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『The Heaven & Earth Grocery Store』1920年代のアメリカを舞台に社会的な隔たりを超えたコミュニティのつながりを描いた小説

2023年8月に発売されたジェームズ・マクブライドによる『The Heaven & Earth Grocery Store』は、一見すると過去の出来事を掘り起こすミステリーの様相を呈しながら、人種、宗教、そして社会的な隔たりを超えた人間同士のつながり、そして困難な時代を生き抜くための希望と連帯の力を力強く描き出す作品である。2023年に出版されたこの小説は、批評家から絶賛され、数々の賞に輝き、バラク・オバマ元大統領のお気に入りの一冊にも選ばれている。

物語は1972年、ペンシルベニア州ポッツタウンで始まる。新たな住宅開発のための掘削作業中に、古井戸の底から一体の白骨死体が発見される。遺体の近くにはメズーザー(ユダヤ教の家で玄関などに掲げられる小さな飾り)が見つかり、警察は町に住む唯一のユダヤ人である老いたマラカイに事情を聴くことになる。マラカイは、メズーザーが本来あるべき場所になくても「ユダヤ人の生活は持ち運びができる」と意味深な言葉を残す。しかし、その直後、ハリケーン・アグネスが地域を襲い、洪水によって事件の痕跡は洗い流されてしまう。

そして物語は、1920年代のポッツタウンへと遡る。舞台となるのは、「チキンヒル」と呼ばれる荒れた地域である。そこには、貧しいながらも互いに助け合いながら暮らす、主にアフリカ系アメリカ人ユダヤ系の移民たちがいた。このコミュニティの中心には、モーシェとチョナ・ルドロー夫妻が営む「Heaven & Earth Grocery Store」があった。モーシェは劇場とダンスホールも経営しており、進歩的な考えの持ち主で、黒人のパフォーマーも積極的に招いていた。

物語の核となるのは、聴覚を失った黒人の少年ドードーの存在である。彼の母親が亡くなり、叔母夫婦に引き取られたドードーだが、学校に通うことを拒むようになる。州の当局はドドを施設に収容しようとするが、それを知ったドードーの親戚であり劇場の清掃員でもあるネイト・ティムブリンは、ルドロー夫妻に少年を匿ってほしいと懇願する。モーシェはためらうものの、妻のチョナは断固として少年を受け入れる。ここから、人種や宗教の違いを超えた、チキンヒルの住人たちの連帯と、外部の偏見に立ち向かう人々の勇気が鮮やかに描かれていく。

チョナは、単なる食料品店の女主人ではない。彼女は、不正に対して毅然とした態度を取り、困っている人々には迷わず手を差し伸べる、この物語の精神的な支柱とも言える存在だ。彼女の行動力と温かさは、チキンヒルの多様な住民たちを結びつけ、小さなコミュニティの中に確かな希望を育んでいく。一方、町の白人社会のエスタブリッシュメントは、チキンヒルを蔑み、彼らの生活を脅かそうとする。特に、KKKのメンバーでもある町の医師は、人種差別と外国人嫌悪の念に駆られ、ドードーの施設収容を強硬に推し進める。

マクブライドは、善人と悪人という単純な二項対立で人物を描くことをしない。差別的な言動をする人物にも、彼らなりの背景や動機を与え、読者に一面的ではない多角的な視点を提供しようと試みる。また、一見善良に見える人物も、人間的な弱さや葛藤を抱えていることが示唆され、物語に深みを与えている。この人間性の複雑さを捉える筆致は、白人のユダヤ系の母親と黒人のクリスチャンの父親を持つマクブライド自身の出自とも深く関わっているのかもしれない。

物語の後半では、ドードーは強制的に施設に収容されることになるが、チキンヒルの人々が団結して彼の救出作戦を実行する様子が描かれる。この一連の出来事の中で、古井戸の底から発見された白骨死体が誰なのかも明らかになる。

『The Heaven & Earth Grocery Store』は、過去の出来事を描いているにもかかわらず、現代社会が抱える分断、偏見、そして排除といった問題に深く共鳴する。異なる背景を持つ人々が、それぞれの困難を抱えながらも、互いを理解し、助け合おうとするチキンヒルの住人たちの姿は、多様性が共存する社会のあり方を示唆していると言えるだろう。そして、小さな善意の積み重ねが、大きな不正に立ち向かう力となり得ることを、この物語は静かに、しかし力強く教えてくれる。

ジェームズ・マクブライドは、『Deacon King Kong』、『The Good Lord Bird』、そして自身の生い立ちを描いた感動的な回顧録『The Color of Water』などで知られるベストセラー作家である。2024年には『TIME』誌の「最も影響力のある100人」に選ばれ、全米人文科学勲章も受章している。本作については、ペンシルベニア州ウスターの身体障害児のためのキャンプでカウンセラーとして働いた経験が着想につながったという。

『The Heaven & Earth Grocery Store』は、単なる歴史小説やミステリーとしてだけでなく、人間の普遍的な感情、そして連帯の尊さを描き出した文学作品である。この物語が持つ温かい眼差しと希望の光は、改めて人間同士のつながりを見つめ直すきっかけを与えてくれるはずだ。2025年前半の時点で、本作はA24が映像化権を取得し、スティーブン・スピルバーグが製作総指揮を執ると報じられている。原作の日本語訳が注目を集める日もそう遠くないだろう。

参考資料:

www.youtube.com

'The Heaven & Earth Grocery Store' review: James McBride's all-American novel : NPR




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