2024年9月に刊行されたアルバニア系アメリカ人作家レディア・ジョーガのデビュー小説『Misinterpretation』は、コミュニケーションの失敗と誤解や無制限の利他性が引き起こす代償を、繊細かつ鋭く描いた作品である。また本作は、2025年7月に発表されたブッカー賞ロングリストにも名を連ね、その文学的完成度の高さが改めて注目を集めている。
物語の語り手は、名前の明かされないアルバニア系移民の女性通訳者で、映画学を専門とする大学教授の夫ビリーとブルックリンで暮らしている。彼女は移民としての共通経験を持つ人々への支援に強く突き動かされるが、その思いは次第に家庭に影を落とし、夫婦関係のひずみを生むことになる。彼女の優しさは周囲に惜しみなく注がれる一方で、最も身近な存在である夫の声に耳を傾けることは少ない。
物語の冒頭では、コソボからの拷問被害者であるアルフレッドとの出会いが描かれる。通訳者として彼のセラピーに立ち会うも、彼の苦しみに過度に共感し、自らの内面世界に没入していく結果、初回の面談でセラピストから解任されてしまう。アルフレッドの側でも彼女の姿勢を誤って受け取り、両者の関係は想定外の方向へと進んでいく。
さらに彼女は、政治的亡命を申請中のクルド人詩人レイラとその知人を週末の間自宅に迎え入れるが、突如帰宅した夫ビリーは、プライベートな空間が見知らぬ来客によって占拠されていることに激しい怒りを露わにする。怒声や扉を乱暴に閉める姿が描写され、夫婦のあいだに深い溝が刻まれる。語り手は、やがてレイラをつけまわす人物を排除しようと奔走し、その背後にレイラの過去と関係する人物の存在があることを知る。彼女の過剰な介入は、自身の精神的バランスを崩し、関係の破綻を加速させていく。
その後、ビリーは半年間のアーティスト・レジデンスとしてハンガリーに渡り、語り手は母の住むアルバニアに帰郷する。そこで彼女は、幼少期の記憶や家族との複雑な関係をたどりながら、自身がなぜ他人の苦しみにこれほどまでに巻き込まれようとするのか、そのルーツを探り始める。
帰国後、再びブルックリンの生活に戻った彼女は、自らが下してきた選択とその余波に直面する。物語の終盤では、現実と幻想の境界があいまいになり、語り手の信頼性そのものが問い直される展開が待っている。
著者のレディア・ジョーガは、アルバニアのティラナに生まれ、現在は家族とともにニューヨークのブルックリンで暮らしている。かつては出版業界で働いた後、テキサス州立大学で創作を学び、フィクションの修士号を取得した経験を持つ。また本書は、同じくアルバニア系のアーティストであるデュア・リパが主宰するブッククラブにおいても取り上げられている。
『Misinterpretation』は、トラウマや記憶の重層性、そして「他者の声をどう伝えるか」という倫理的課題をテーマに据えた意欲作である。自己犠牲と共感のバランスに苦しむ語り手の姿を通して、読者自身もまた、人と人とのあいだに生まれる誤解と理解の可能性に思いを馳せることとなるだろう。
▼Rakuten
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参考資料:
MISINTERPRETATION | Kirkus Reviews
Misinterpretation: Longlisted for the Booker Prize 2025 | The Booker Prizes
Book Review: Misinterpretation by Ledia Xhoga