2024年9月に刊行されたエイミー・リーディングの著書『The World She Edited: Katharine S. White at The New Yorker』(彼女が編集した世界――ザ・ニューヨーカーのキャサリン・S・ホワイト)は、1925年から1960年(または1961年)まで『ザ・ニューヨーカー』誌の編集者を務めたキャサリン・サージェント・エンジェル・ホワイトの伝記である。彼女は創刊からわずか数ヶ月後に同誌に加わり、以後35年近くにわたり『ザ・ニューヨーカー』に文学的な原動力を与え続け、20世紀文学の地平を特に女性作家において大きく広げた人物として描かれている。ホワイトは同誌初のフィクション・エディターでもあった。
本書は、ホワイトが関わった多様な文学者たちとの関係に焦点を当てる。たとえば、ジョン・アップダイクには17回の投稿拒否の末に掲載を認め、ウラジーミル・ナボコフとは絶え間なく論争し、不必要に難解な語彙の削除を度々促したという。
しかし、彼女の最大の功績は、女性作家たちの育成にあったとされる。ニューヨーカー誌のパリ特派員で、ナラティブ・ジャーナリズムの草分けであるジャネット・フラナー、『セールスマンの死』で知られる俳優ケヴィン・マッカーシーの姉で、作家・批評家として活躍したメアリー・マッカーシー、20世紀の最も重要かつ優れたアメリカの詩人と評価されたエリザベス・ビショップ、短編作家として多数の作品を残したジーン・スタッフォードなど、枚挙にいとまがない。ホワイトは彼女たちの精神的・経済的な障壁を取り除き、相互の交流を促し、今日では古典とされる作品群の創作を後押しした。こうして彼女は、編集者という役割を単に作品の改善にとどまらず、作家の人生そのものに関わる存在へと再定義したのである。
ホワイトは自分の役割をあくまで裏方と考え、編集を芸術的・創造的行為とは見なさなかった。しかし、本書はその見方に異議を唱える。彼女は『ザ・ニューヨーカー』において自身の職務を自ら定義し、同誌の成功に大きく貢献したという。創刊当初、同誌にはヘミングウェイやフォークナーといった有名作家に原稿料を払う余裕がなかったため、ホワイトは「スラッシュパイル」と呼ばれる持ち込み原稿の山をすべて精読し、詩・漫画・短編の中から時間をかけて才能を見出していった。
彼女が明文化した編集方針は存在しなかったが、そのやり方は一貫しており、作家たちのキャリアに深く影響した。拒否の手紙も丁寧かつ詳細であり、否定されているのは作家本人ではなく作品であることを明確に伝えていた。ホワイトは作家との継続的な関係を築き、再投稿を促し、場合によっては新しい物語の着想まで提案した。作家のスタイルを無理に変えさせたり、他者の模倣を求めることはなかった。離婚、病気、入院など深刻な事情を抱えた作家にも変わらぬ支援を行い、自らも病床から編集業務を続けた。前払い、推薦図書の提供、人脈の紹介(ときには結婚相手の紹介まで)、創作上の壁の打破、名作誕生のきっかけとなるアイデアの提示など、編集者としての枠を超えた支援が描かれている。離婚した詩人のために婚姻無効の手続きを調べたこともあった。
ホワイトは「個人的=編集的手紙(personal-editorial letter)」という手法を用い、作家に自らの人生経験を共有しながら執筆支援を行った。このスタイルにより、作家たちは「実在し、繊細で、豊かな読書と経験に裏打ちされた人物」に支えられていると感じたという。ホワイトはこの手法を「女性的」と呼びつつも、その普遍的な可能性を見抜いていた。彼女はフィクション部門の「母鳥(mother hen)」として、同僚編集者にもこの手法を根づかせようとした。
ホワイトを「天才編集者」とみなすには、その定義自体を問い直す必要があると本書は論じる。劇的な介入を好む他のスター編集者とは異なり、ホワイトは「地味で、継続的で、繊細な受容と応答」を35年にわたり続けていた。著者は編集者とは、ネットワークの中心で作家を結びつける「社会的なつなぎ手」であり、ホワイトの編集行為は親密さと共同体を生む営みであったと読み解いている。
著者のエイミー・リーディングはイェール大学でアメリカ研究の博士号を取得しており、これまでに全米人文科学基金やニューヨーク公共図書館からフェローシップを授与されている。他の著作に『The Mark Inside: A Perfect Swindle, a Cunning Revenge, and a Small History of the Big Con』(騙された男の逆襲:完璧な詐欺と巧妙な復讐、そしてアメリカ詐欺史小史、2012年)がある。2024年の全米批評家協会賞(伝記部門)および2025年のピューリッツァー賞(伝記部門)の最終候補にも選ばれている。
『The World She Edited』は編集という職業、特に女性編集者の役割の重要性を理解するうえで重要な貢献を果たしている。20世紀文学の担い手を陰で支え続けたキャサリン・ホワイトの働きを再評価し、彼女の功績に光を当てた本書も高く評価されるべきだろう。
参考資料:
Editing Without Ego: How Katharine S. White Quietly Shaped The New Yorker’s Writers ‹ Literary Hub
Life by 1,000 Tiny Pencil Strokes - Reed Magazine - Reed College
The World She Edited: Katharine S. White at the New Yorker by Amy Reading