(地元山口県の学校を落第し転校後、高橋新吉に影響を受け詩作を始めた)
泰子20歳、中也17歳のとき(中也が下宿先に誘う形で)同棲を始めます
しかし中也は17歳で女郎屋に通うような男で
(わざと泰子がヒステリーをおこすような言動をとってしまう)
泰子との喧嘩が絶えませんでした

大正14年(1926)、泰子と中也は東京に引っ越し
東京帝国大学文学部仏蘭西文学科で詩人アルチュール・ランボーを研究する
(中也のスタイルもランボーを真似たもの)

小林は、中也の詩人としての才能を見抜き
中也も、小林の文学に対する明晰な批評に唸ります
お互い捻くれ者ながら、認め合い高め合うふたりの天才
ひとり取り残され(いつものように)ヒステリーになる泰子

中也は泰子を落ち着かせるため
小林も誘い、3人で遊ぶようになりますが
小林は(泰子も)一目会ったその時から、運命の人だとわかっていたんですね
小林は泰子に一緒に暮らそうと言い
中也と(幼さと喧嘩に疲れ)別れる決意をする泰子

理知的で穏やか、怒るより先にまず考えるのが小林
泰子の本当の気持ちさえ見透かし理解しようとします
しかしそれは泰子を安心させるどころか
自分も完璧でいなければいけない、という不安をもたらし
潔癖症を患ってしまいます
その行動はエスカレートしていき、執拗に小林を言葉責めします
それでも泰子が善かればと尽くした小林でしたが
ついに耐え切れず彼女に別れを告げ(奈良に雲隠れする)ことになります

でも泰子は(無意識に)気が付いていたと思うんですよね
自分だけがただの凡人
中也は初恋のうえ年上の美女というだけで、泰子に夢中になるのも当然
小林は泰子ではなく、泰子というフィルターを通して
天才詩人である中也のほうを見つめていたことを

幾年か経ち、女優として生活できるようになった泰子は
撮影現場で中也と小林に再会します
中也は親の勧めで遠縁の女性と結婚したものの
子を亡くしたうえ、結核性脳膜炎を患っているといいます
それから間もなく、中也の訃報を受け取った泰子は

かって中也との別れの時「母の手編みの手袋」で「オレの心臓」だと託された
赤い手袋を棺に添えたのでした
(ちなみに中也の母フクは99歳まで長生きしたそう)
結局は欲と破滅と退廃に憧れ、その絶望的な世界を夢見たものの
親なりだれかの世話で、贅沢に溺れているだけのニートの戯言
一方で、中也や泰子のように愛だけで生きることができた時代を
羨ましいと思いますね

これが令和のヌーヴェル・ヴァーグ
【解説】映画.COMより
大正時代の京都と東京を舞台に、実在した女優・長谷川泰子と詩人・中原中也、文芸評論家・小林秀雄という男女3人の愛と青春を描いたドラマ。
大正時代の京都。20歳の新進女優・長谷川泰子は、17歳の学生・中原中也と出会う。どこか虚勢を張る2人は互いにひかれあい、一緒に暮らしはじめる。やがて東京に引越した2人の家を、小林秀雄が訪れる。小林は詩人としての中也の才能を誰よりも認めており、中也も批評の達人である小林に一目置かれることを誇りに思っていた。中也と小林の仲むつまじい様子を目の当たりにした泰子は、才気あふれる創作者たる彼らに置いてけぼりにされたような寂しさを感じる。やがて小林も泰子の魅力と女優としての才能に気づき、後戻りできない複雑で歪な三角関係が始まる。
広瀬すずが長谷川泰子、木戸大聖が中原中也、岡田将生が小林秀雄を演じた。「探偵物語」「ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ」の名匠・根岸吉太郎監督が16年ぶりに長編映画のメガホンをとり、「ツィゴイネルワイゼン」の田中陽造が脚本を担当。
2025年製作/128分/G/日本
配給:キノフィルムズ