ヴィクトリア・アメリーナの遺作『Looking at Women Looking at War: A War and Justice Diary』(戦禍の女性たちをみつめて:戦争と正義の日記)は、2025年2月の刊行以来、国際的な注目を集めている。本作品は、ロシア・ウクライナ戦争の現実を女性の視点から記録したドキュメンタリー文学として、戦争文学の新たな地平を切り開いている。
戦争勃発当時、作家として活動していたアメリーナは、母国の危機に直面し、自身の役割を根本的に見つめ直すことになる。文学者から戦争犯罪の証言者へと変貌を遂げた彼女は、戦時下における女性たちの体験を記録することに使命を見出した。破壊された教育機関や文化施設を巡り、証言者たちの声に耳を傾けながら、彼女は現代史の重要な一ページを書き留めていく。
この作品が特筆すべきは、戦争に巻き込まれた女性たちの多様な経験を浮き彫りにしている点である。法曹界から軍事分野に転身した人物、人権活動家としてノーベル平和賞を受賞した活動家、文学関係者の安否確認に奔走した図書館員など、様々な背景を持つ女性たちの軌跡が描かれている。特に印象的なのは、アメリーナの調査活動を支えた先輩格の女性調査員の存在である。この人物は2014年の紛争開始から長年にわたり困難な任務に携わり、一時は平穏な生活を望んでいたものの、情勢の悪化により再び現場に戻ることを余儀なくされた。
アメリーナの視点は、単純な戦況報告を超えた深い洞察を提供している。現在起きている破壊行為が、長期にわたるウクライナ文化への組織的攻撃の一環として位置づけている。この歴史的視点は、現在の紛争を単発的な事件としてではなく、より大きな文脈で理解する重要性を示している。
本書の構成上の特徴は、完成作品と未完成部分が共存している点にある。作家の生前に完成していた部分は全体の60%程度であり、残りの部分は彼女の関係者たちによって補完された。録音記録の文字起こし、執筆途中の原稿、詳細な注釈などを組み合わせることで、全体として一つの作品に仕上げられている。この混合的な構成は、戦争の混乱状態と突然の死という現実を反映した独特の文学形式を生み出している。
アメリーナの経歴を振り返ると、1986年にリヴィウで生まれ、青年期に一時カナダで生活した後、故郷に戻って大学を卒業する。コンピューター科学の学位取得後、技術分野での職業経験を積んだが、2015年に創作活動に専念することを決意した。彼女の文学的出発点は、2014年の政治的変革を題材とした『The Fall Syndrome, or Homo Compatiens』だった。その後、児童文学『Somebody, or Waterheart』、歴史的背景を持つ小説『Dom’s Dream Kingdom』など、幅広いジャンルで作品を発表し、後者はEU文学賞候補にも選出された。
悲劇的な最期は、2023年6月下旬、東部戦線の危険地域で他の文学関係者と共に食事をしていた際に起こった。ロシア軍の攻撃により重篤な負傷を負い、数日後に37歳で生涯を閉じることとなった。
本作品は発表後、国際的な文学界で高い評価を受けている。2025年にはジョージ・オーウェル文学賞を受賞し、ウクライナ出身の作家として初の快挙を成し遂げた。審査委員会は戦争が人間に与える影響を深く描写した作品として評価している。また、マーガレット・アトウッドが序文を担当し、20世紀の戦争報道の巨匠に匹敵する才能として紹介している。
『Looking at Women Looking at War』は、現代ウクライナが経験している試練と、それに対する人々の対応を記録した貴重な証言として、後世に継承されていくべき作品である。アメリーナが生命を代償に残した記録は、極限状況下においても歴史を記録し続けることの意義を我々に問いかけている。
参考資料:
youtu.beMargaret Atwood on Victoria Amelina, Who Recorded the Lives of Ukrainian Women Under War ‹ Literary Hub