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『1929』アンドリュー・ソーキンが大恐慌時代と現代の共通点を描いたノンフィクション

2025年10月に刊行されたアンドリュー・ロス・ソーキンの新著『1929: The Inside Story of The Greatest Crash in Wall Street History』(1929――ウォール街史上最大の暴落の内幕と、国を打ち砕いた衝撃)は、単なる歴史の回顧ではなく、世界を揺るがせた金融崩壊を人間の視点から描き出す濃密で劇的なノンフィクションである。著者ソーキンは、2008年金融危機を題材としたベストセラー『Too Big to Fail』(邦訳:リーマン・ショック・コンフィデンシャル、早川書房)で知られており、本書をその「前日譚」と位置づける。著者は過去を徹底的に掘り下げることで、同じ過ちの再発を防ぐ手がかりを探ろうとしている。

本書の中心にあるのは、経済システムやデータ分析ではなく、運命を左右した人間たちの決断と葛藤である。ソーキンは「読者をあの部屋の中に連れていく」ことを目指し、当時の現場を生々しく再現している。彼はこの作品のために8年を費やし、歴史家というより探偵のように、これまで誰も手にしなかった細部の証拠を追い求めた。ニューヨーク連邦準備銀行やニューヨーク銀行の議事録を初めて入手し、J.P.モルガンを実質的に率いたトーマス・ラモントとフーバー大統領との電話記録まで発見した。こうした資料によって、物語は直接引用や会話を通じて展開され、歴史がまるで現在進行中の事件のように立ち上がる。

1920年代のウォール街は「金融の西部開拓時代」と呼ぶにふさわしい無秩序な世界であった。当時、1934年に設立される証券取引委員会(SEC)がまだ存在せず、インサイダー取引を禁じる法律もなかった。時代の特徴は借金、すなわちレバレッジの氾濫である。1919年以前、借金は「道徳的な罪」とみなされていたが、ゼネラル・モーターズが自動車購入のための信用販売を導入し、シアーズ・ローバックなどが家電販売で信用販売に追随した。ナショナル・シティ銀行(現シティグループ)の頭取チャールズ・ミッチェルはこの仕組みを株式市場に応用し、投資家が1ドルを元手に10ドルを借りて株を買うマージン取引を広めた。株価が1928年から1929年にかけて62%も上昇する中で、この仕組みは「無料の金」と錯覚された。

当時の熱狂を象徴するのがRCA(ラジオ・コーポレーション・オブ・アメリカ)である。ラジオやテレビの特許を持つ同社は、まるで現代の「NVIDIA」や「ミーム株」のように未来への投機の象徴と化した。金融の民主化を掲げて一般市民が市場に参入する潮流が広がったが、それは同時に暴走の始まりでもあった。

ソーキンはこの時代を動かした人物たちの動機と行動を精密に描く。ナショナル・シティ銀行のカリスマ頭取チャールズ・ミッチェル(通称サンシャイン・チャーリー)は、現代のJPモルガン・チェースの会長ジェイミー・ダイモンやミルケン研究所のマイケル・ミルケンに比せられる存在であり、信用拡大を推し進めたが、のちに議会で追及され、逮捕の憂き目にあった。デュポンおよびGMの重役ジョン・ラスコブは、イーロン・マスクのような多面的野心家で、自動車、政治、そして「宇宙船」に例えられるエンパイア・ステート・ビルの建設に関与した。彼は消費社会を支える週5日労働制の提唱者でもあった。上院議員カーター・グラスは、ウォール街の過剰を厳しく批判した「時代のエリザベス・ウォーレン」とも呼ばれ、商業銀行と投資銀行を分離するグラス=スティーガル法の立案で知られる。だがソーキンは、その背後にあった政財界の駆け引きと利害闘争をも暴いている。伝説的投機家ジェシー・リバモアは暴落で1億ドル超を得たが、感情の不安定さに苦しみ、1940年に自殺した。さらに、ウィンストン・チャーチルグラウチョ・マルクスといった著名人までも投機熱に巻き込まれ、莫大な損失を被っている。

ソーキンは1929年の株価大暴落を、より深刻な大恐慌の「第一のドミノ」として描く。その後の経済崩壊をもたらしたのは、連鎖する政策的失敗であった。まず、設立間もない連邦準備制度理事会(FRB)が政治的反発を恐れて適切な金利政策や流動性供給を行わなかったこと。次に、フーバー大統領がスムート・ホーリー関税法を1930年に成立させ、世界貿易を60%縮小させたこと。そして景気後退期に増税を実施するなど、誤った財政運営を行ったことである。最終的にフランクリン・ルーズベルト政権が銀行休日、グラス=スティーガル法、FDICやSECの創設といった改革を断行し、金融システムの再構築を図った。

ソーキンは「歴史は繰り返さないが韻を踏む」というマーク・トウェインの言葉を引用し、1920年代と2020年代の不穏な類似点を警告する。彼は現在の市場心理を「興奮度10段階のうち9から10」と評し、崩壊は時間の問題だと指摘する。1929年当時のラジオ投機に似て、現代ではAIが莫大な資金を呼び込んでおり、その多くが信用取引や債務に支えられている。さらに、「金融の民主化」と称して個人投資家が高リスク資産を年金口座で扱えるようにする規制緩和が進み、詐欺や不正の温床となりかねない。そして経済ナショナリズムの再燃や、FRBの独立性を脅かす政治的圧力も、1930年代を思わせる危うさをはらんでいる。

本書の出版に合わせて、ソーキンが出演するビデオポッドキャストや書店イベントが公開されているが、今日の市場状況と1929年の大暴落前夜との間に、いくつかの「不気味なほどの類似点」があることを指摘しており、その多くがトランプ政権の政策や動向と関連している。彼が知るCEOのほとんどは、トランプ政権が行っていることの多くにかなり困惑していると感じている。しかし一方で金融業界の人々は、トランプ政権が推進する規制緩和のアイデア、特に企業が四半期報告を年に2回に減らすことを好む傾向にあると指摘している。この計画は市場の透明性を奪うことにつながりかねず、もし実行されればより多くのインサイダー取引や不正行為が発生する可能性についても論じられている。公開企業に関する情報が限られることで、一部のエリートだけが情報にアクセスできるようになり、一般の投資家は取り残されてしまうのだ。そのような未来が「もうすぐそこにある」ということは、世界中の投資家にとって、また全ての生活者にとって懸念すべき事態である。

著者アンドリュー・ロス・ソーキンは、1977年生まれのアメリカ人ジャーナリスト、作家である。彼は高校時代からニューヨーク・タイムズインターンとして活動し、1999年から同社で記者として働いている。2011年からはCNBCの朝番組の共同アンカーを務める一方、2009年に出版された『Too Big to Fail』はカーティス・ハンソン監督によりHBOで映画化もされ、著者も共同プロデューサーに名を連ねている。さらにドラマシリーズ『ビリオンズ』の共同制作者を務めたことでも知られている。

結局のところ、ソーキンが描く1929年の物語は制度や政策ではなく、人間の本性の物語である。人は「もっと」を求める欲望と不安に突き動かされ、常に新たなレバレッジと投機の手段を生み出す。そのため、金融システムが自らを破壊しないためには、謙虚さと強固なガードレール(規制)が不可欠である。『1929』は、過去を鏡として現代の傲慢を照らし出す、静かで鋭い警鐘の書といえるだろう。

▼Rakuten


 

参考資料:

www.youtube.com

youtu.be

youtu.be

‘Disorder, fright and confusion’: looking back at the devastating Wall Street crash of 1929 | Books | The Guardian

Andrew Ross Sorkin on worrying similarities between Wall Street today and 1929's pre-crash market - CBS News

Lessons from Market Crashes Past




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