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映画『ラ・コシーナ/厨房』の原作、調理場で繰り広げられる多国籍のコミュニケーションを描いた戯曲『The Kitchen』

『The Kitchen』(ザ・キッチン)は、イギリスの劇作家アーノルド・ウェスカーによる二幕ものの戯曲である。1957年に書かれたウェスカーの最初の作品であり、過去に何度も舞台・ミュージカル・映画などの原作となっており、発表されてから70年近く経った今でもその魅力は色褪せることがない。元々の戯曲はロンドンの騒がしい大型レストラン「ティヴォリ」の地下キッチンを舞台に、一日の出来事を描いている。厨房という特定の空間における人間模様を通して、労働、夢、そして資本主義社会における労働者の搾取といった普遍的なテーマを掘り下げる。

戯曲の舞台となるキッチンのスタッフは、多様な国籍を持つ人々で構成されている。イギリス人、アイルランド人、キプロス人、西インド諸島人、ドイツ人などが入り乱れる。物語の中心となるのは、ドイツ人の陽気で血気盛んな若いシェフ、ピーターと、既婚のイギリス人ウェイトレス、モニークとの恋愛である。ピーターは感情的で攻撃的な人物として描かれつつも、観客の共感を誘う主人公である。彼とモニークとの関係は波乱に満ちており、モニークが夫と別れようとしないため、最終的に破局を迎える。
 
この戯曲は、労働の一日が持つ容赦ないリズムと過酷さを描く。朝の準備から始まり、昼食時のピークに向かってテンポが加速する。厨房内では怒声が飛び交い、コック同士の衝突、ウェイトレスの注文処理、ビールで気を紛らわせる従業員たちなど、緊張感の高まる描写が続く。断片的な会話、口論、感情の爆発も描かれ、厨房は常に張り詰めた空気に包まれている。また、登場人物たちの異なる出自がしばしば対立の火種となり、場の不和を象徴する。
 
この戯曲は、正式には2幕で構成されている。しかし、物語の進行や構造は、劇中の時間の流れと出来事に基づいて三つのパートに分けられることが多い。第一部では、物語が徐々にテンポを速め、昼食時の殺到する注文と格闘する様子がクライマックスとして描かれる。ウェスカーの脚本では、この場面は「バレエ的」であるべきとされており、登場人物の動きやセリフの応酬がまるで舞踏のように連携して進む。第二部では、昼食を終えた午後の静けさの中で、従業員たちが厨房に残り、それぞれの夢や将来の希望を語る時間が訪れる。彼らの夢は、友情や金銭、恋愛、あるいは別の職業に対する憧れといった、ささやかながらも切実なものである。そして第三部では、従業員たちが再び戻り、夕食の時間帯を迎える。昼ほどの忙しさはないが、それぞれの思いを抱えながら日常に戻っていく様子が描かれる。
 
本作のテーマには、自己発見、愛、死との対峙、政治的幻滅などが含まれている。特に、単調で反復的な労働が人間の想像力や感受性をどれほど麻痺させるかが、深く掘り下げられている。また、厨房という共同作業の場を通じて、連帯と協力の価値を描きながらも、労働者の搾取を助長する資本主義社会の問題点を鋭く批判している。
 
物語の終盤では、ピーターがモニークの夫との離別を望めないことを悟ったことで精神的に崩壊し、厨房のガス管を破壊するという暴挙に出る。この行動は、他の従業員たちの生活の均衡をも打ち壊す決定的な出来事となる。結末では、レストランの経営者であるマランゴ氏が、ピーターの行動を理解できず、「仕事と金、食事以外に、彼らは何を求めているのか」と問いかける。この問いは観客にも向けられており、ウェスカーは人生という名の厨房には、労働や糧を超えて、不信や憎しみ、愛、執着、恐れ、希望、そして夢までもが存在すると暗示している。日々の生活の中に潜む重圧と空虚さを描きながらも、作品はその解決策を明示することなく、「より良い世界」はあり得るかもしれないという希望を仄めかすにとどまる。
 
本作は世界中で広く上演されており、これまでに2度映画化されている。1961年にはジェームズ・ヒル監督により『The Kitchen』として映画化された。2024年に発表されたアロンソ・ルイスパラシオスが監督・脚本を務めた映画『ラ・コシーナ/厨房』は、舞台をニューヨークに移し、全編モノクロで話題となっており、2025年6月の日本公開を控えている。2011年にはロンドンのナショナル・シアターにおいて大規模なリバイバル公演が行われた。日本でも2000年に全員日本人キャストでミュージカル版が上演された記録が残っている。
 
ウェスカーは自身の作品が特定のカテゴリに分類されることを嫌ったが、「キッチンシンクドラマ」の重要な作家として認識されており、この戯曲もその代表作の一つとされている。キッチンシンクドラマは、労働者階級の日常生活をありのままに描き出すことで、観客が自身の生活との関連性を見出しやすくし、演劇をエリート層だけでなくより広い観客層に開かれたものにした。ウェスカーの『The Kitchen』は、イギリスの演劇史において、日々の労働の過酷なリズムと苦役を初めて劇的に表現した画期的な作品であった。
 
作者であるアーノルド・ウェスカーは、1932年にロンドンで生まれた劇作家である。母親は料理人、父親は仕立工場の職人で熱心な共産主義者であり、彼はユダヤ系の労働者階級の家庭で育った。戦時中の断片的な教育の後、王立演劇学校に合格するも経済的な理由で入学を断念した。空軍での兵役を経て、料理人、家具職人、書店員など様々な職を経験し、ロンドン・フィルム・スクールで学んだ。これらの経験、特に厨房での労働は彼の作品に大きな影響を与えたという。
 
彼は「ウェスカー三部作」として知られる「チキン・スープ・ウィズ・バーリー」(1958)、「ルーツ」(1959)、「アイム・トーキング・アバウト・エルサレム」(1960)で名声を確立した。これらの作品は彼の社会主義的な背景や労働者階級の生活を色濃く反映している。
 
『The Kitchen』は、1950年代のロンドンの厨房を舞台に、労働者たちの過酷な日常、夢、そして資本主義社会におけるフラストレーションを鮮烈に描き出した作品である。ウェスカー自身の労働経験や社会主義的な思想が反映されたこの戯曲は、今なお世界中で上演されており、また複数回の映像化もされていることから、その問いかけるテーマの普遍性と重要性が現代においても色褪せていないことを示していると言えるだろう。

参考資料:

youtu.be

youtu.be

The Kitchen - a Play by Arnold Wesker

The Kitchen (Play) Plot & Characters | StageAgent

Arnold Wesker - Wikipedia




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