以下の内容はhttps://breakfast-at-bnn.hatenablog.com/entry/2025/05/28/132709より取得しました。


『自然のものはただ育つ』イーユン・リーが2人の息子を自死で亡くした経験を綴った回想録

2025年5月に出版されたイーユン・リーの回想録『Things in Nature Merely Grow』(邦題:自然のものはただ育つ)は、二人の息子を相次いで自死で亡くすという想像を絶する悲劇から綴られる一冊である。
 
本書は主に次男ジェームズの死後に書かれており、冒頭から「これを伝える良い言い方はない」という警察が息子の死を告げに来た際の言葉が繰り返される。著者は淡々と「事実」を提示する。「夫と私は二人の子どもをもうけ、その両方を失った。ヴィンセントは2017年に16歳で、ジェームズは2024年に19歳で亡くなった。二人とも自死を選び、どちらも家からそう遠くない場所で死んだ」。著者は「事実、それらの論理、意味、重みが、私が頼るものなのだ」と記し、自身の経験を「思考」を通して捉えようとする姿勢を明確にする。これは論理や哲学に関心が高かったジェームズへの追悼という側面もある。
 
著者は2人の息子の個性や彼らの死の性質の違いについても深く考察する。ヴィンセントは感情豊かで饒舌だったが、ジェームズは理性的で沈黙を好んだ。ジェームズはウィトゲンシュタインの言語の限界を分析した著作を好み、比喩を嫌った。彼は死の直前にカミュの戯曲『カリギュラ』を繰り返し読み、作中の「人は死ぬ、そして人は幸福ではない」という一節に強く反応していた。著者はこれに「子どもは死ぬ、そして子どもは幸福ではない」「子どもは死ぬ、そして親は生きている」といった痛ましい変奏を重ねる。
 
本書の中心的概念の一つに「ラディカル・アクセプタンス(根本的受容)」がある。著者は、母親が子どものために人間的にできることをすべて行っても、その子どもを生かし続けられない場合があるという事実を受け入れなければならないと述べる。これは変えることのできない過去や、死者を生き返らせるという「もしも」の思考を避けることにもつながる。
 
本書では著者自身の個人的な歴史も語られる。母親からの虐待や、自身のうつ病と2度の自殺未遂の経験も率直に綴られており、これらの経験が彼女の現在の喪失への向き合い方や「ラディカル・アクセプタンス」への道にどのように影響しているかが示唆される。
 
喪失後の日常生活の描写は本書のもう一つの重要な側面である。著者はジェームズの死後すぐにピアノのレッスンを続け、ガーデニング、読書、執筆といった活動を続ける様子を描く。これらは悲嘆からの「回復」や「癒し」を目的としたものではなく、彼女にとっては「できることを続ける」「体を養い活動的に保ち、心を何かに向けて働かせ、鈍らせないようにする」ための行為であり、ただ「生きる」ことに他ならない。彼女は「私たちが持つのは死ぬまでの日々であり、その日々の中で、私は私の人生を生きる」と述べる。
 
本書のタイトルである『Things in Nature Merely Grow』(自然はただ、育ちゆく)は、著者が自身のガーデニングから得た洞察に基づいている。自然界では植物は成長し、そして死ぬ。動物や雑草、天候など、コントロールできない要素が存在する。ガーデニングの比喩を通して、人生や人間の生死にもコントロールできない側面があるという事実、自然のプロセスのように受け入れるべき部分があることを示唆する。
 
イーユン・リー(李翊雲)は1972年に北京で生まれ、現在はアメリカで活躍する作家である。2012年にうつ病と自殺未遂を経験し、自身の経験を綴った回想録『Dear Friend, from My Life I Write to You in Your Life』(邦題:友よ、私の人生から、あなたの人生を生きるあなたに書き送ります,2017年,文藝2017年冬季号に収録)を刊行している。そのわずか数か月後、16歳の長男ヴィンセントを自死で亡くした。ヴィンセントの死については死んだ息子との対話という実験的な小説『Where Reasons End』(邦題:理由のない場所,2019年)で探求している。そして2024年2月には19歳の次男ジェームズを自死で亡くしている。
 
『Things in Nature Merely Grow』は悲嘆の「プロセス」や「癒し」を求める読者にとっては慰めが少ない本かもしれない。著者自身、「ラディカル・アクセプタンス」の概念が一部の読者には受け入れがたいかもしれないと警告している。しかし本書は、筆舌に尽くしがたい喪失に直面した人間の率直で知的で、そして痛ましいほど正直な記録である。独自の視点と文体で語られる経験は、悲嘆が終着点のない永続的な状態でありうることを示している。

※2025年11月18日に河出書房新社より日本語訳が刊行されました

参考資料:

Things in Nature Merely Grow by Yiyun Li review – a shattering account of losing two sons | Autobiography and memoir | The Guardian

THINGS IN NATURE MERELY GROW | Kirkus Reviews

Review: After the unimaginable | Pittsburgh Post-Gazette

Yiyun Li - Wikipedia




以上の内容はhttps://breakfast-at-bnn.hatenablog.com/entry/2025/05/28/132709より取得しました。
このページはhttp://font.textar.tv/のウェブフォントを使用してます

不具合報告/要望等はこちらへお願いします。
モバイルやる夫Viewer Ver0.14