2024年6月に刊行されたヴァージラ・チャンドラセケラの『Rakesfall』は、前作『The Saint of Bright Doors』で数々の賞にノミネート・受賞した著者の、待望の長編第二作である。『The Saint of Bright Doors』がSFとファンタジー、社会写実主義とシュルレアリスムを見事に融合させた実験的な小説であったとすれば、『Rakesfall』は物語とジャンルの徹底的な脱構築を行った作品だと言える。
物語の中心にいるのは、アネリッドとレバレットという二人の魂。彼らはスリランカ内戦のさなかに出会った幼なじみで、ある暴力的な出来事によって魂が結びつけられ、時を超え、無数の生を共に歩む運命となる。彼らは時空を超えて生まれ変わり、異なる肉体と名前を持ち、時に一つの存在に融合しながら旅を続ける。その旅は古代から現代、そしてはるか未来へと広がっていく。
この小説はパッチワークのように構成され、物語・語り口・構造が常に変化し、読者に再評価と再解釈を強いるスタイルを取っている。一部は『Show』という味気ない名前のTV番組の要約という体裁で語られ、それを「何十万回も死んだ霊たち」が鑑賞しているという設定がある。
物語を突き動かすのはドラマチックな出来事ではなく、次々と押し寄せるアイデアと、新しい思考や世界の捉え方だ。本書は、権力の興亡、植民地主義と革命、抑圧との闘いといったテーマと向き合う。暴力・欲望・戦争・搾取によって形作られた世界に対し、その循環を断ち切ろうとする姿勢が描かれていく。権力構造に対する鋭い批判や、政治家や富豪の無責任な行動の結果が「誰か他人の平和のために死んだ」死者の声を通して表現される。
本質的にこの小説は、希望と解放の物語と言えるだろう。世界の現状や失われた未来への悲しみと、それでもより良い未来を創ろうとする希望が登場人物たちを動かしていく。愛とつながりが重要な要素として描かれ、「血や魂や血統ではなく、意志と芸術への献身によって結ばれた家族」という考え方が、共通の目的と「常に革命を求め続ける」選択を通じて人々が繋がる方法として提示される。
本書の読書体験は決して簡単ではない。登場人物、名前、舞台が絶えず多くの解釈を必要とし、読者に高い集中力と能動的な姿勢を求められる。著者の文体は、読者を混乱させることもあるが、物語そのものは豊かで、感動的で、力強く、時にとてもユーモラスだと評価されている。
著者のヴァージラ・チャンドラセケラは、スリランカのコロンボ出身で、短編作家として10年間活動し、多くのジャンル雑誌やアンソロジーに作品を発表してきた経歴を持つ。2023年に発表したデビュー長編小説『The Saint of Bright Doors』は、ネビュラ賞やクロフォード賞などを受賞し、ヒューゴー賞を含む多くの賞にノミネートされるなど、大きな成功を収めた。彼の作品は、しばしばスリランカの歴史、神話、政治状況を背景に持ち込み、ジャンルを横断する大胆なスタイルで知られている。
『Rakesfall』は徹底的な脱構築を行った作品ゆえに、そのとっつきにくさから読者を選ぶ小説と言っても過言ではない。本作が日本語で出版されるか否か。今後の動向に注目していきたい。
参考資料:
Vajra Chandrasekera - Wikipedia
The Cycles of Deep Time: Review of Rakesfall by Vajra Chandrasekera – Ancillary Review of Books
Strange Horizons - Rakesfall by Vajra Chandrasekera By Helena Ramsaroop