2024年6月に発売されたジョセフ・オニールの最新作『Godwin』は、サッカー界を舞台に、現代社会の歪み、特に資本主義の腐敗性、植民地主義の遺産、そして個人と集団の葛藤を鋭く描いた、魅力的な作品である。
物語は、ピッツバーグに住むテクニカルライター、マーク・ウルフを中心に展開する。彼は仕事上のトラブルから2週間の休暇を取得するが、その間に異母弟のジェフからあるビジネスを持ちかけられる。ジェフは、サッカーのエージェントとして成功することを夢見ており、アフリカにいるという才能豊かな若きサッカー選手、ゴドウィンを探し出すために、マークの助けを求める。ゴドウィンは、インターネット上の動画でしかその姿を確認されておらず、彼の存在すら定かではない。しかしジェフはその選手のことを「次のメッシ」と信じ、彼と契約することで富と名声を得ることを期待している。マークは当初乗り気ではなかったものの、ジェフの熱意と金銭的な成功への期待から、この突拍子もない計画に巻き込まれていく。
マークとジェフの冒険は、単なるスポーツ小説の枠を超え、現代社会の複雑な問題を浮かび上らせる。2人はベテランエージェントと手を組み、大西洋を横断する旅に出かける。このゴドウィン探しは、才能の発掘という明るい側面だけでなく、スポーツ選手のスカウトにおける貪欲さ、そして植民地主義の遺産を浮き彫りにする。アフリカは、ヨーロッパにとって「サッカーの金鉱」であり、才能ある選手を「黒いダイヤモンド」として搾取する構造が、かつての奴隷貿易と重ね合わせられている。かつて搾取の対象だった天然資源が、現代では人間の才能に置き換わっただけなのである。
本作はサッカービジネスの不都合な事実にも光を当てている。アフリカの才能ある選手たちは、西洋のクラブに移籍することで巨額の富を得るが、その一方で彼らの出身国が経済的に豊かになる訳ではない。この構図は、植民地時代と同様、西洋が一方的に利益を得る歪んだ構造を明らかにしている。
物語は、マークの同僚であるレイシャ・ウィリアムズの視点からも語られる。彼女は、ピッツバーグのテクニカルライター協同組合の共同設立者であり、献身的に仕事に取り組む理想主義者である。しかし、協同組合内部の権力闘争や裏切りによって、彼女の理想は揺らぎ始める。レクシャの物語は、共同作業という理想と資本主義の腐敗という現実との対比を描き、マークの物語と対照的に展開する。
一見無関係に見えるマークとレイクシャの物語は、物語が進むにつれて、驚くべき形で収束していく。この巧みな構成は、オニールの作品の特徴であり、読者は予想外の展開に驚くことになるだろう。
著者のジョセフ・オニールは1964年にアイルランドで生まれ、幼少期はモザンビーク、トルコ、イラン、オランダなど様々な国で過ごした経歴を持つ。2009年にPEN/フォークナー賞を受賞した『ネザーランド』で最もよく知られており、この作品は2011年に邦訳も出版されている。
前作の出版から執筆に10年を要したのは、短編小説の出版や、アメリカ政治への関与などの活動に携わっていたからだそうだ。オニールは2016年のアメリカ大統領選挙以降、アメリカの政治状況に強い関心を持つようになり、特に地方レベルで民主党の改革を訴えてきた。自身の政治エッセイの中で、民主党の政治姿勢や腐敗問題を批判し、より対立的で権力獲得と行使に積極的な政党になるべきだと主張してきた。この政治活動が小説執筆にも影響を与え、本業に集中することが難しくなった時期があったと明かしている。
オニールの筆致は、知的で鋭いユーモアと深い洞察力に満ちている。彼は、登場人物たちの内面を繊細に描き出し、現代社会における人間関係の複雑さを浮き彫りにする。また、サッカーという世界的なスポーツを通して、グローバリゼーション、経済格差、倫理的危機といった現代社会の課題を巧みに織り込んでいる。