2023年10月に刊行されたヴィンセント・ベヴィンズの著作『If We Burn: The Mass Protest Decade and the Missing Revolution』(もし我らが燃えるなら――抗議の10年と失われた革命)は、2010年から2020年にかけて世界中で発生した一連の大規模な社会運動を、その渦中にいた記者ならではの視点から深く掘り下げた一冊である。本書の中心的な問いは、人類史上最も多くの人々が抗議活動に参加したとされるこの10年間が、なぜその多くにおいて「望んだ変化」、つまり「革命」をもたらすことができなかったのか、というものである。著者は12カ国で200件以上の運動参加者への綿密な聞き取りを行い、特派員としての自身の経験と4年間の調査に基づいて本書を完成させた。対象とした事例はほとんどが発展途上国に位置し、従来の「先進国」の外にある。
彼が明らかにするのは、この10年間に世界中の運動で見られたある種の「抗議のレパートリー」(repertoire of contention)であった。これは、「指導者不在」「水平的な組織化」「自発的」「デジタルで接続されている」といった特徴を持つ、都市の広場や通りでの大規模抗議活動という定型化された戦術の集合体である。社会学者チャールズ・ティリーの理論を参照しつつ、著者は、人々が反乱の瞬間にたとえより効果的な戦術が存在しても、既知で慣れ親しんだ戦術に頼る傾向があることを指摘している。特にSNSは、この型を増幅し、運動を驚異的な速度と規模で拡大させる力を持っていた。
この抗議の型は、多くの人々を街頭へと動員することには圧倒的な成功を収めた。エジプトのように独裁者を追放したり、ブラジルのバス運賃値上げ反対運動のように具体的な要求を一時的に達成したりするなど、「革命的な状況」や政府を不安定化させる状況を生み出したケースも少なくなかった。
しかし、ここで運動の構造的な弱点が露呈した。指導力や明確な組織構造を持たないこれらの運動は、国家権力や既存の特権層が弱体化した際に生じる「権力の空白」を自ら埋める準備ができていなかったのだ。その結果、運動が生み出した機会は、運動を始めた人々ではなく、より組織化され、目的が明確な既存勢力によって利用されることとなった。ベヴィンズは、ブラジルで右翼勢力が、ウクライナで極右勢力が、エジプトで軍が権力の空白を埋めた事例などを挙げている。彼は、組織化こそが成功のための客観的な歴史的現実であり、それを放棄すれば責任を放棄し、他の誰かに解決を委ねることになると示唆している。
報道機関の役割も本書の重要な分析対象である。抗議活動は本質的に意思表示の行為であり、メディアによる伝達を前提とする。しかし、運動自身がそのメッセージを代表する仕組みを持たない場合、「物語の空白」が生じ、外部(特に欧米メディア)から運動の真の目的とは異なる、あるいは歪曲された説明が押し付けられることがしばしば起こった。ベヴィンズは自分を含む外国人記者の立場が、これらの出来事を報道する上で不十分であり、運動に破滅的な影響を与えた可能性を示唆している。
警察との対立も多くの運動の中心となったが、警察に「勝利」しても、それが国家そのものを打ち倒したことにはならないという現実も浮き彫りになった。警察による暴力がSNSによって可視化されたことが、小規模だった抗議が大規模運動に拡大する引き金となった。しかし「警察と戦うこと」と「国家と戦うこと」は異なっている。警察が一時的に姿を消した後、運動は次の段階が分からなくなり、結局、国家の真の権力によって鎮圧されるか、あるいは勢いを失ってしまったのだ。
多くの運動が目標を達成できなかっただけでなく、「失敗よりも悪い何か」を経験し、「物事は後退した」とベヴィンズ氏は率直に記述する。これは、抗議すれば歴史が自動的に前進するというある種の目的論的な思考への批判でもある。
著者ヴィンセント・ベヴィンズは1984年生まれ。国際報道記者として本書で扱われる「大規模抗議活動の10年間」の多くの現場に身を置いてきた。2011年から2016年までロサンゼルス・タイムズ紙のブラジル特派員として、ブラジルの抗議運動を取材。その後、ワシントン・ポスト紙の東南アジア担当特派員としてインドネシアのジャカルタに駐在するなど、国際的な視点を持つ。2020年に発表された最初の著書『The Jakarta Method』(邦題『ジャカルタ・メソッド : 反共産主義十字軍と世界をつくりかえた虐殺作戦』河出書房新社、2022年)は、1960年代の世界における反共産主義者大量殺害へのアメリカの関与を暴き、本書もまた、記者としての徹底した調査報道、特に運動参加者への深い聞き取りに基づいている。
『If We Burn』は、2010年代の大規模な社会運動が、あれほどの熱意と動員にもかかわらず、なぜ多くの場合に目標を達成できなかったのか、という重要な問いに対する、冷静かつ分析的な回答を試みている。その結論は楽観的ではないが、それは単なる批判ではなく、失敗から教訓を引き出し、将来のより効果的な社会変革への道筋を示唆しようとするものである。著者の視点は現代の社会運動、そして社会変革の可能性について深く考える上で、必読の書と言えるだろう。
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