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『Russia Starts Here』ロシア西側国境の街で暮らす人々の生活から現代ロシアを描くノンフィクション本

2025年1月に刊行されたハワード・エイモスの『Russia Starts Here: Real Lives in the Ruins of Empire』(意訳 ロシアはここから始まる:帝国の廃墟で生きる人々)は、EUとの西側国境に位置するロシアのプスコフ地方に焦点を当て、現代ロシアの知られざる側面を、そこに生きる人々の生を通して描き出す一冊である。ウラジーミル・プーチンの強権体制が強化され、ウクライナ侵攻後の国際情勢が緊迫する中で、この本は、ニュースのヘッドラインの背後に潜む人々の物語を、英国人ジャーナリストである著者の丁寧な取材と洞察力によって鮮やかに浮かび上がらせる。

プスコフはかつて商業と軍事の要衝だったが、帝国の拡大とともにその重要性を失う。第二次世界大戦ナチス占領、そしてソビエト連邦崩壊後の経済的停滞を経て、現在では人口減少、疾病、貧困といった問題を抱える地域となっている。本書は、その現状を背景に、この地で生きる人々の日常、文化遺産、矛盾、そして目を背けたくなるような真実を、ありのままに描き出すことを試みている。

本書のタイトルは、プスコフのヴェリーカヤ川沿いの堤防に飾られた巨大な文字「RUSSIA STARTS HERE(ロシアはここから始まる)」に由来する。各章は独立した物語として構成されながらも、それらが巧妙に織り合わされることで、栄光の過去と、どこか見捨てられたような未来が共存するプスコフ地方の全体像が浮かび上がる。プーシキンの祖先の領地や、帝政ロシア屈指の富豪であったストロガノフ家の豪華な別荘が存在したこの地は、今日では朽ち果てた村々が点在し、ソ連時代を懐かしみ、「すべてを無駄にした」とゴルバチョフエリツィンを非難する年金生活者たちの声が聞こえる場所となっている。ロシア語に堪能なエイモスは、そのような興味深い人々に直接インタビューを行い、彼らの個人的な経験を通して、時代の変遷と社会の変化を描き出している。

エイモスの取材は多岐にわたる。1987年にプスコフの亜麻工場を任されたウラジーミル・オルロフの物語は、かつてこの地域で重要な換金作物であった亜麻が、リネンから安価な綿へと取って代わられたこと、そしてソ連の計画経済崩壊後に、物々交換、詐欺、盗賊が横行する中で工場が閉鎖されていく様子を生々しく伝える。また、エイモスが学生時代に初めてロシアを訪れた際にボランティアとして数週間滞在した孤児院での経験は、ロシアにおける「孤児院」や「孤児」の厳しい実態を浮かび上らせる。近隣のボグダノヴォにある精神科病棟についての章もまた、痛ましい現実を映し出す。孤児院で出会った才能ある写真家、ドミトリー・マルコフの章は、彼の薬物の過剰摂取による悲劇的な死を通して、この地域の社会問題を暗示している。

宗教もまた、本書の重要なテーマの一つである。何世紀にもわたり修道院で知られてきたプスコフ地方において、宗教は人々の生活に深く根付いている。エストニア国境からわずか5キロメートルのペチョールイにあるプスコフ洞窟修道院は、複数の章で取り上げられ、その歴史と精神性が詳細に描かれる。プーチンの霊的指導者と噂されるチホン・シェフクノフ神父に捧げられた「Director of Religion」という章では、彼の精神的な「誕生」の地とされるペチョールイの重要性が語られる。同じ修道院に縁のある二人の兄弟司祭の物語も、宗教と人々の生活との密接な関わりを示す。

本書で最も興味深い章の一つが、最終章の「Divided Lives」で描かれるセトの人々に関する記述であろう。プスコフとエストニアに分断された少数民族であるセトは、東のスラブ民族とは異なり、エストニア人と同じフィン・ウゴル語派に属し、言語もエストニア語に近い(ただし、キリル文字ではなくラテン文字で表記される)。彼らは正教徒でありながら、土着の異教の要素も信仰に取り入れており、ペチョールイは彼らにとって最も神聖な場所の一つである。国境によって引き裂かれた家族の苦悩、そしてパンデミック後にエストニアへの移住を決意する家族の物語を通して、国境が人々の生活に与える深い影響が浮き彫りにされる。ソ連崩壊後にエストニアが独立国となったことで初めて物理的に分断されたセトマア(セトの歴史的な故郷)は、約17,000平方キロメートルの森林、湿地、耕作地で構成される。この場所は「セトの壁」とも呼ばれる国境線によって、文字通りの土地だけでなく、共同体の絆も引き裂かれ、経済的・教育的な機会の不均衡が生じている現状が描かれる。エストニアへの移住は多くのセトの人々にとって必然的な選択であり、若者たちはより良い生活を求めて国境を越える一方、ロシアに残された高齢の親たちは寂しい老後を送っている。

ウクライナ戦争に直接的に触れる章は「War」と題された一章のみであるが、書物の随所に侵攻に関する言及が見られる。政治家から退職した村人まで、エイモスがインタビューする人々は、ほぼ例外なくこの話題に触れる。そして明確に意見を表明する者のほとんどが、戦争を支持しているという現実は、複雑な感情を読者に抱かせる。しかし全ての意見が支持一辺倒ではないことも示唆される。戦争で夫を亡くした女性は「どこで何が起こっているのか誰も理解していない。どのように終わるのか誰も理解していない。彼らが何を達成しようとしているのかもわからない」と述べる。

近年のロシア関連のノンフィクション作品の多くがウクライナ戦争やプーチンの政治に焦点を当てる中で、本書は異彩を放つ。戦争や政治だけでなく、あらゆる階層の人々の生活を通して、現代ロシアの徹底的かつ生き生きとした肖像を描き出すその手法は、西洋の読者が普段触れることの少ないロシアの現実を、より深く理解する機会を提供する。著者は、私たちとは異なる生活を送る人々を、上から目線で見下すことなく、彼らの戦争に対する無力さや、メディアによって伝えられるのとは異なる視点に深い共感を寄せている。

著者のハワード・エイモスは、ガーディアン、ニューズウィーク、フォーリン・ポリシー、AP通信など、数々の著名なメディアで執筆してきた経験豊富なジャーナリストであり、モスクワ・タイムズの編集長も務めた。学生時代に初めてロシアを訪れて以来、プスコフ地方に個人的な繋がりを持ち、孤児院でのボランティア活動を通して、この地域の現実を肌で感じてきた。ロシアによるウクライナへの本格的な侵略から数日後にロシアを去り、現在はエジンバラに住んでいる。彼の長年のジャーナリストとしての経験と、この地域への深い理解が、本書のリアリティと洞察力を支えていると言えるだろう。

『Russia Starts Here』は、現代ロシアの複雑な現実を、そこに生きる人々の生を通して多角的に描き出した、非常に価値のある一冊である。ハワード・エイモス自身がRedditにて、本書の一部を掲載したウェブサイトを紹介している。興味のある方はぜひ一読していただきたい。

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参考資料:

Howard Amos' 'Russia Starts Here' Reveals a Country Rarely Seen - The Moscow Times

Howard Amos: Russia Starts Here review - East meets West, via the Pskov region




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