2025年2月に出版されたアン・タイラーの小説『Three Days in June』は、彼女が長年にわたって物語の舞台としてきたボルチモアのローランドパーク地区を舞台に、離婚した夫婦が一人娘の結婚式をめぐる3日間を描く物語である。この短篇小説は、タイトルが示すとおりの短い期間に焦点を当てているが、その中には愛、失恋、結婚、そして家族生活といった、タイラーがこれまで取り上げてきたテーマが凝縮されている。
主人公は、61歳の私立学校教員で副校長を務めるゲイルである。物語の冒頭、ゲイルは困難な状況に置かれている。娘の結婚式を控えた日に、退職する校長の後任に自分が選ばれなかったことを知らされる。新しい校長として外部から別の人物を迎える予定であり、その理由の一つとして、彼女の「対人スキルの欠如」が挙げられている。ゲイルは気難しい人物として知られ、他人の感情を顧みずに思ったことを口にしてしまう性格である。本人も社交が得意でないことを自覚しており、「口に出すのを我慢したことにも評価が与えられるべきだ」と考えている。しかし、一人称の語りを通して、彼女の内面には繊細な脆さがあることが浮かび上がる。娘の結婚式ですら、彼女は自分が「よそ者」のように感じているのである。
その週末をさらに混乱させるのが、元夫マックスの突然の来訪である。マックスはゲイルとは対照的で、のんびり屋で気まぐれ、散らかし屋で境界意識が希薄だが、心優しい人物である。マックスはいつも自分のスペースを過剰に使っているように見え、服装にも無頓着である。彼はダッフルバッグと一匹の老猫を連れて現れる。その猫は灰色と黒の縞模様の高齢の雌猫で、飼い主が亡くなってしまったため引き取り手を探している状況である。マックスは動物保護施設でボランティアをしており、動物の一時預かりも行っている。今回は、娘デビーの婚約者ケネスが重度の猫アレルギーであるため、娘の家には泊まることができず、やむなくゲイルの家を訪れたのである。
ゲイルは最初、マックスも猫も受け入れることに強い抵抗を感じていた。「もう世話を焼く人生は終わりにしたい」と考えていたからである。しかし、マックスが冷蔵庫の中の物を少しずつつまみ食いする癖や、ドアを開けっ放しにする習慣に苛立ちながらも、次第に惹かれていくという穏やかなユーモアが描かれている。
この物語の中心となるのは、ゲイルとマックスを再び引き合わせる娘の結婚式である。娘デビーは33歳で、ゲイルはデビーが義理の両親の側を好むのではないかと不安を抱いている。ところが、式直前になってデビーが涙ながらに、婚約者ケネスが最近浮気をしていたという衝撃の事実を明かす。これによって式の開催自体が危ぶまれ、対応をめぐってゲイルとマックスの意見が真っ向から対立することになる。
この告白は、ゲイルとマックス自身の過去にも波紋を広げることになる。彼らの離婚の原因となった不倫についても、ゲイルの口から語られるが、それは読者が想像するような展開ではない。この小説は、二人の「突然途切れた結婚」の中に残された未解決の感情を丁寧に掘り下げている。
著者のアン・タイラーは、1941年にミネソタ州ミネアポリスで生まれた。彼女はクエーカー教徒の両親のもと、南部のクエーカーのコミュニティで育った。この特異な生い立ちが、彼女に「普通の日常世界を一定の距離感と驚きをもって」見る視点を与えたと自身で語っている。デューク大学ではロシア文学を専攻し、コロンビア大学大学院でスラヴ研究を一年間学んだ後、デューク大学の図書館で働き始め、そこで後に夫となるイラン人精神科医タギ・モダレッシと出会った。彼女は現在もボルチモアに在住しており、多くの小説の舞台となっている。
タイラーはピューリッツァー賞(『Breathing Lessons』、1989年)、全米批評家協会賞(『The Accidental Tourist』、1985年)、ジャネット・ハイディンガー・カフカ賞(『Morgan's Passing』、1980年)など、数々の文学賞を受賞している。彼女は人物描写を作品の根幹に据え、日常のささやかな出来事や感情の機微を捉えることに長けている。家族や結婚といったテーマを繰り返し描いているが、これは「自分以外の人生を生きるため」であり、「人間が日々の生活をどう乗り切っていくか」に関心があるためだと述べている。2025年に83歳を迎える彼女にとって、本作は25番目の作品となる。
『Three Days in June』は、アン・タイラーの作家としての魅力が詰まった作品である。人生の予期せぬ出来事や過去の傷と向き合いながら、それでも前に進もうとする登場人物たちの姿は、読者に深い共感と感動を与えるものとなっている。
参考資料: