
原題は「Matterhorn」(マッターホルン)
この邦題、「孤独のグルメ」に便乗したんでしょうか
(オランダの松重豊が、美味い食事を求めて旅する話ではない 笑)
今や配信されている高評価の映画をポチすれば
LGBTQものに当たるという現状ですが(笑)
よくある同性愛や同性婚とは全く違うアプローチ
海外では50代とか60代とかの熟年になってから
(はたから見たら「いまさら」)同性婚するする人たちがいますが
いろいろな経験を積んだからこそ
立場とか性別も関係ない
他人から理解されなくてもいい
一緒に痛みをわかちあい
癒し合える関係を求めたくなるものなのかも知れません

原題の「マッターホルン」は
主人公が亡き妻にプロポーズした思い出の場所のことですが
作中で歌われる、「This is my life」
”これが私の人生”のほうが、ぴったりのタイトルのような気がしました

冒頭はウェス・アンダーソン的な色彩が広がる美しい風景
そこから、突然ひとりの男(フレッド)が
浮浪者風の男に因縁をつけ始める
男は車がガス欠だとフレッドからお金を騙し取ったようです
でも男の車はどこにも見当たらない
返すお金のない男に、フレッドは庭の掃除という相応の労働をさせます
フレッドは男に缶入りのクッキーと紅茶を与え
労働を終わらせると行く当てのない男に食事と寝床まで与えます
ここらへんの展開はアキ・カウリスマキを思わせるのですが
アキともちょっと違った(笑)

フレッドは妻に(交通事故で)先立たれた
(町そのものが厳格な宗教コミュニティでもある)
男にスーツを着せ、髪を整えてやり、教会に連れて行きます
聖書(マタイによる福音書)の教え通り
善意として困っている人を救っただけ
なのに町の人々からひしひしと伝わる不信なオーラ

その理由はフレッドが見知らぬ男を家に泊め面倒を見ているのは
フレッドがゲイではないかと疑っているからです
後からわかるのですが、フレッドの(勘当した)ひとり息子ヨハンは
ドラァグクイーンの歌手でゲイバーで働いているんですね
その関係・・と思われても仕方がないわけです

フレッドがスーパーに買い物に行くのに男を同行させると
男は途中にあるヤギの小屋の前で動かなくなりまし
スーパーの店内でもヤギの鳴きまねをしてフレッドは困惑しますが
(キリスト教でヤギは悪魔の象徴)
男のヤギ真似に、ひとりの少女が大喜び
男を動物モノマネの芸人だと思った少女の父親は
少女の誕生日会で男に催しをして欲しいと名刺を渡します
しかしその日は主の休日の日曜日
厳格なカルヴァン派で、信者が働くことなど許されません

(余興を頼まれたのは男なのに)歌の練習をし始めるフレッド
スーパーでこっそり買った酒を飲み酔っぱらうと
亡き妻の服を着た男を、妻と勘違いしてダンスする
翌朝目が覚めると男が近所の少年たちに虐められていました
フレッドが仲裁に入ると「ホモ」だと冷やかされ
家の壁には「ソドムとゴモラ」(不道徳により神によって廃墟にされた街)の落書き
フレッドのことを異端者だと住民たちを捲し立て嫌がらせをしていたのは
教会役員であり隣人のキャンブスだったことがわかります

誕生日会の催しを引き受けるため、名刺の番号に電話するフレッド
日曜日、教会に向かう人々とは反対方向に向います
最初はフレッドの歌に微妙な反応の子どもたちでしたが(笑)
男の動物モノマネには大喜び
うちの子の誕生日会にも来て欲しいと次々予約が入るようになります
(都会に住むカルヴァン派でない人たちはリッチだという対比)

フレッドは男をパートナーとして一緒に住むため
男の住民票を移そうと市役所に行くと
男はちゃんと自分の身分証明書を持っており
男の名前がテオ・ハウスマンだということがわかります
テオと一緒に身分証に記載されている住所を訪ねたフレッドは
テオの妻の存在を知ります

美人で明るくて気丈な奥さんのサスキア
テオのことをとても大切に思っている
サスキアの話によれば、テオは交通事故の後遺症で
徘徊を繰り返し施設に入所しても脱走してしまうということ
(フレッドと)「結婚する」というテオに
やっと落ち着ける居場所を見つけたのねと
フレッドによろしくお願いしますと頼むのでした

わたしは結婚にもスピリチュアル的なものがあると信じているのですが(笑)
交通事故で、テオは(肉体は生きているけど)魂を失い
そこに死んだフレッドの奥さんの魂が
乗り移ったのではないかと思いました

フレッドは亡き妻の花嫁衣裳を着せ
真夜中の教会でふたりきりで結婚式を挙げます
そこに式は無効だとカメラを持ってやってきたキャンブス
フレッドが3人で飲もうと誘うと、キャンブスは自宅で飲むことを提案します
キャンブスもまた、お酒を隠し持っていて
しかも(趣味のカメラの)現像部屋には
フレッドの妻トゥルーディと、まさかのテオの写真までいっぱい
キャンブスはトゥルーディに横恋慕していていたのです
さらにテオのことも好きという、フレッドと恋愛対象が全く同じ
フレッドに嫉妬していただけなのです

フレッドはキャンブスに、テオを一晩預かってくれないかと頼み
ゲイバーで歌手をしている息子に会いに行きます
♪This is my life This is me ~♪と息子が歌い終わると
フレッドは立ち上がり「ヨハン!」と叫びます
フレッドはスイス行きのチケットを手に入れ
テオとともに「天国に一番近い場所」ことマッターホルンに向かうと
ペアのウエアで抱きしめ合うのでした
「これが私の人生で、これが私」を認めたとき
フレッドも自由になれたのです
【解説】映画.COMより
妻に先立たれた孤独な中年男を主人公に、2人の男の奇妙な共同生活を描いたオランダ映画。ロッテムダム国際映画祭観客賞やモスクワ国際映画祭で最優秀観客賞、批評家賞などを受賞し、日本国内でもSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2014で長編コンペティション部門の最優秀作品賞を受賞した(映画祭上映時タイトル「約束のマッターホルン」)。妻に先立たれ、オランダの田舎町でひっそりと単調な毎日を送るフレッド。ある日、言葉も過去も持たないテオがフレッドの家に居ついてしまい、男2人の共同生活がスタートする。フレッドとテオの間にいつしか友情が芽生え、何も持たないテオの生き方からフレッドは真の幸せを学んでいく。監督は、オランダで俳優としても活躍し、本作が初長編映画デビューとなるディーデリク・エビンゲ。
2013年製作/86分/G/オランダ
原題または英題:Matterhorn
配給:アルバトロス・フィルム