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『Berlin Shuffle』ナチス台頭直前のベルリンを刻んだ、80年越しに再発見されたユダヤ人作家の小説

2025年12月に英訳が出版されたウルリッヒ・アレクサンダー・ボシュヴィッツのデビュー小説『Berlin Shuffle』(ドイツ語題:Menschen neben dem Leben、生の傍らにいる人々)は、1930年代半ばに作者が22歳で執筆したと推定されている作品である。1937年に「ジョン・グレイン」という筆名でスウェーデン語版が先行出版されたが、オリジナルのドイツ語原稿は80年以上もの間、日の目を見ることはなかった。原語であるドイツ語版が世に出たのは2019年のことであった。本作は、1920年代末から1930年代初頭にかけてのベルリンを舞台に、大恐慌、貧困、社会的緊張に覆われた都市の姿を描き出している。

物語の背景となるのは、「黄金の20年代」と呼ばれた華やかな時代が終焉し、経済崩壊へと突き進んだベルリンである。失業者や物乞い、社会の周縁へと追いやられた人々が街を埋め尽くし、その多くは第一次世界大戦や戦後のハイパーインフレーションによって深い心身の傷を負っている。街全体には攻撃性と不満が澱のように溜まり、それがやがてナチズムの台頭を許す土壌となっていく。

本作は、こうした都市の底辺で生きる人々、いわば「希望を失った者たち」の群像劇である。かつては家庭と職業を持ちながら、今では路上をさまよう老乞食フントホルツ、彼に世話される知的障害を抱えた放浪者トーンヒェン、世の中は悪党だけが成功すると信じ、小さな詐欺や盗みで生き延びる元路面電車車掌グリスマン。さらに、戦争で失明し、アコーディオンを弾いて日銭を稼ぐ退役兵ゾンネンベルクと、彼の暴力に怯えながら生きる妻のエルジ、夫の戦死や貯蓄がインフレにより紙屑になったことを否定し続ける老女フリーブッシュ夫人、犯罪組織に属する若いポン引きのヴィルヘルム・ヴィンター、そして父を養うため売春に身を落としたミンヒェン・リントナーといった人物が登場する。

物語は視点を次々に切り替えながら、彼らがベルリンの通りや公園を彷徨う姿を追い、やがて労働者階級の酒場兼ダンスホール「陽気な猟師亭」で交錯する。そこで緊張は頂点に達し、エルジを巡る嫉妬から、グリスマンとゾンネンベルクの対立は決定的な悲劇へと転じる。一方、その混乱の只中で、ヴィルヘルムとミンヒェンは手を組み、新たな人生を始めようとする決断を下す。

本書が持つ意義は、単なる群像小説にとどまらない点にある。経済的絶望が人々の日常をいかに蝕み、ファシズムを育む温床となったかを克明に描くと同時に、登場人物たちの精神的な漂流状態を通して、世界観を持てない人間の脆さを浮き彫りにする。また、1930年代半ばに書かれたこの作品は、やがて訪れる大規模な暴力と破壊を不気味なほど予見しており、ホロコースト直前の時代精神を映す証言としても読まれる。冷静で感傷を排した描写は、社会の底辺に生きる人々を真正面から描いた社会ルポルタージュとして高く評価されている。

著者であるウルリッヒ・アレクサンダー・ボシュヴィッツは1915年、ユダヤ系の実業家の父とプロテスタントの母のもとにベルリンで生まれた。父は第一次世界大戦で従軍したが、ウルリッヒの誕生直後に脳腫瘍で死去している。1935年、ナチスのニュルンベルク法制定を受け、母と共にドイツを脱出し、スカンジナビアへ逃れる。この亡命先のノルウェーで22歳の時に執筆されたのが本作である。その後、彼はルクセンブルク、フランス、ベルギー、イギリスへと転々と移動を続ける。1938年の「水晶の夜」の直後には、代表作となる『旅人』をわずか数週間で書き上げている。第二次世界大戦が勃発すると、イギリス当局によって「敵性外国人」とみなされ、オーストラリアの収容所へと移送される。1942年、ようがく解放されてイギリスへ戻る途中、彼が乗った客船がドイツの潜水艦Uボートによる魚雷攻撃を受け、沈没。ボシュヴィッツは27歳で大西洋に命を落とした。

ボシュヴィッツ再評価の最大のきっかけは、『旅人』(原題:Der Reisende / 英題:The Passenger)の再発見であった。この作品は2018年に英語で出版されると、80年以上の時を経てイギリスのサンデー・タイムズのベストセラーに入るなど、国際的に高い評価を得た。この成功により、編集者のペーター・グラフが彼のデビュー作である本作のオリジナル原稿にも光を当て、2019年に初めてドイツ語版が出版されることになった。2025年10月には徳間書店より、ボシュヴィッツが残した童話を絵本にした作品『冬にやってきた春と夏と秋』が刊行されている。

『Berlin Shuffle』は、社会が経済的な崩壊を発端にしてどのように人間性を失い、全体主義へと傾倒していくのかを、周縁にいる人々の視点から描いた作品である。ボシュヴィッツが描き出した共感の欠如や相互不信、そして根底にある暴力性は、彼の生きた時代にその後起きた20世紀最大の悲劇によって裏付けられている。ボシュヴィッツが捉えたのは、全体主義が台頭する前夜の、社会の脆弱性そのものである。80年以上前のすでに忘れ去られた者たちの視線が照らし出すのは、経済格差、排外主義、暴力の正当化といった現代社会にも通底する危機の構造であり、歴史は決して過去に閉じ込められてはいない。

参考資料:

youtu.be

BERLIN SHUFFLE | Kirkus Reviews

Literary Hub » Requiem for Weimar: On Ulrich Alexander Boschwitz’s Berlin Shuffle

Ulrich Alexander Boschwitz - Wikipedia

 




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