2025年11月、マーガレット・アトウッドによる回顧録『Book of Lives: A Memoir of Sorts』を刊行することが発表された。85歳を迎えるアトウッド自身が綴る初の本格的な回顧録は、彼女の人生と、数々の文学作品が生み出された背景を垣間見ることができる貴重な機会となるはずだ。
『A Memoir of Sorts』というタイトルが示すように、この回顧録は単なる年代記に留まらない「回顧録のようなもの」となるようだ。出版社であるダブルデイによると、本書は、カナダの極北で子供時代から、『侍女の物語』の執筆、そして近年の文学的アイコンとしての地位まで、最も称賛され影響力のある文化人の一人である彼女の人生と作品を探求するという壮大なスケールで描かれるそうだ。アトウッド自身も、「この本を書くのに血のにじむような思いをした——詰め込むには人生があまりにも多すぎた。もしジョン・キーツのように25歳で死んでいたら、もっと短くできたかもしれない——でも、同時によく笑いもした」と語っている。
さらに彼女は、回顧録の内容について「回顧録とは自分が覚えていることを描くものだ。そして大抵覚えているのは、愚かな出来事や大惨事、復讐、政治的恐怖の時代だ。だからそれらを盛り込んだ。でも同時に、喜びの瞬間や驚くような出来事、そして私の本についても含めた。皆さんが『Book of Lives』を読むのを、私が書くのを楽しんだのと同じくらい楽しいものになればと思う」と述べており、単なる自伝に留まらない、彼女ならではのユーモアと洞察に満ちた一冊となることが期待される。
本書では、昆虫学者であった父と栄養士であった母のもと、北ケベックの森でほとんどの時間を過ごしたという彼女の初期の生活、そして文学界のスターダムへの道のりが語られる。また、彼女の著作に影響を与えた文化的、政治的な重要な瞬間も明らかにされるという。読者は、これらの物語を通して、芸術と現実の間の繋がり、そしてカナダで最も著名な作家の一人であるアトウッドの思考の一部を覗くことができるだろう。
マーガレット・アトウッドは、1961年に詩集『Double Persephone』でデビューして以来、その多岐にわたる創作活動で世界的な評価を確立してきた。彼女は小説だけにとどまらず、ノンフィクション、室内オペラ、児童書、詩など、そのジャンルの幅広さと作品数の多さは驚異的である。
彼女の代表作としては、1985年に発表されたディストピア小説『侍女の物語』が最もよく知られている。この作品は、全体主義的なギレアデ共和国における女性の抑圧を描き出し、フェミニズム文学の古典として、出版以来、世界中の読者に衝撃を与え続けている。1990年には映画化され、2017年にはHuluでシリーズ化されるなど、その影響力は衰えることを知らない。近年では、中絶の権利を訴える抗議活動において、この物語に登場する赤いローブと白いボンネットの衣装が象徴的に用いられるなど、現実社会においても強いメッセージを発信し続けている。
アトウッドの作品は、しばしばジェンダー、権力、環境、テクノロジーといった現代社会における重要なテーマを扱っている。特にフェミニズムの視点から描かれる女性の経験や抑圧は、彼女の作品の大きな特徴の一つであり、多くの読者の共感を呼んでいる。『侍女の物語』だけでなく、1972年の小説『浮かびあがる』も、国家のアイデンティティと女性の疎外というテーマに取り組んでいる。
今回発表される回顧録では、彼女の文学作品と彼女自身の広範な人生、そして文化的影響との関係が繋がれるという。カナダの極北での遊牧民のような子供時代、『侍女の物語』を執筆した東ベルリンでの滞在、そして同じカナダ人作家である故グレイム・ギブソンとの長年のパートナーシップ、トロントの文筆仲間との親密な交流など、彼女の人生における重要な出来事が語られる。
アトウッド自身は、なぜ今回顧録を出版するのかという問いに対して、「出版社が私にそうさせたのだ」と、ユーモアを交えて答えている。当初は「退屈だろう」と思ったそうだが、出版社が「文学的なスタイルの回顧録」を求めていると知り、執筆を決意したという。
マーガレット・アトウッドの初の回顧録となる『Book of Lives: A Memoir of Sorts』は、彼女の文学的業績と、その背景にある彼女自身の豊かで多様な人生経験を深く理解するための重要な一冊となるであろう。2025年11月4日の発売が、今から待ち望まれる。
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参考資料:
Memoir by Margaret Atwood Coming in the Fall | Kirkus Reviews
Margaret Atwood Announces Her Long-Hoped-for Memoir | Vogue
Handmaid’s Tale author Margaret Atwood to publish memoir | Books | The Guardian