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『The Baton and the Cross』ロシア正教会と国家権力の歴史的な結びつきを明らかにした一冊

2024年10月に出版されたルーシー・アッシュによる『The Baton and the Cross: Russia's Church from Pagans to Putin』(日本語意訳 杖と十字架:ロシアの教会、異教からプーチンまで)は、ロシア正教会の千年以上にわたる歴史と、その権力との複雑な関係性を鮮やかに描き出した一冊である。元BBCのモスクワ特派員である著者が、長年の取材経験と深い洞察力に基づき、ロシアの信仰の暗部、国家権力との癒着、そして現代におけるその影響力を明らかにしている。

本書は、「過去」と「現在」の二部構成となっている。第一部では、ロシアの初期の歴史から20世紀までを駆け足で辿りながら、ロシア正教会が国家権力といかにして結びつき、その中でどのような役割を果たしてきたのかを概観する。988年ごろとされるキエフ公国のウラジーミルによるルーシのキリスト教化、1700年代のピョートル大帝による教会の国家統制、そしてソビエト政権下の宗教弾圧と教会の変容など、歴史の重要な転換点における教会の姿が活写される。特に、モンゴル支配下での教会の状況や、ツァーリズム(ロシア帝国絶対君主制体制)の下での国家と教会の関係強化、そしてソビエト時代に、迫害を受けながらも生き残りを図った教会の戦略が詳細に語られる。

第二部では、現代ロシアにおけるロシア正教会の現状と、プーチン政権との緊密な関係に焦点が当てられる。ソビエト崩壊後の教会の復興、そしてプーチン大統領とキリル総主教の台頭とその共犯関係が鋭く分析される。キリル総主教が、かつては西欧的な考え方や改革にオープンであったにもかかわらず、いかにしてプーチン政権に絶対的に従順な人物へと変貌を遂げたのか、そしてウクライナ戦争に関してキリスト教の異端とも言える説教を行っている現状が厳しく批判される。

本書では、ロシア正教会の指導者層の腐敗や、権力への異常なまでの執着が多くの事例と共に示される。例えば、1990年代に教会が免税で外国製タバコを輸入し、巨額の利益を得ていた事実や、キリル総主教が3万ドルのスイス製腕時計を着用している写真といった逸話は、教会の精神性の欠如を象徴的に物語る。また、教会がロシアの治安機関、特にFSBロシア連邦保安庁)と深く結びついており、冷戦時代には海外のロシア正教会の聖職者たちが、自らの教区の死亡登録簿を調べ、将来のスパイのための新たな身元情報を探していたという衝撃的な証言も紹介される。

著者は、ウクライナ戦争におけるロシア正教会の役割を明らかにしている。キリル総主教が、ウクライナにおける「聖戦」を積極的に支持し、戦死したロシア兵の罪が赦されると説くことは、「正教ジハード」に近いとさえ指摘される。一方で、ウクライナ国内の異なる教会間の対立や、戦争によって引き裂かれた一般の人々の苦悩にも著者は深い共感を寄せている。

著者は、プーチン大統領とキリル総主教の間の取引関係が非常に効果的になったと主張する。教会は共産党に代わって、国内外のプーチニズムのイデオロギー的枠組みを提供したと述べている。これには反同性愛、反中絶、そして家族擁護のプロパガンダが含まれ、保守的で家父長的な「母なるロシア」を復活させることになったという見立てに基づいている。

結論に入る前に、著者のルーシー・アッシュについて触れておきたい。彼女は長年にわたりBBCのジャーナリストとして活躍し、1990年から1994年の間、モスクワ特派員として活動した経験を持つ。1991年のソビエトクーデター未遂と、その後のソ連崩壊の間、BBCのラジオ局を率いていた。彼女は、客観的な報道姿勢を保ちながらも、ロシア正教会の指導者層とプーチン政権の癒着、そしてそれがもたらす負の影響に対して、明確な批判の意を表明している。

『The Baton and the Cross』は、ロシア正教会の歴史と現代における権力との関係への刺激的な示唆に富んでいる。特にロシアとウクライナの関係、宗教とナショナリズムの結びつきへの理解を深める上で、重要な一冊と言えるだろう。

  • 作者:Lucy Ash
  • Audible Studios on Brilliance

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参考資料:

In ‘The Baton and the Cross’ Lucy Ash Portrays the Russian Church’s Fall From Grace - The Moscow Times

Book review: The Baton and the Cross: Russia’s Church from pagans to Putin by Lucy Ash




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