2025年3月に刊行されたスティーヴン・グレアム・ジョーンズの最新作『The Buffalo Hunter Hunter』は、文学と歴史小説にジャンル的要素を巧みに融合させた歴史ホラーである。本作は1870年にモンタナでアメリカ軍によってピーガン・ブラックフット族のキャンプで起きた虐殺事件を題材に展開される。
物語は3つの入れ子構造となっており、異なる時代を生きる三人の語り手によって紡がれる。2012年のエッツィー・ボーカーンはテニュア(終身在職権)獲得を控えた大学教授である。彼女は曽祖父アーサー・ボーカーンの1912年の日誌を牧師館の改修中に発見する。研究上の成果を期待する彼女は、その日誌を紐解くうちに19世紀の悪夢を自らの時代に引き寄せることになる。
1912年のモンタナ州マイルズシティに暮らすアーサー・ボーカーンはルター派牧師であり、奇妙で少し威圧的な先住民の男、グッド・スタブの告白を記録する。グッド・スタブは複数の名前を名乗るが、最終的にこの名前が定着する。アーサーは彼の訪問の印象と、薄暗い部屋で語られるグッド・スタブの物語を交互に記録していく。
1870年代のピーガン・ブラックフット族の戦士グッド・スタブの告白が、本作の最も深い層を構成している。ブラックフット族が米軍によって虐殺されたマリアス虐殺という史実を背景に、グッド・スタブは自らの吸血鬼としての長い人生と、先住民の土地が白人入植者によって奪われ、バッファローが乱獲され絶滅寸前に追いやられた悲劇的な歴史を語っていく。彼の語りは先住民的な世界観と霊的感覚に深く結びついている。
この小説はブラックフット族の文化と歴史に根差しており、現実の出来事を背景に据える。特に1870年にアメリカ陸軍がピーガン・ブラックフット族を襲撃し200人以上の女性や子ども、高齢者を虐殺したマリアス川虐殺、さらには欧州系入植者によるバイソン(厳密にはバッファローとは異なる種だが、アメリカ・バッファローとも呼ばれる))乱獲による絶滅の危機が物語の底流にある。著者は血にまみれた植民地時代のアメリカの暴力を描き出し、勝者が書く歴史がいかに漂白され、覆い隠されてきたかを暴き出す。
グッド・スタブの吸血鬼像には独自性がある。彼は吸血した相手に似ていく特性を持ち、白人を吸血すれば髪は赤く、肌は灰色に、瞳は青く変わり、部族の中で見知らぬ者と化す。先住民としての姿を保つためには同胞を吸血せねばならず、吸血は力ではなく呪いとして描かれる。この設定は同化の悲劇を象徴し、祖先と土地を結ぶ絆を奪い去るものとして提示される。
スティーヴン・グレアム・ジョーンズは、1972年にテキサス州ミッドランドで生まれた、ブラックフット族にルーツを持つ作家である。彼はこれまでに30冊以上の小説や短編集を執筆しており、『The Only Good Indians』、『My Heart Is a Chainsaw』、『Mongrels』といった代表作で知られる。ホラーフィクションを中心に、実験小説、犯罪小説、サイエンス・フィクションなど幅広いジャンルを手掛けている。優れたホラー小説に贈られるブラム・ストーカー賞を複数回受賞し、シャーリイ・ジャクスン賞やレイ・ブラッドベリ賞など、数々の文学賞を受賞している。ジョーンズは、ホラーというジャンルを通じて、先住民の歴史、文化、そして現代社会が抱える根深い問題を問い続けている。
『The Buffalo Hunter Hunter』は、血で汚れたアメリカの歴史を背景に、忘れがたい物語として構築された傑作である。ホラーというジャンル小説の形式を借りながらも、アメリカの大地に古くから根付いてきた人々の生を踏みにじった行為を、決して忘れてはならないと訴えかける作品である。
参考資料:
History in All Its Gory Glory: The Buffalo Hunter Hunter by Stephen Graham Jones - Reactor
Stephen Graham Jones' 'The Buffalo Hunter Hunter' is a horror masterpiece : NPR