2024年2月に刊行されたケリー・リンクによる初となる長編小説『The Book of Love』は、生と死が曖昧な世界で奮闘する高校生を描いた作品である。
物語は、マサチューセッツ州の静かな沿岸の架空の町を舞台に展開される。1年前に行方不明となり、死亡したと思われていた3人の高校生、ローラ、ダニエル、モーが、突然彼らの高校の音楽室に呼び戻されるところから始まる。彼らを呼び戻したのは、彼らの音楽教師であるミスター・アナビンと名乗る超自然的な存在であった。彼らは死と生の間にある薄ぼんやりとした虚無の世界、ボゴミルという領域に1年間囚われていたのである。
アナビンは彼らに、完全に生者の世界に戻るためには魔法の課題をクリアする必要があると告げる。しかし同時に、彼らと一緒にボゴミルの領域から逃れてきたもう一人の人物を含めた4人のうち、2人は再びボゴミルの領域に戻らねばならないという苛酷な条件も突きつけられる。彼らは自分たちがどのように死んだのかを突き止め、与えられた魔法の使い方を学び、自分たちに向けて使われている時にはその魔法を見破らなければならない。物語が進むにつれて、彼らはアナビンとボゴミルの間で繰り広げられる魔法の戦いの駒であったことを知るが、徐々に自らも魔法を操る力を得て戦いの当事者となっていく。そして、最終的には彼らの町、世界、さらには現実そのものの運命が彼らの手に委ねられる。
本作はジャンルとしては、ファンタジーを基盤としながら、SF、ホラー、そして恋愛小説の要素も巧みに取り入れている。魔法は存在するものの、それは必ずしも壮大で華やかなものではなく、しばしば日常と入り混じった形で描かれる。
タイトルの「Love」が示すように、愛は本作の中心的なテーマの一つである。ロマンス小説家であったモーの祖母メアリアンという重要なキャラクターが登場し、物語にロマンス小説のメタ的な視点を持ち込んでいる。モーは死んだ祖母の不在を通して喪失を痛感し、他のキャラクターたちもそれぞれが抱える悲しみと向き合う。愛、友情、家族の絆、そしてそれらのために払われる犠牲が物語の重要な要素となっている。
著者は長い間短編作家として活動していたが、作家仲間であるホリー・ブラックから「意図的に小説を書かない限り、いつか偶然に小説を書いてしまうことになる。だから意図的に書いた方がずっといい」と言われたことに納得して長編小説に取り組むようになったという。
ケリー・リンクは、アメリカ出身でマサチューセッツ在住の作家である。短編小説の分野で高く評価されており、これまでに『Stranger Things Happen』(スペシャリストの帽子)、『Magic for Beginners』(マジック・フォー・ビギナーズ)、『Pretty Monsters』(プリティ・モンスターズ)、『Get in Trouble』、『White Cat, Black Dog』(白猫、黒犬)といった短編集を出版している。彼女の作品はファンタジー、SF、ホラー、そしてコンテンポラリーなリアリズムの要素を融合させた独特なスタイルが特徴である。受賞歴も豊富で、ヒューゴー賞、シャーリイ・ジャクスン賞、ローカス賞、世界幻想文学大賞といった文学賞を受賞している。彼女は夫とともに小さな出版社Small Beer Pressを共同設立し、多くの作家の作品を編集しており、マサチューセッツ州イーストハンプトンにある独立書店Book Moonのオーナーでもある。
『The Book of Love』は、ケリー・リンクという短編作家が、新たな形式で自らの才能を最大限に引き出そうと試みた意欲作であると言える。その多層的な物語、奇妙なユーモア、そして登場人物たちの感情は、読み終わった後にも読者の心に長く残るものとなるだろう。
参考資料: