2024年1月に刊行されたアレクサンダー・サンマルティーノのデビュー小説『Last Acts』は、アリゾナ州フェニックス郊外の荒涼とした場所にあるガンショップを舞台にした、父と息子の物語である。
物語の中心となるのは、経営不振に喘ぐガンショップ「リッツォズ・ファイアアームズ」のオーナーであるデイヴィッド・リッツォと、薬物の過剰摂取から奇跡的に生還した30歳の息子ニックである。デイヴィッドは、ニックの「復活」を「天からの印」と捉え、これを利用して店の宣伝を行おうと考えつく。特に、ニックの回復体験をフィーチャーしたテレビCMを作成し、銃の売上の一部を薬物依存症と闘う地元団体に寄付することを約束する。
CMは成功し、店には同情的な家族連れが殺到する。デイヴィッドは地元の有名人となるが、店で販売された銃が学校での銃乱射事件に使用されたことで、デイヴィッドは未成年者に銃を販売した罪で投獄される。
デイヴィッドが不在の間、ニックは父の店を引き継ぐことになる。彼はは自身の依存症が父の人生を狂わせたのではないかと罪悪感を感じる。父と同じく、ニックも次々と不運なビジネス上の決断を下し、怪しい人物たちと手を組む。最終的にニックは、薬物依存に逆戻りしてしまう。
父のデイヴィッドは経済的に困窮しており、「アジタ」を抱えている人物だと説明されている。この「アジタ」という言葉は特にイタリア系アメリカ人の間で使われる言葉であり、胸焼けや内的な苛立ちが引き起こす不安を指している。この感情が、登場人物のコミュニケーションの失敗や表現の困難さと絡めて描かれていく。
本作は、現代アメリカ社会が抱える多くの重要なテーマに深く切り込んでいる。銃文化、オピオイド危機 はもちろんのこと、現代資本主義の不条理、経済的な不確実性、分極化する政治、家族とは何かといった問いが扱われる。また、コミュニケーションの断絶や、現代アメリカにおける男らしさの探求も重要なテーマである。
物語は父と息子の視点が交互に語られ、広告、ニュース記事、ツイート、留守番電話メッセージなど、さまざまな形式のテキストがコラージュのように挿入されている。これは、テレビ世代の父とインターネット世代の息子という、異なるテクノロジーによって作り出された意識の流れや現実を表現する意図があるようだ。
著者のアレクサンダー・サンマルティーノは、ニューヨーク州ブルックリン在住。『Last Acts』は彼のデビュー小説となる。本作には、育ったアリゾナの風景や文化、そしてイタリア系アメリカ人のルーツ が深く影響していると語っている。本作を執筆する前は、テクノロジー系の営業職としてフルタイムで働いていた経験を持つ。次作は再びアリゾナが舞台で、ボディビルダーと刑務所に関する物語だが、同じキャラクターが登場するシリーズではないと明かしている。
『Last Acts』は、父と子の関係や現代アメリカが抱える複雑な問題を、鋭い風刺と深い感情を込めて描き出している。荒涼としたアリゾナの風景を背景に、失敗を繰り返しながらも互いに繋がりを求め、不条理な世界で生き抜こうとする父子の姿を通して、現代社会の現実を垣間見ることができるはずだ。
参考資料:
Alexander Sammartino - Wikipedia
“Agita”: Talking with Alexander Sammartino - Public Books
Book Review | ‘Last Acts’ by Alexander Sammartino - The Santa Barbara Independent