はじめに
前回は2025年度入試における「歴史総合」の扱いについて取り上げましたが、世界史でご飯を食べているぶんぶんは、どのような入試問題が出題されるのかが気になって寝られません。
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ぶんぶん撮影

今回は大学から公開されているサンプル問題を解答して、どのような準備をすればいいかを考察します。第1回は神田外語大学と慶応義塾大学法学部です。
前回
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過去回
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これを読んだらこちらに進む 東京外国語大学
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目次
0 おさらい
国公立大学二次試験で「歴史総合・世界史探究」を出題する(2024年4月現在)
同世界史探究のみの出題
筑波 東京 京都 神戸市外国語
首都圏・近畿圏の大規模私立大学で「歴史総合・世界史探究」を出題する大学(一部の学部のみは* 探究に関する範囲のみは△)
同世界史探究のみの出題
1 神田外語大学
(1)変更点
神田外語大学は2025年度入試から三教科型入試を導入し、「歴史」は「歴史総合、日本史探究」または「歴史総合、世界史探究」を選択して解答します。いずれも5題構成(「歴史総合」1題、「古代・中世」1題、「近世」1題、「近現代」2題)です。
サンプル問題は共通問題の「歴史総合」と日・世の「近現代」1題です。
(1)歴史総合サンプル問題
① 解答例
問1 19世紀後半の日本や世界の動きについて述べた文のうち正しいものの組み合わせ
ア(1・3)
1○ アメリカ合衆国で大陸横断鉄道開通(1869年)
2× ナポレオン・ボナパルトの皇帝即位(1804年)
3○ インドでシパーヒーの乱(1857年)
4× 地租改正は年貢米ではない問2 第2次産業革命で発達した産業と新たな動力源
ウ(重化学工業―石油・電力)問3 地図上の矢印で19世紀末から20世紀初頭のイギリスの進出に当たるもの
エ(エジプト南下 南アフリカ北上)問4 日露戦争について誤っているもの
イ ×官営八幡製鉄所は日清戦争の賠償金で建設問5 資料文(日露戦争終了2年後、「フランスが日仏協約の成立を急いでいるのは( )が英仏の間を割くために…」の空欄に入る国とその国が結んでいた協力関係
ア(ドイツ―三国同盟)問6 並べ替え
イ(Ⅰ韓国併合(1910)→ Ⅲ二十一か条要求提出(1915)→Ⅱ関東大震災(1923))問7 1920年代までに国政選挙で女性参政権が実現しなかった国
エ(日本 アメリカ合衆国(1920)、イギリス(1928)、ドイツ(1919))問8 WW1後に設立された国際平和機関の名称とその提唱者の組み合わせ
ウ(国際連盟―ウィルソン)
② 解説
問1 1~3は世界史のマスト年号。4日本史内容理解。
問2 知識問題。共通テスト世界史Bの類題
問3 共通テスト試行調査の矢印問題で「19世紀末」のヒントからファショダ事件(1898年)と南アフリカ戦争(1899年)を思い出す。
問4 日本史内容理解問題で「我が国の歴史への愛情」や「日本国民の自覚」を促す(アジアで最初の産業革命を達成!)、ある意味歴史総合的な問題。

問5 初見の資料を読んで推理させる最も歴史総合的な問題だが、解答のプロセスは「日露戦争の2年後」というヒントから英仏協商(1904年)と第一次モロッコ事件(1905年)を思い出す、世界史選択生向け問題。
問6。教科書のストーリーが把握できていれば年号知識がなくても解けるはずだが、受験生はこういうのが苦手。世界史選択生は関東大震災の年号は忘れているかも。
問7 「大衆化と私たち」に出てくる参政権の問題。正解は「日本国民の自覚」を促す(戦争に負けてやっと民主化が実現した)いわば「常識」だが、ダミー選択肢が3つとも正しいと言い切れるのは世界史選択生。
問8 同じく「大衆化」の範囲で世界史の鉄板問題。
③ コメント
見た感じ歴史総合っぽい問題は問5のみで、残りは共通テストの類題で基本的な知識を問う出題です。
日本史振りなのが問4、問6ですが世界史選択生も十分解答可能、残りの世界史振りな問題は日本史選択生にとっては世界史知識問題に見えると感じます。
ぶんぶんはこのサンプル問題を「歴史総合の中の日世共通基礎知識(やや世界史振り)を測る出題」と評価します。「歴史総合は日本史と世界史の合体ではなく資料活用の科目というのが学習指導要領の狙い」という立場の方には不満が残るかもしれません。
(2) 世界史探究サンプル問題
① 解答例
問1 F.ローズヴェルト大統領が炉辺談話で国民に直接説明したメディア
エ(ラジオ)問2 F.ローズヴェルト大統領の政策として誤っているもの
イ ×農業調整法は生産増加ではなく生産調整して価格を引き上げた問3 第一次世界大戦後の国際協調関係について正しいものの組み合わせ
ウ(2・3)
1× ロカルノ条約の結果国際連盟に加盟したのはアメリカ合衆国ではなくドイツ
2○ ドーズ案の提示でフランスはルール地方から撤兵した
3○ 不戦条約で国際紛争解決の手段としての戦争を禁止した
4× 九ヶ国条約は太平洋ではなく中国大陸問4 戦間期のイギリスについて述べた文章のうち正しいもの
エ ○労働党のマクドナルドが首相となった
ア×シリアはフランスの委任統治領 イ×アイルランドはカトリック
ウ×世界恐慌で金本位制度から離脱問5 ドイツの憲法が制定された場所とその内容の組み合わせ
ウ(ヴァイマル 社会権を認めた民主的な憲法)問6 イ(地図上のダンツィヒの位置)
問7 スペイン内戦の複合正誤 ア(X正 Y正)
X○ 英仏は不干渉政策 Y○ピカソが『ゲルニカ』を描く問8 並べ替え
ウ(Ⅱローマ進軍(1922年)→Ⅲラテラノ条約(1929年)→Ⅰエチオピア侵略(1935年))
② コメント
関西の中堅私立大学では鉄板の、客観式で教科書の記述内容を把握しているかを試す問題です。一問一答、組み合わせ、誤文選択、時代整序。ふたつの文章の正誤の組み合わせとまさに見本のような作りです。
問われる内容も世界史Bと全く同じといっていいです。『世界史探究』の教科書の多くは記述の配列が変わったり、最近の研究成果が盛り込まれたりしていますが、その辺は世界史Bで既にやっています。
(3)まとめ
サンプル問題を見る限り、神田外語大学を受験される方は、日本史探究/世界史探究をまず仕上げて、近現代史については歴史総合の教科書で日本史・世界史相互乗り入れのところをやっておけば、歴史総合的な「初見の資料を読んで考察する問題」にも対応できそうです。
2 慶應大学法学部
(1)変更点
慶應大学法学部の世界史は、無理に難しくしようと正誤選択肢をこねくり回した結果、予備校から複数正解を指摘されるという「自爆」を毎年繰り返し、『絶対に解けない受験世界史』に話題を提供する常連です。
2025年度からは地理歴史の試験時間を60分から90分、配点を100点から150点へと変更し、マークシート以外に記述式を追加します(なお「論述力」を「小論文」へと変更し、試験時間を90分から60分にします)。
(2) 地理歴史(世界史(世界史探究))サンプル問題
この時代(イギリスがインドを直接統治下に置く)宗主国(ヨーロッパ諸勢力)は現地(南アジア・東南アジア)の産業構造をどのように変化させたか。インドにおけるイギリス、ジャワにおけるオランダ、フィリピンにおけるスペインを例として触れながら、共通する現象を説明する。300字以内
① 解答メモ
インドとイギリス
インド帝国成立以前にインドとイギリスの綿製品輸出は逆転し、インドは綿花や藍をイギリスに輸出し、イギリスから工業製品を輸入する立場に転落した。インド帝国成立後はプランテーションによるコーヒーや茶の生産や、綿花やジュートの生産が広がり、原料地と港湾を結ぶ鉄道が建設され、インドはイギリスを中心とする世界的な経済体制の中に組み込まれた。これらの経済発展はインドの利害に合わせて進められたたねインドの人々に重い負担をもたらしたが、紡績業ではインド人資本による工場制綿工業の発展も見られた。
ジャワとオランダ
19世紀にジャワ島でオランダ支配に対する大規模な反乱がおきるとオランダの財政状況が悪化した。その立て直しのためにコーヒーやサトウキビ、藍などの商品作物の強制栽培制度を導入し莫大な利益を上げたが、農村では飢饉が頻発した。また農村に貨幣経済が浸透し階層分化が進んだ。
フィリピンとスペイン
19世紀に入って自由貿易を求める圧力が強まると、スペインはこれまでの閉鎖的な植民地政策を改め1834年にマニラを開港した。これによりプランテーションでサトウキビ、マニラ麻、タバコなどの商品作物の生産が広がり、世界市場に組み込まれた。また商人や高利貸しによる土地の集積が始まり、プランテーションの開発が進んで大土地所有制が成立した。
共通する現象
宗主国を介して世界経済に組み込まれた。また農民の困窮化が進む一方、貨幣経済や工業化によって現地でも豊かになる人が現れ、階層分化と伝統的な社会の解体が進んだ。
② 解答例
インドではプランテーションによるコーヒーや茶の栽培や綿花の生産が広がり、生産地と港湾を結ぶ鉄道が建設された。ジャワ島では19世紀半ばにオランダが財政難からコーヒー・サトウキビ・藍などの強制栽培制度を導入した。スペインは自由貿易要求の圧力を受けて1834年にフィリピンのマニラを開港し、プランテーションによるサトウキビ、マニラ麻、タバコの生産が広がった。このように植民地は宗主国を通じて一次産品の供給地として世界経済に組み込まれる一方、ジャワ島では貨幣経済が浸透し、インドでは現地の綿工業がおこり、フィリピンでは大土地所有制が成立するなど、疲弊する農民と豊かになった人々との階層分化と伝統社会の解体が進んだ。299字
③ コメント
サンプルはオーソドックスな「短いスパンで広めのエリアを比較する」問題で、従来の世界史論述と変わりありません。
ただし「共通性」を書かせる、つまり歴史的な事実の「解釈」を求めている点が世界史探究的です。最近は名古屋大学や上智大学で同様の問題が出題されています。
とはいえ難関国立大学の論述は昔から「誘導に沿って事実を積み上げていくと何か解釈らしきものが見えてくる」設計なので、過去問をやる際は「解釈」(比較や関連付け、背景や影響、従来説の再検討)に注意しましょう。
(3) まとめ
基本これまでの論述を視野に入れた世界史学習で対応できます。
300字論述は「狭いスパンで広いエリアを比較」と「狭いエリアを長いスパンで時系列に展開」が二大定番です。両方を国立大学や難関私立大学の同程度の論述問題から探して演習しましょう。
またサンプル問題は難関私大らしい最近ホットな植民地主義の話題です。政治制度や差別の問題など法学部的な現代の課題にも手広く当たっておくことをすすめます。
次回は東京外国語大学のサンプル問題を紹介します。
3 資料編
高等学校学習指導要領 地理歴史編より
地理歴史科改訂の趣旨及び要点 歴史総合
・世界とその中における日本を広く相互的な視野から捉えて,近現代の歴史を理解する科目
・歴史の推移や変化を踏まえ,課題の解決を視野に入れて,現代的な諸課題の形成に関わる近現代の歴史を考察する科目
・歴史の大きな転換に着目し,単元の基軸となる問いを設け,資料を活用しながら,歴史の学び方(「類似・差異」,「因果関係」に着目する等)を習得する科目とすることが適当である。
歴史総合の目標
(1)近現代の歴史の変化に関わる諸事象について,世界とその中の日本を広く相互的な視野から捉え,現代的な諸課題の形成に関わる近現代の歴史を理解するとともに,諸資料から歴史に関する様々な情報を適切かつ効果的に調べまとめる技能を身に付けるようにする。
(2)近現代の歴史の変化に関わる事象の意味や意義,特色などを,時期や年代,推移,比較,相互の関連や現在とのつながりなどに着目して,概念などを活用して多面的・多角的に考察したり,歴史に見られる課題を把握し解決を視野に入れて構想したりする力や,考察,構想したことを効果的に説明したり,それらを基に議論したりする力を養う。
(3)近現代の歴史の変化に関わる諸事象について,よりよい社会の実現を視野に課題を主体的に追究,解決しようとする態度を養うとともに,多面的・多角的な考察や深い理解を通して涵養される日本国民としての自覚,我が国の歴史に対する愛情,他国や他国の文化を尊重することの大切さについての自覚などを深める。