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『Educated』社会から隔離され教育を受ける機会がなかった女性の半生を振り返る回想録

2018年に出版されたタラ・ウェストーバーによる回想録『Educated』(邦題:エデュケーション 大学は私の人生を変えた)は、政府・医療・教育制度を信用せず、終末に備えようとするモルモン教徒の家庭に育った彼女が、高等教育を受けるまでの過程と、教育によって世界が広がっていく過程を描いている。
 
物語の舞台はアイダホ州の山岳地帯である。著者は7人兄弟の末っ子として育った。両親は政府、医療機関、公教育に対して強い不信感を抱く過激な独立主義者だった。父は文明崩壊を想定して武器や物資を備蓄し、陰謀論を信じて教育制度を「政府による洗脳」とみなしていた。母は助産師や薬草師として働いた。子どもたちは病院にかかることなく、怪我や病気は母の自然療法によって治療された。著者は自宅で生まれ、9歳になるまで出生証明書すらなかったという。
 
教育はほとんど受けておらず、形式上のホームスクーリングはあったものの、実質的には無教育に近かった。母と兄によって読み書きは習っていたが、宗教的な教本以外の書物に触れることは少なく、歴史や地理に関する知識は一切なかった。ホロコーストについて初めて知ったのは大学入学後であり、奴隷制度や公民権運動についても誤った理解しか持っていなかった。
 
生活は困難かつ暴力的であった。彼女は幼少期を馬に乗って過ごし、父の金属スクラップ置き場で働き、母と共に薬草を採取していた。父は安全対策を無視し、神の計画に従うべきだと信じていたため、重傷を負っても「学びの機会だった」と正当化していたのである。
 
本書では、兄ショーンからの身体的・心理的虐待についても描かれている。彼は著者に対して暴力や侮辱を繰り返し、彼女の顔を便器に押し付けたり、腕をねじったりした。ショーンは時に優しく、理解のある兄でもあったため、著者は自分が虐待を受けているという認識を持ちづらかったと振り返る。家族はしばしばこの暴力を否定し、見て見ぬふりをした。著者は虐待とはまず精神に対する攻撃であり、加害者が被害者の現実認識を歪め、自分が悪いのだと信じ込ませることで成立すると述べている。
 
そんな中でも彼女は「人は本気で学ぼうとすれば何でも学べる」という信念を持つようになった。家族の閉塞的な環境から抜け出したいという思いと、兄タイラーの勧めもあり、大学進学を志すようになる。必要な教科書を自費で入手し、夜な夜な独学して大学入試に備えた。
 
17歳で初めて教室に足を踏み入れた彼女は、ブリガム・ヤング大学(BYU)に入学する。当初は「森の動物」のように怯え、何も知らないことに強い恐怖を抱いていたが、彼女は優秀な学生であり、奨学金を得て学業を継続した。大学では、父の世界観とは異なる多様な価値観と出会い、大きな知的覚醒を経験した。大学で支援を受けた教授や教会指導者の助けもあり、彼女は返済不要の奨学金を得て学業を続けることができた。その後、彼女はハーバード大学に短期留学し、さらにケンブリッジ大学ではゲイツ奨学生として博士号を取得している。高校を卒業していない彼女が、27歳で博士号を得るまでに至った背景には、教育によって自己を創造する力があったと彼女は述べている。
 
この回想録は、教育が単なる学位の取得ではなく、「人間を形成する」手段であり、自分の人生を異なる視点から見つめ直す力を与えるものとして描かれている。教育は父の価値観に縛られた自己を問い直し、新しい自我を構築する鍵となった。
 
一方で、彼女の家族との断絶も大きなテーマとなっている。兄ショーンからの虐待について真実を語ったことで、家族はタラを非難し、嘘をついている、家庭を壊そうとしている、あるいは悪魔に取り憑かれているとまで言った。その結果、タラは家族の一部と絶縁することになった。彼女はアイデンティティの混乱に苦しみ、家族への忠誠と自己への忠誠の間で揺れ動いた末、最終的には自己への忠誠を選ぶ決断をした。この過程は、家族による歪んだ物語ではなく、自分自身の知覚と記憶を信じることを学ぶプロセスでもあった。
 
また、本書ではアメリカ社会の分断や二極化というより大きなテーマにも触れられている。著者は自らの経験を通じて、教育が対話と理解をもたらす手段であると同時に、時には傲慢さや断絶をもたらす危険性もあると指摘している。対話において「勝つこと」だけを目的にするのではなく、他者を一人の人間として理解し、優しさを持って接することの重要性を説いている。
 
タラ・ウェストーバーは、1986年、アイダホ州クリフトンに生まれた。歴史家、作家、回想録作家、エッセイストである。ブリガム・ヤング大学で学士号を、ケンブリッジ大学で博士号を取得した。ハーバード大学の客員研究員も務め、現在はロンドンに在住している。
 
ビル・ゲイツは、本書について「聞いていた以上に素晴らしい」と評価しており、「自身を形作った5冊の回想録」にこの本を含めている。特に、正規の教育を受けずに独学で学び、ケンブリッジ大学で博士号を取得したウェストーバーの並外れた学習能力に感銘を受けている。彼女の父親の極端な思想や家族の状況を描きながらも、冷笑的ではなく、家族のエネルギーや才能も認めている点を指摘している。また、ウェストーバーが教育を通じて自身の世界観を構築し、父親の信じていたことに対して異なる視点を持つようになった過程を「魅力的」だと述べている。ゲイツは、本書がアメリカ社会の分断に触れている点にも注目しており、教育を自己発見のプロセスであり、人をつなぎ平等にするメカニズムだと捉えるウェストーバーの考えに共感を示している。
 
『Educated』は、教育が個人の自己認識といかに深く結びついているかを描き出す、力強い回想録である。ウェストーバーの経験は極端なものではあるが、家族との関係、自己のアイデンティティの探求、そして異なる世界観への適応という普遍的なテーマを含んでおり、多くの読者の共感を呼んでいる。この本は、逆境を乗り越え、自らの手で人生を切り開いた一人の女性の驚くべき物語であり、教育の持つ人を変える力を改めて認識させてくれる作品である。

参考資料:

youtu.be

https://www.gatesnotes.com/home/home-page-topic/reader/summer-books-2025

Tara Westover - Wikipedia

'Guns and survivalists, but no school until I was 17'




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