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『Paper Girl』オハイオ州の地方都市からアメリカの現在地と再生を問いかけるノンフィクション

2025年10月に刊行されたベス・メイシーによるノンフィクション『Paper Girl: A Memoir of Home and Family in a Fractured America』(ペーパー・ガール――分断されたアメリカにおける故郷と家族の回想録)は、個人的な回想、綿密な取材、そしてオーラル・ヒストリーを重ね合わせながら、分断が進む現代アメリカの実態に迫る一冊である。著者の故郷オハイオ州アーバナを舞台に、国家規模の変化が一つの地方都市と家族の内側にどのような影を落としてきたのかを描き出している。

物語の軸となるのは、1970〜80年代に著者が育ったアーバナと、2020年に病床の母を看取るため帰郷した際に目にした町との対比である。貧しい家庭環境やアルコール依存の父を抱えながらも、当時のアーバナには中間層が多く暮らし、公立学校は機能し、地方紙が住民の共通の物語を支えていた。新聞配達の仕事を通じて町中の人々と顔を合わせていた経験が、「ペーパー・ガール」という題名に象徴されている。一方で、著者自身が貧困から抜け出せた背景には、かつて学費の大半を賄えたペル・グラント(連邦給付型奨学金)の存在があったが、その「はしご」は今や取り外され、現在では学費の一部しか補えなくなっている現実が示される。

メイシーは次に、アーバナがいかにして空洞化していったのかを丹念に記録する。製造業の衰退と雇用喪失、オピオイド危機による依存症と里親委託の急増、精神医療への緊急通報の激増が町を疲弊させた。さらに地方紙は縮小を重ね、市政や地域の基本的な出来事を報じる力を失っていく。その結果、事実を共有する基盤が崩れ、フェイクニュースや全国的な党派対立が地域社会に流れ込む余地が生まれたと著者は指摘する。

現代における階層上昇の困難さを示す存在として描かれるのが、地元のトランスジェンダーの青年サイラス・ジェームズである。大学進学に十分な能力を持ちながら、ホームレス状態や家族の過剰摂取死といった重い経験に直面し、交通手段や支援制度の欠如によって学業を中断せざるを得なかった彼の姿は、著者自身の世代との決定的な違いを浮き彫りにする。

また本書は、政治的分断が家族関係をも引き裂く様子を率直に描く。2020年の大統領選で結果が報じられた瞬間、母の死の床で姉が激しく反発した場面や、SNS上の意見をきっかけに兄と断絶した経験、さらには移民排斥を訴えるQアノンの陰謀論へと傾斜していった旧知の人物の変化が語られる。

それでもメイシーは、絶望だけで終わらせない。政治的対立を避け、釣りや音楽といった共通点を手がかりに兄との関係を修復した経験に見られるように、他者への寛容さを回復の糸口として提示する。さらに、地域社会に身を置き、地方紙を支え、草の根の支援活動や地方政治に関わることの重要性を訴える。著者自身が紙おむつ支援団体やナロキソン・キット(オピオイド拮抗薬)配布に関わる姿勢は、小さな連帯こそが分断への対抗策であるという主張を体現している。

著者のベス・メイシーは1964年生まれのアメリカ人ジャーナリスト、ノンフィクション作家である。工場労働者の母と塗装屋の父の間に生まれ、決して裕福とは言えない家庭環境で育ち、家族の中で初めて大学に進学した人物だった。1989年から2014年までの25年間、バージニア州ロアノークの地方紙の記者として活動し、社会的弱者に焦点を当てた報道で20以上の受賞歴がある。オピオイド危機の惨状を描いた2018年刊行の『Dopesick』(DOPESICK: アメリカを蝕むオピオイド危機、神保哲生訳、光文社未来ライブラリー、2020年)はのちにHuluドラマシリーズの原作となり、主演のマイケル・キートンがエミー賞を受賞した。メイシーは2026年に民主党から連邦下院議員選挙への出馬を目指している。

『Paper Girl』は過去のノスタルジーに浸るような回想録ではない。本書は、なぜアメリカの人々が自らの首を絞めるような投票行動に出て、陰謀論に救いを求めるのか、その背景にある見捨てられた感とトラウマを深く掘り下げている。メイシーが用いる比喩によれば、故郷の社会的基盤は古い継ぎ接ぎのキルトのようなものだった。布切れは擦り切れていても、新聞や学校、相互の信頼という縫い目が全体を支えていた。しかし今、その縫い目は経済的衰退とデジタル空間の混乱によってほどかれ、家族や地域はばらばらになりつつある。それでもメイシーは希望を捨てない。分断を修復する道は、政治的な主張の応酬ではなく、地域での小さな実践と人間的なつながりの再構築にあると本書は訴える。かつて支え合っていたキルトの縫い目を、一針ずつ丁寧に縫い直していくこと。その地道な営みこそが、引き裂かれたアメリカ社会を再生させる唯一の方法であると、力強く提示しているのである。​​​​​​​​​​​​​​​​

参考資料:

youtu.be

A new memoir charts the decline and resilience of an Ohio town : NPR

Literary Hub » How the Collapse of Local Journalism Led to the Erosion of Community Trust

Beth Macy - Wikipedia




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