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『Las niñas del naranjel』修道女少尉カタリーナ・デ・エラウソの生涯を再構築した2025年全米図書賞 翻訳部門受賞作

2024年にアルゼンチンで出版されたガブリエラ・カベソン・カマラの小説『Las niñas del naranjel』(英題:We Are Green and Trembling)は、17世紀南米を舞台に、「修道女少尉」として知られる実在の人物カタリーナ・デ・エラウソの生涯を大胆に再構築した歴史小説である。本作は、植民地支配の暴力と宗教的抑圧を鋭く風刺する「クィア・バロック・サタイア」とも評され、ラテンアメリカ文学の伝統と現代的感性を結びつけた異色の作品である。

物語の主人公は、スペインの修道院から逃亡し、男性として生きることを選んだアントニオ・デ・エラウソである。彼はかつてカタリーナという名の修道女であったが、新世界を目指して海を渡り、南米でラバ追い、商人、兵士、そして征服者として生きてきた。数々の決闘や殺戮を経たその人生は、冒険譚として語られてきた歴史像をなぞりながらも、本作ではその陰に潜む暴力と空虚をあらわにしていく。

物語ではアントニオは脱走兵として追われる身となり、パラナ川流域の熱帯雨林に潜伏している。彼のそばには、植民地支配下で前司教による奴隷化と非道な医学実験にさらされていた、グアラニー族の少女ミチとミタクニャがいる。アントニオは彼女たちを救い出し、赤い犬、二匹のオマキザル、馬とその仔馬とともに、密林の奥で身を寄せ合って生きている。少女たちの無垢で鋭い問いは、アントニオに、征服と強欲によって傷つけられた大地の現実を直視させ、彼自身の過去を否応なく照らし出す。

本作は重層的な語りが特徴である。中心となるのは、アントニオがかつて逃げ出したバスク地方の修道院の院長である叔母に宛てて書く長い手紙であり、そこでは彼の冒険と内面的変化が告白のように綴られる。その合間には、ジャングル上空を舞うハゲワシの視点など、三人称による描写が挿入され、植民地化による暴力と自然破壊が俯瞰的に描かれる。さらに、17世紀のバロック的スペイン語に、グアラニー語、ラテン語、現代的な表現が混じり合うことで、アメリカ大陸の混成性そのものを文体によって体現している。

作品を貫く最大のテーマは「変容(メタモルフォーゼ)」である。性別、名前、立場を次々と変えてきたアントニオは、ジャングルの圧倒的な生命力と、少女たちを守る日々の中で、征服者としての自己を手放し、世界の網の目の一部として生きる感覚へと変わっていく。そこには、反植民地主義的な視座が明確に据えられ、西洋的支配観からの離脱と、自然と他者へのケアを通じた贖罪と希望の可能性が描かれる。

ガブリエラ・カベソン・カマラ(Gabriela Cabezón Cámara)は、1968年にアルゼンチンのブエノスアイレス近郊、サン・イシドロに生まれた。ブエノスアイレス大学で人文科学を学び、ジャーナリストとしても活躍した経歴を持つ。彼女は現代アルゼンチン文学およびラテンアメリカ文学において最も重要な人物の一人と目されており、著名な知識人、フェミニスト、そして環境活動家としての顔も持っている。特に、女性に対する暴力に反対する運動「ニ・ウナ・メノス(Ni una menos)」の共同創設者の一人として、社会的にも大きな影響を与えてきた。

彼女の文学的キャリアは、2009年のデビュー作『La Virgen Cabeza』で一躍注目を集めたことに始まる。その後、人身売買を扱った『Le viste la cara a Dios』や、アイデンティティの変容を描いた『Romance de la negra rubia』を発表し、これらは批評家から「暗黒の三部作」と呼ばれている。また、2017年の『Las aventuras de la China Iron(チャイナ・アイアンの冒険)』では、アルゼンチンの国民的叙事詩をフェミニストかつクィアな視点から再解釈し、国際ブッカー賞の最終候補に選ばれるなど、国際的にも高い評価を受けた。

最新作である『Las niñas del naranjel』により、彼女は2023年にシウダ・デ・バルセロナ賞、2024年にソル・フアナ・イネス・デ・ラ・クルス賞を受賞し、さらに英語版『We Are Green and Trembling』は2025年の全米図書賞(翻訳文学部門)を受賞するという快挙を成し遂げた。現在は国立芸術大学の創作講座で教鞭を執りながら、執筆活動を続けている。

『Las niñas del naranjel』は、植民地の歴史が孕む暴力と残酷さを直視しながらも、絶望では終わらない。魔法のように脈打つジャングルという空間において、人間がより慈しみ深い存在へと変わりうる可能性を提示する点に、本作の確かな希望がある。歴史小説でありながら、クィア文学、環境文学、反植民地主義文学としても読むことのできる本作は、文学が持ちうる変革の力を鮮やかに示している。

  • 図書出版みぎわ

参考資料:

youtu.be

Gabriela Cabezón Cámara obtiene el Premio de Literatura Sor Juana Inés de la Cruz con 'Las niñas del naranjel' - Publishnews

The Importance of Representation in "We Are Green and Trembling" - Chicago Review of Books

カタリナ・デ・エラウソ - Wikipedia




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