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『The Eleventh Hour』襲撃事件を乗り越えたサルマン・ラシュディによる作品集

2025年11月に刊行されたサルマン・ラシュディによる小説集『The Eleventh Hour: A Quintet of Stories』は、2022年8月に彼を瀕死の重傷に追いやった襲撃事件以降、初めて発表された作品集である。本書は短編小説と中編小説を含む五つの物語から成り、いずれも比較的短い形式で書かれている。

本書が特別な意味を持つのは、死と間近に向き合った経験を経て、彼が「人生の第十一時」、すなわち時間が尽きかけた瞬間に何が立ち現れるのかを主題として掘り下げているからである。78歳となった作家は、人は終わりに際して静けさと怒りのいずれを抱くのか、あるいはその両方を同時に生きるのかを問いかける。

物語の舞台は、ラシュディ自身が人生を過ごしてきたインド、イギリス、アメリカにまたがり、死と時間のみならず、遺産、アイデンティティ、魔術、幽霊といった主題が交錯する。五編は独立した物語でありながら、関心と主題のレベルで強く結びついている。

冒頭の「In the South」は南インドの都市・チェンナイを舞台に、隣り合うベランダから日課のように口論を続ける二人の老人を描く。一人は充実した人生を送り、あとは死を待つだけだと語る。もう一人は自分の凡庸さと自尊心の低さに葛藤しながらも希望を持ち続けている。しかし終盤のある展開を通して、生と死が「ベランダ」のように紙一重で並び立つことを静かに示す。

2番目の中編小説「The Musician of Kahani」は、著者の幼少期の故郷であり、『真夜中の子供たち』で知られるムンバイの街を再訪する。シタールとクラシックピアノの両方で並外れた才能を持ち、魔術的な力を帯びた音楽を奏でる天才少女を中心に展開される家族の物語である。彼女は富と特権、自己中心的な態度が渦巻く大富豪の家庭に嫁ぐ。そこでは義理の両親による非道な扱いが待っていた。主人公は自身の音楽の力を使って復讐を果たしていく。祝福にも復讐にもなりうる魔法の音楽を通して、権力や家族、芸術と力の関係が問われる。

3番目の中編小説「Late」はイギリスの大学を思わせる場所を舞台にした幽霊譚である。生前に傷を負った学者の亡霊が、孤独なインド人留学生との交流を通して未完の過去と向き合い、安息を求める姿が描かれる。61歳で突然命を落とし亡霊となったアーサーは、自らのセクシュアリティゆえにイギリス当局から非人道的な扱いを受け、人生を台無しにされた過去を持つ。このキャラクターは、著者が学生時代に出会った作家E・M・フォスターと、第二次世界大戦でエニグマ暗号解読に貢献しながらも、同性愛者であったことから悲劇的な運命を辿ったアラン・チューリングという、二人の人物を融合させている。

4番目の中編「Oklahoma」は実験的なメタフィクションで、死後に残された作家の原稿という形式を取り、失踪と虚構、文学的引用が折り重なる。カフカやゴヤの影が差し込まれ、権力と表現、未完であることそのものが主題として浮かび上がる。

結びとなる短編「The Old Man in the Piazza」は、言論の自由を寓話的に描いた作品である。一人の老人が通行人たちの熱狂的な議論を傍観していると、やがて彼はその論争の結末をジャッジしなければならない立場に巻き込まれていく。単純化された物事の良し悪し、正しいか間違っているかに囚われ、言葉が制限されるとき、言語そのものが場を去り、人々が語る力を失っていくという設定は、全編を締めくくる警句として強い余韻を残す。

本書の著者サルマン・ラシュディは、1947年6月19日、イギリス領インド帝国のボンベイ(現在のムンバイ)で生まれた。彼はインドからイギリス、そしてアメリカへと移住した「二重の移民」経験を持つ。ケンブリッジ大学キングス・カレッジで歴史学の学位を取得して卒業後、広告コピーライターとして働いていたが、1981年に発表した第二作『Midnight’s Children』(真夜中の子供たち)でブッカー賞を受賞し、一躍国際的な名声を確立した。1988年の第四作『The Satanic Verses』(悪魔の詩)が、一部のイスラム教徒にとって預言者ムハンマドを冒涜するものと見なされ、1989年にイランの最高指導者から死刑宣告を受け、約10年間にわたり厳重な警護下での生活を余儀なくされたことはよく知られている。

2022年8月12日、彼はニューヨーク州シャトークアの講演会で登壇直前に男に襲撃され、複数箇所を刺され、右目の視力を失い、肝臓や手に重傷を負った。襲撃後、彼は奇跡的な回復を遂げたが、その回復の過程と経験について書かれたのが、前作である回顧録『Knife: Meditations After an Attempted Murder』(ナイフ:殺人未遂後の省察)である。

AP通信がYouTubeで公開しているインタビュー動画によると、襲撃を受けた直後のラシュディは、フィクション作品の執筆について考える余裕が全くなかったと述べている。しかし『ナイフ』を書き終えて刊行されるタイミングで、再びフィクションの執筆に向けて前に進むことができたという。

『The Eleventh Hour』は、死を意識した作家が到達した静かながら鋭利な地点を示す一冊である。死・老い・遺産という普遍的なテーマを、マジックリアリズムとメタフィクションの手法を駆使して描き出したラシュディは、回顧録を書き終えたことで再び創作の世界へと回帰した。本書は物語の力と言葉の行方を改めて読者に問い返すとともに、言論の自由のために闘い続けてきた作家の不屈の精神を体現する作品である。襲撃という凄惨な経験を乗り越え、なお人間存在の根源的な問いに向き合い続けるラシュディの姿勢は、世界中の読者を惹きつけてやまないだろう。​​​​​​​​​​​​​​​​

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参考資料:

youtu.be

Book excerpt: "The Eleventh Hour" by Salman Rushdie - CBS News

THE ELEVENTH HOUR | Kirkus Reviews

In The Eleventh Hour, Salman Rushdie writes like he’s running out of time

In 'The Eleventh Hour' Salman Rushdie explores mortality, legacy, and the nature of art | NPR Illinois

The Eleventh Hour by Salman Rushdie – a haunting coda to a groundbreaking career | Salman Rushdie | The Guardian




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