2025年6月に刊行されたヨナス・ハッセン・ケミリの長編小説『The Sisters』(スウェーデン語題『Systrarna』)は、家族、アイデンティティ、呪い、そして時間の流れを描き出す物語であり、著者が初めて英語で執筆した作品である。物語は2000年から2035年までの35年間にわたり、チュニジア人の母とスウェーデン人の父を持つ三姉妹イーナ、エヴリン、アナスタシア・ミッコラと語り手ヨナスの人生を追う。
ミッコラ姉妹の母はチュニジア人の絨毯売り、父はスウェーデン人で幼い頃に彼女たちを置いていった。物語の核となるのは、「愛するものはすべて失われる」という呪いである。三姉妹は、何かに執着すればそれを失うという感覚にさいなまれ、何かに愛着を抱くことが難しくなる。物語が進むにつれて、登場人物たちはこの呪いの物語を書き換えるために葛藤し、最終的には自分自身の物語を別の物語に置き換えることでしか、この「呪い」から逃れられないことに気づく。
本書は7部構成で、1年、半年、3か月、1か月、1週間、1日、1分と章を追うごとに時間が短くなっていく独自の構造を持ち、加齢とともに時間が加速する感覚を巧みに表現している。
登場人物はいずれも個性的なキャラクターである。長女イーナは背が高く真面目で整理魔、バスケットボールが得意だが孤立しがちな女性である。次女エヴリンは夢見がちで人を惹きつける話し上手、顔に特徴的なえくぼがあり、やがて俳優となる。三女アナスタシアは気まぐれで怒りっぽく創造的、チュニジアに渡って恋に落ち、その後広告業界で成功する。語り手ヨナスは三姉妹の近くで育ち、特にエヴリンに深い関心を寄せながら、チュニスからストックホルム、ニューヨークまで彼女たちと交錯していく。
語り手ヨナスは著者と同名で混血という共通点を持ち、フィクションとノンフィクションの境界を曖昧にする。各章の冒頭には著者が長年向き合えなかった個人的記憶が添えられ、スウェーデン語では直視できなかった痛みを英語で初めて解放した。英語での執筆は彼に大きな自由を与え、スウェーデン語を「メニューの少ない小さなレストラン」、英語を「何でも揃うビュッフェ」と表現している。
物語はチュニス、ストックホルム、ベルリン、ニューヨークといった都市を巡り、姉妹が理想と現実の狭間で「故郷」を探し続ける過程を描く。事実よりも「感情的真実」を重視し、家族の物語や神話、そして執筆そのものを、不安定な世界で意味を見いだし喪失に耐えるための技術として描いている。
ヨナス・ハッセン・ケミリは1978年にスウェーデンのストックホルムで生まれた。チュニジア人の父とスウェーデン人の母を持つ。2003年のデビュー作『Ett öga rött(一つの赤い目)』はスウェーデンでベストセラーとなった。その後もコンスタントに小説を発表しており、特に『The Family Clause』は2020年の全米図書賞の翻訳文学部門の最終選考にも選ばれ、フランスで最も栄誉ある翻訳書に贈られるPrix Médicisも受賞している。ちなみに本作は2021年から2022年にかけての、ニューヨーク公共図書館でのフェローシップ期間中に執筆され、「キャラクターたちが英語で話しかけてくる」という感覚があったため、英語で執筆した後に自分でスウェーデン語に翻訳したという。そのため2025年全米図書賞でノミネートされた際には、英語に翻訳された小説ではなく、一般の英文学と同じように英語で書かれた「フィクション」という扱いになっている。
『The Sisters』は家族の呪いやアイデンティティの探究といった普遍的なテーマを、非常に実験的な構造で描いた作品である。多文化の狭間で生きる人々の内面を深く掘り下げながら、読者に思考と感情の揺さぶりを同時に与える優れた小説といえるだろう。
▼Rakuten
|
|
参考資料:
A Story Needs to Shake You Up | Los Angeles Review of Books
Translating Myself: PW Talks with Jonas Hassen Khemiri