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『ロング・アイランド』シアーシャ・ローナン主演で映画化された小説『ブルックリン』の続編

コルム・トビーンの最新作『ロングアイランド』は、2009年に発表され、ブッカー賞の候補にもなり、シアーシャ・ローナン主演で映画化もされた世界的ベストセラー小説『ブルックリン』の待望の続編である。前作から20年の時を経て、1970年代のアメリカ、ロングアイランドを舞台に、主人公エイリッシュ・レイシーが新たな人生の局面を迎える物語が展開する。トビーンの故郷であるアイルランド、ウェックスフォード県出身のエイリッシュは、『ブルックリン』でアメリカに渡り、秘密裏に結婚、二人のティーンエイジャーの子供を持つに至る。しかし、平穏に見えた彼女の日常は、ある日突然訪れた見知らぬ男の知らせによって、根底から揺さぶられる。

物語は、エイリッシュの家のドアをノックする見慣れないアイルランド人男性の登場から始まる。彼は、エイリッシュの夫である配管工のトニーが、自分の妻と関係を持ち、8月に出産を控えていると告げる。さらに、その子供をエイリッシュの家に連れてくると言い放ち、物語は冒頭から読者に緊張感を与える。前作『ブルックリン』ではゆっくりと現れた危機が、今回は物語全体を駆動する原動力となるのだ。

40代半ばとなったエイリッシュは、イタリア系アメリカ人の夫トニー、そして10代の子供たち、ロゼラとラリーと共にロングアイランドリンドハーストで暮らしている。隣にはトニーの両親、そして他の二軒の家には彼の兄弟家族が住んでおり、エイリッシュは常に義理の家族からの干渉を感じ、一種の閉塞感を抱えている。夫の裏切りという衝撃的な事実を前に、エイリッシュは大きな決断をする。出産予定時期に合わせて、20年以上ぶりに故郷アイルランドへ一時帰国することを決意するのだ。彼女は、会ったことのない80歳になる母の誕生日を祝うために、子供たちもアイルランドへ連れて行く手筈を整える。

アイルランドに戻ったエイリッシュは、変わってしまった故郷、そして変わらぬ人々との再会を経験する。彼女は、自身が20年の間に故郷の人間にとってよそ者になってしまったことに気づき、驚きを覚える。母親は、アメリカから帰ってきた娘を街の人々に誇示しようとする一方で、彼女自身の内面にはほとんど関心を示さない。しかし、故郷での日々は、エイリッシュにとって過去と現在、そして未来を見つめ直す機会となる。かつて彼女がアメリカへ旅立つ際に別れを告げたジムという男性の存在も、再び彼女の心に浮上する。ジムは今も独身で、エイリッシュのことを忘れられないでいることが示唆される。
エイリッシュの抱える孤独、喪失感、そして未来への不安が、抑制された言葉の中に滲み出ている。

また、彼女を取り巻く人々、義理の母フランチェスカや、旧友のナンシーといった脇役たちも、生き生きと描かれており、物語に豊かな奥行きを与えている。ナンシーの経営する新しいフィッシュアンドチップス店が地元の人々に反感を買ったり、結婚式での騒がしい歌が物議を醸したりするなど、変化するアイルランドの社会の様子も細やかに描写されている。

ビーンの作品の特徴の一つは、登場人物たちが抱える秘密と、それらがもたらす影響を丁寧に描き出すことである。『ロング・アイランド』においても、エイリッシュとトニーの間の秘密、そして故郷の人々の間に存在する様々な感情や過去が、物語の展開に複雑な陰影を与えている。また、行為とその結果というテーマも本作において重要な要素となっている。トニーの犯した過ち、そしてそれに対するエイリッシュの選択が、物語の行く末を左右するのである。

本作の舞台となる1970年代という時代設定も重要である。まだ電話が普及していなかったり、冷蔵庫を持つことが一般的ではなかったりする当時のアイルランド生活様式が、エイリッシュの帰郷体験をより際立たせる。アメリカでの生活とのギャップを通して、エイリッシュは自身のアイデンティティを改めて問い直すことになる。

著者であるコルム・トビーンのプロフィールに触れておきたい。1955年アイルランド南東部のエンニスコーシー生まれ。作家、ジャーナリスト、批評家として幅広く活躍しており、『巨匠 ヘンリー・ジェイムズの人と作品』(ヘンリー・ジェイムズの伝記的小説)、『ブルックリン』、『マリアが語り遺したこと』、『マジシャン トーマス・マンの人と芸術』(トーマス・マンの伝記的小説)など、数々の高く評価された小説を発表している。ブッカー賞には4度ノミネートされ、コスタ賞小説部門賞や国際IMPACダブリン文学賞など、数々の文学賞を受賞している。

ビーンは、自身が続編を好まないこと、そして『ブルックリン』の成功を受けて安易な続編を書くことに抵抗があったことを語っている。しかし、本作の冒頭のイメージが突如として湧き上がり、それをきっかけに物語が自然と動き出したという。彼は、『ロング・アイランド』を『ブルックリン』の単なる続きとしてではなく、新たな独立した物語として捉えている。彼にとって本作は計画された続編というよりも、新たな物語のアイデアがたまたま前作の登場人物を再び登場させる形になった、という認識のようだ。

『ロング・アイランド』は、夫の裏切りという衝撃的な出来事をきっかけに、主人公エイリッシュが過去と現在を見つめ直し、未来への新たな一歩を踏み出すまでの道のりを、繊細かつ力強い筆致で描いた傑作であると言える。トビーンの人物描写、時代考証、そして抑制の効いた美しい文章が、読者をエイリッシュの物語へと深く引き込んでいる。

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