2025年9月に刊行されたカマラ・ハリスによる『107 days』は、アメリカ合衆国第49代副大統領がジャーナリストのジェラルディン・ブルックスと共著した政治回想録であり、ジョー・バイデンの大統領選撤退を受けてハリスが挑んだ2024年大統領選挙を、わずか107日間という「現代で最も短い大統領選」として克明に記録している。
本書ではまず、バイデン大統領とその陣営への辛辣かつ複雑な評価が展開される。再選をバイデン夫妻の「個人的判断」に委ねたことを「無謀」とし、自らが沈黙したことの責任を認め、この決定は個人のエゴや野心に委ねるべきではなかったと振り返る。ハリスはバイデンの資質を擁護しつつも、81歳という年齢が肉体的・言語的な疲れとなって現れたと記す。2024年の討論会での不調、スタッフの誤った勝利声明、さらには自身に対する支援不足や疑念を綴り、忠誠心と不信感の交錯を鮮やかに描いている。トランプとの討論直前にバイデンから根拠の薄い噂をぶつけられた逸話は、その緊張感を象徴している。
同時にハリスは自らの失策も率直に語る。「The View」での不用意な発言がトランプ陣営の格好の材料となったこと、バイデンと距離を置けなかったこと、そして107日という短さが致命的だったことを認める。司会者の一人から、過去4年間でバイデン大統領と「何か違うことをしたか」と尋ねられた時に、準備していた論点が出ず、「頭に浮かぶことは一つもない」と答えてしまったのだ。彼女はこの瞬間を「手榴弾のピンを抜いたとは夢にも思わなかった」と振り返っている。
副大統領候補選びの過程も興味深い。第一候補だったピート・ブティジェッジは優秀なコミュニケーターであり、理想的なパートナーと評している。しかし、黒人女性が率いる政権で、ゲイの男性を副大統領に据えることは「リスクが大きい」と判断したのだ。
選挙期間中のエピソードも興味深い。トランプは2度目の暗殺未遂事件の後、ハリスに電話をかけ、公の場での攻撃とは裏腹に、「今どうやってあなたの悪口を言えばいいんだ?控えめにするよ、本当に」と語ったという。ハリスは彼の魅力に感嘆しつつ、「彼は詐欺師だ、本当にうまい」と思ったという。
大統領選の結果は彼女にとって「息もできないほどだった」と振り返る。敗北を知った翌朝は「受け入れることができず、恥ずかしい思いをした」とその心情を赤裸々に綴っている。
終章でハリスは今後の政治的進路を明言せず、2026年カリフォルニア州知事選への不出馬を表明。現在は全米を巡り人々の声を聴く活動に専念しているという。彼女は「アメリカの政治制度は壊れている」と強調し、10時間に及ぶ自身の朗読によるオーディオ版も含め、率直な思いを読者に届けている。
本書への受け止め方は様々である。保守派からは「敗者の日記」と酷評され、民主党内からも「ゴシップ本」との批判が出ている。一部の民主党関係者は、本書が戦略的に問題があるものだと感じ、彼女が「政界から離れたがっているように読める」とコメントしたことが報道されている。
『107 Days』は、歴史的な大統領選挙を内側から描き、短期間で激動の選挙戦を戦い抜いた女性政治家の内面を深く理解するための重要な証言となるだろう。現在展開しているブックツアーでは、パレスチナ解放を訴えるアクティビストの乱入など、すでに話題に事欠かない。カマラ・ハリスのこれからの人生に何が待ち受けているのか、様々な想像が膨らむ回顧録である。
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参考資料:
Takeaways from Kamala Harris' new book, '107 Days' : NPR
Kamala Harris’ New Book Gets Brutal Reception - Newsweek