2025年6月に刊行されたクレア・アダムの新作『Love Forms』は、母性愛、喪失、アイデンティティ、そして家族と故郷との深い絆を描いた長篇小説である。本作は、数々の賞を受けたデビュー作『Golden Child』に続く著者の第2作目にあたり、2025年ブッカー賞のロングリストにもノミネートされている。
物語の主人公は、1980年のトリニダードで暮らす16歳の少女ドーン・ビショップである。カーニバル期間中に観光客と短い関係を持ち、妊娠してしまったドーンは、裕福な家庭の体面を守るため、両親の判断で極秘裏にベネズエラへ送られる。修道女たちが管理する家で4ヶ月を過ごし、出産を終えた後、ドーンはその娘を養子に出し、何事もなかったかのようにトリニダードへ戻る。
その後、ドーンはイギリスへ移住し、医師としてのキャリアを築き、結婚・出産・離婚を経て二人の息子を育てる。しかし、ベネズエラで手放した娘への思いは40年経っても消えることがない。58歳となった現在、ロンドンで静かな生活を送る彼女のもとに、ある日インターネットのフォーラムで自分こそが失われた娘だと名乗る女性から連絡が届く。この出来事を契機に、ドーンは自らの過去に再び向き合い、トリニダードへと旅立つ。
本作は、トリニダードの豊かな自然と社会的変化、1970年代の石油危機や麻薬取引の影響、さらにはドーンが過ごしたベネズエラでの日々やロンドンでの穏やかな生活の描写を通して、複数の時代と場所を行き来しながら進行する。過去と現在が織り交ぜられる構成は、記憶の重なりや揺らぎを巧みに表現している。
クレア・アダムがPeopleに寄稿した記事*1によると、本書の表紙は母メアリー・アダムが描いたものであり、母と娘、別離と再会、そして思いがけない形で再びつながる人間関係の主題を象徴しているそうだ。表紙の静物画は「一見ばらばらに見えるものも、もとは一つであり、愛も果実のように時を経て熟す」という本作の核心的なメッセージを視覚的に伝えている。同じ記事の中でクレア・アダムは、ドーンの物語を書くことで、自身の母が医師の道を断念して家庭に尽くした人生とその芸術的才能を、より深く理解できたと語っている。
著者クレア・アダムはトリニダード・トバゴのポートオブスペインで生まれ育った。トリニダード人の父とアイルランド人の母を持つ。18歳でトリニダードを離れてアメリカへ渡り、ブラウン大学で物理学を学んだ。その後、数年間イタリアとアイルランドで生活し、現在は夫と二人の子供と共にロンドンに住んでいる。ロンドンのゴールドスミス大学でクリエイティブライティングの修士号を取得し、そこで初の小説『Golden Child』の執筆に取り掛かった。『Golden Child』(2019年出版)は、2019年のデズモンド・エリオット賞、2020年のマキタリック賞、バーンズ&ノーブル・ディスカバー・グレート・ニュー・ライターズ賞、オーサーズクラブ最優秀デビュー小説賞など、数々の賞を受賞した。また、BBCの「世界を変えた100の小説」の一つにも選ばれている。
『Love Forms』は、安易な結末を提示することなく、別離の痛みと癒しの可能性を誠実に描いた作品である。本書で描かれる静かな痛みを抱えた主人公の声は、多くの共感を呼ぶものとなるであろう。
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参考資料:
Love Forms by Claire Adam review – the power of a mother’s loss | Fiction | The Guardian
Love Forms: Longlisted for the Booker Prize 2025 | The Booker Prizes
https://www.goodreads.com/book/show/220999014-love-forms
*1:My Mom Painted the Cover of My Mother-Daughter Novel (Exclusive) . People . 2025.07.28