ジャクリーン・ジョーンズの『No Right to an Honest Living: The Struggles of Boston’s Black Workers in the Civil War Era』(正直な生計を立てる権利なし: 南北戦争時代のボストン黒人労働者の闘い)は、2024年ピューリッツァー賞歴史部門を受賞した。南北戦争時代のボストンにおける黒人労働者が直面した経済的賃金格差について論じた一冊である。当時、ボストンは奴隷制廃止運動の中心地として名高かった。しかし、その実態は言葉だけが先行し、正義の実現に向けた行動が伴っていなかった。黒人労働者にとって、ボストンは依然として厳しい場所であった。多くの白人奴隷制廃止論者は、黒人労働者の窮状に目をつぶり、黒人の経済状況を改善することが白人労働者階級の政治的影響力を弱めると考えていたのだ。
南北戦争や黒人部隊への参加によっても、黒人労働者が直面する根本的な不平等は解消されなかった。彼らは低賃金の仕事を求め、新たにやってきたアイルランド移民と競争しなければならず、結果的に適切な職に就くことは困難だった。黒人にとって賃金を得て働くことは市民権の重要な証であったが、ボストンでは事実上、完全な市民権を得ることはできなかったのである。
奴隷制廃止運動は、黒人労働者の経済状況に直接的、統一的なプラスの影響を与えたわけではなかった。奴隷制廃止論者たちが奴隷制を終わらせる上で重要な役割を果たしたことは確かだが、彼らの努力はボストンの黒人労働者が直面する経済的課題にまで及んでいなかった。
本書では、黒人ボストン市民がそのような厳しい状況下でどのように対処したのかについても言及されている。例えば、一部の黒人労働者は違法なサービスを提供したり、ギャンブルや酒類販売、売春などの仕事に従事し、地下経済で生計を立てていたという。これらの仕事は当時の社会的価値観からは道徳的とは言えなかったが、差別的な労働市場で生き残るための重要な手段であった。
また、「逃亡奴隷へのなりすまし」も現金収入を得る手段の一つであった。逃亡奴隷ではないにもかかわらず、身分を偽り、南部で家族を買い戻すために資金が必要だと同情を誘い、金銭を募った。彼らは信ぴょう性を高めるために綿密な物語を作り上げ、時には奴隷制廃止論者から金銭を詐取することもあった。このような詐欺行為は、奴隷制廃止運動家たちに真の逃亡奴隷と詐欺師を見分けることの難しさを突きつけた。なりすましの成功には巧みな話術と説得力のある演技が必要だったが、こうした行為は真の逃亡奴隷に対する支援を難しくすることもあった。
さらに、当時の黒人コミュニティは教会や相互扶助組織、友愛組織を通じて、差別的な労働市場から取り残された人々を支援していた。これらの組織は経済的に困窮する人々に金銭的援助を行ったり、仕事や住居を見つけたり、教育の機会を提供したりして、黒人労働者の生活を支えていたのである。
ジャクリーン・ジョーンズは、南北戦争時代の黒人労働者の立場を明らかにするために、裁判記録、新聞記事、個人書簡などの一次資料を綿密に調査している。これにより、黒人労働者が直面した雇用差別や低賃金、劣悪な労働環境の実態が浮き彫りにされている。特に警察裁判の記録は、労働者が自身の労働環境について証言する貴重な情報源となった。また、新聞には求人広告や解雇された黒人労働者に関する記事、奴隷狩りに関する報道が掲載されており、これに加えて国勢調査の分析や黒人労働者が居住していた地域の現地調査も行うことで、当時のボストンにおける彼らの経験がより立体的に描かれている。
『No Right to an Honest Living』は黒人労働者の日常生活と、彼らが直面した経済的課題に焦点を当てた作品である。人種的偏見が彼らへの搾取の主な要因であったことを強調しつつ、経済的搾取における階級の役割についても考察している。白人労働者と白人エリートは、黒人労働者を経済的に周縁化することから利益を得ており、彼らを差別的な雇用慣行に閉じ込めるために団結することがしばしばあったことを示している。このように、本書はアメリカの過去と現在における人種的不平等の根深さについて再認識させる内容となっている。