
「他人を許す前に自分を許すんだ」
「人を愛す前に自分を愛すように」
原題は「The Quilters」(キルト作りをする人たち)
わずか30分のドキュメンタリー映画ですが
胸に込み上げてくるものがある逸品

リッキングという町にある最高警備(レベル5)のサウスセントラル刑務所
レベル5というのは、危険性の高い凶悪犯を収容する刑務所で
施設内でも殺人事件などの事件がしばしば発生するということ
そのため厳しいルールや制度の管理がされているんですね

その刑務所内の一室で里親に育てられたり
施設で暮らす子どもたちのために、キルトを作る重犯罪者たち
自らデザインをし、布を選び、ミシンで縫い合わせていきます
外ではタフに振る舞わなければならない、という「チル」という男性は
小さな女の子のために蝶のモチーフのキルトを作ります
チルは蝶の柄の布がお気に入り
なぜなら彼の母親が蝶模様が好きだったから

「センセイ」と呼ばれているキルトの達人で65歳になるリッキーは
(日本語のセンセイってアメリカでも定着しているの?笑)
子どもの頃おばあちゃんがキルトを作っていたこと思い出すと言います
良い両親がいて恵まれていたにもかかわらず、悪い仲間と付き合ったことで
彼にとっても母親は特別な存在
ほかの仲間のキルトが上手く出来た時には「母親が喜ぶ」と称える

受刑者たちは、自分の罪が決して許されるものではないし
責任を取らなければならないことをわかってる
しかし若さゆえ道を踏み外し、親を哀しませたことを
何十年経った今でも後悔し続けているのです
自分より年上のおっさんに対して
まるで自分の息子のことのように泣きそうになる
ただ私は今まで運がよかっただけなのかもと

余談ではありますが、最近では特殊詐欺などの犯罪に係った若者が
ラクに「お金が手に入る」という誘い文句だけで
なぜ詐欺や盗み、殺人にまで手を染めてしまうのか
その原因のひとつが「境界知能」であることが解っているそうです
安易に結果だけ求め、こうしたらこうなると「組み立てられない」
日本の少年犯罪者の更生施設では、そのための矯正・更生プログラムに
小学校の算数の授業の実施をしているということ
三角形の角度を求めるのにも「なぜ、そうなるのか」
答え(結果)とは簡単に求められるものではなく、過程があるからこそ
それを理解するためには算数が有効手段のひとつなのだそうです

同じように、キルティングプログラムにも
出来上がりのイメージから、パターンや色の選択をすることによって
認知刺激があることがわかっているそう
さらに限界まで繊細で美しいキルトに挑戦する作業は
数学の難問の答えがわかった時の達成感に似ているかも知れません
私は専門家でも学者でもないし、あくまで想像ですが
「境界知能」と呼ばれる人々でも、何かのきっかけさえあれば
本来の自分の持っている才能が目覚めるのではないかと思います

だけど仲間のひとりフレッドが
突然キルトチームから外されてしまいます
作品に没頭するあまり、縫い方を間違えたキルトを解くため
作業場からカミソリを自室に持ち帰ってしまったのです
フレッドに悪気がなかったのは一目瞭然
ただ、ここがレベル5であることを一瞬忘れてしまっただけ

メンバーたち、特にリッキーとってフレッドの不在は痛手でした
彼ほど繊細で美しいキルトを作るキルターはいない
さらに長年作業を共にした仲間が、25年という刑期を終えるため
ここより警備の緩い刑務所に去っていく
待ちに待った出所、だけどキルト作りの人手不足のほうを心配するという(笑)

私たちは普段、重罪で投獄された人たちの人間性など考えることもない
世間から必要とされず、忘れられた存在です
そんな彼らにとっても最初は、真面目にムショ生活さえしていれば
パッチワークなんておばあちゃんの趣味
重労働より楽な仕事ができる、くらいの気持ちだったのだと思います
なのに長い刑務所暮らしの中での救いに、生きがいになってしまった
それはなぜか

その答えにラスト、涙しそうになります
届いたキルトに喜ぶ幼い女の子の写真と
里親からの感謝の気持ちがこもったカード
女の子の笑顔に「可愛いな」と涙するチル
たくさんのお礼の手紙が貼られたボードに、そのカードをホッチで留めると
皆は再び作業に取りかかるのでした
次はもっと美しいキルトを贈るために
【解説】
ミズーリ州の厳重警備刑務所で刑期をつとめながら、里子たちのために、ひとつひとつデザインが異なる美しいキルトを縫い上げている男性たちを取り上げ、数々の賞に輝いた短編ドキュメンタリー。Netflixで2025年5月16日配信開始
製作国:アメリカ 上映時間:33分 ジャンル:ドキュメンタリー・ショートフィルム・短編 監督ジェニファー・マクシェーン