※ この記事は、FAST考案者であるQuinton Quartel氏がMediumで公開している記事を、本人の許諾の下で日本語に翻訳したものです。プロダクトディスカバリーの観点から、FASTがどのように機能するかを説明する記事です。
FAST: 流動的チーミングによるプロダクトディスカバリーの革命
現代のプロダクトマネジメントの到来により、ディスカバリーとデリバリーの両方に効果的な作業プロセスを見つけることが課題となっています。Fluid Adaptive Scaling Technology (FAST)は、チーム全体をベースとしたメソッドを提供します。
Marty Cagan、Jeff Patton、Teresa Torresといった、現代のプロダクトマネジメントをリードする人々は、口をそろえて「エンジニアリングをプロダクトディスカバリーに統合することで、より迅速で革新的なソリューションが生まれる」と言っています。しかし、それをどのように実現するのでしょうか? Teresa Torresは安定したプロダクトトリオ(プロダクトマネージャー、デザイナー、エンジニアの3種による合同チーム)内に専任のエンジニアを置くことを提唱する一方、Marty Caganはエンジニアのローテーションを推奨しています。私はCaganの提案に賛同しますが、「どのように」という部分が欠けています。そして、私はこの質問への回答となるプロセスを開発したと考えています。 ――それが Fluid Adaptive Scaling Technology、別名FASTです。
プロダクトチームの一部としてのディスカバリートライアド — John Cutler氏による画像
流動的にエンジニアをローテーションするためのFASTの導入
FASTは、プロダクトのデリバリーとディスカバリーにおける複数の課題を解決します。このブログでは、Caganが推奨するプロダクトディスカバリーへのエンジニアの参加とローテーションをFASTがどのように支援できるかに焦点を当てます。
ユーザビリティーと価値のテストの両方あるいはどちらか一方をおこなうときは、たいていの場合、プロダクトマネージャー、プロダクトデザイナー、開発チームの(中で同席を希望する)エンジニアの1人が出席する。私の好みはエンジニアをローテーションすることだ。前にも言ったように、魔法はエンジニアがいるところで起こることが多いので、可能なかぎりエンジニアが同席するように勧めている。
~ Marty Cagan, INSPIRED
FASTは流動的なチーミングを可能にし、プロダクトトリオがエンジニアをローテーションさせるのに理想的です。これはディスカバリー活動、結果として生まれるプロダクト、そしてチームの健全性に利益をもたらします(ここでいうチームはFASTでコレクティブと呼ばれます。FASTは複数チーム組織にスケールできるためです)。
ディスカバリー作業に開発者やチームの他のメンバーを参加させないのは、彼らにとって不利益だと思います。通常、やるべきディスカバリー作業は十分すぎるほど存在し、チーム全体を巻き込む方法もたくさんあります。
~ Jeff Patton
プロダクトディスカバリーを通じたエンジニアローテーションの具体的なメリット
エンジニアをプロダクトディスカバリーに参加させる効果として、エンジニアが顧客とその課題に対してより深い共感を得られることが挙げられます。プロダクトディスカバリー活動に参加することで、エンジニアは顧客の声を、また聞きではなく、直接聞くことができます。多くの人々の主張によれば、開発者が顧客に共感を持つことでコードの品質が向上し、より良いソリューションが生まれます。ローテーションは、エンジニアにプロダクトライフサイクルの異なる部分に触れさせ、異なる問題を解決する機会を与えます。これによりエンジニアはスキルを成長させ、エンゲージメントを維持することができます。
FASTによるプロダクトトリオを通じたエンジニアのローテーション方法
FASTは、人々が何かしらの 活動(work)を中心に自己組織化するための方法です。短いサイクル(例:2-3日)を利用して、コレクティブのメンバーが集まり、進捗と学びを共有し、次に何をするかを決定します。この集まりをFASTミーティングと呼びます。次に行う活動アイテムが選択されると、コレクティブはその活動を中心に自己組織化します。これがFASTの要点です。FASTの完全な解説は長くなりすぎてこの記事の趣旨から外れてしまうので、ここでは詳細を述べません。FASTについての詳細はFASTのウェブサイトでご確認ください。以下は、コレクティブが次のバリューサイクルで取り組む活動アイテムを決定した状況を示すマーケットプレイスボードをビジュアルに表現したものです。
FASTマーケットプレイスボードの前に立つFASTコレクティブ、つまりプロダクトチーム。次のバリューサイクルでにてディスカバリー活動(Discovery Work)のアイテムが計画されています。
1バリューサイクルでディスカバリー活動を行う場合、プロダクトマネージャー、デザイナー、そして(少なくとも)1人のエンジニアがそのサイクルの活動のマーケットプレイスで、そのスイムレーンに自ら参加することが期待されます。
コレクティブのメンバーが自己組織化して、活動アイテムの周りでチームを作った状態
各FASTミーティングは、コレクティブが活動に集中しているモードから一時的にビッグピクチャーのプランニングモードに切り替わるチェックポイントを表します。マーケットプレイスでは、どのエンジニアもそのサイクルのプロダクトトリオに自ら参加することができます。FASTは群衆の知恵、あるいは集合知を使用してローテーションを管理し、誰がどのチームにいるべきかを決定します。これは創発的なプロセスです。FASTはオープンスペーステクノロジーに基づいており、そこでよく聞かれるフレーズは「そこにいるものは誰でも適任者である」というものです。FASTでも、同じ創発性に依存しています。集合知が、正しいことに取り組む正しい人々を正しいタイミングで決定します。プロダクトトリオの場合、それは適切なエンジニアを意味します。

当初のトポロジーがどれほどチームをエンパワーしていたとしても、その効果が未来永劫続くわけではない。職場の現実は常に変化しており、場合によってはトポロジーに変更を加えなければならない形で変化することもある。
― Marty Cagan, EMPOWERED
注意:すべてのエンジニアがプロダクトディスカバリー活動を望むわけではない
プロダクトディスカバリーへのエンジニアのローテーションに賛同する場合でも、すべてのエンジニアがこれを望むわけではなく、ディスカバリー活動に適性を持っているわけでもないことに留意してください。これがFASTの素晴らしい点です:強制することなくエンジニアが参加できるようにします。コレクティブは、どのエンジニアがディスカバリー活動に適性と興味を持っているか、持っていないかをすぐに発見することができます。(もし「今後はプロダクトトリオでディスカバリーをする」と決めたら、それによって以降のエンジニアの採用基準や採用の決め方が変わる可能性があります。)
FASTに関する一般的な誤解
重たい調整と計画ではなく自己組織化に頼ることは、必然的にカオスを生み出し、うまく機能するはずがないと思うかもしれません。しかし、現実は全く異なります。流動的なチーミングがどのように機能するかを理解するには、James ShoreによるFAST体験レポートの動画をご覧ください。
FASTを初めて見た人がよく抱くもう一つの大きな誤解は、活動アイテムがサイクル内で「完了」する必要があるものだ、と思ってしまうことです。これはバリューサイクルを誤って、スクラムのスプリントやXPのイテレーションと同じだと考えてしまっています。スクラムでたとえるなら、より近いのはデイリースクラム(時にデイリースタンドアップやハドルと呼ばれる)です。ハドルでは、進捗を共有し、チームメイトから学んだことを基に何をするかを決定します。ハドルに参加する際、必ずしも何かを完了している必要はありません。進捗を出すか学ぶことが必要です。FASTはタイムボックス方式ではなく、フロー方式です。
プロダクトディスカバリーにおけるFASTのメリット まとめ
- イノベーションの促進: FASTは異なるアイデアと視点の交換を促し、新しい発想を生み出します。
- エンジニアの成長: FASTはエンジニアがスキルと知識を拡大することを可能にします。
- チームの俊敏性向上: FASTはチームが変化するニーズに素早く適応することを可能にします。
- サイロ化の軽減: FASTはサイロを打破し、コラボレーションを促進します。
- プロダクト品質の向上: より多くのエンジニアがプロダクト全体に触れることで、プロダクト品質が向上します。
- コード品質の向上: 顧客への共感の増加により、より高品質なコードが生まれます。
FASTをプロダクト開発プロセスに統合する方法
一度にすべてをFASTに変更するのではなく、チームの流動性を試すために小規模な、失敗しても安全な実験を行うことができます。まだスクラムを使用している場合は、トリオに1スプリントごとにエンジニアを配置し、各スプリントでローテーションを行います。あるいはさらに良い方法として、ディスカバリー活動アイテム間の自然な完了ポイントを見つけ、次のスタンドアップミーティングで誰かが交代できるか尋ねてみましょう。
一度この方法を試すと、FASTはすぐにPMがディスカバリーとデリバリーを組み合わせる際に好む方法となるでしょう。流動的なチーミングがディスカバリーとデリバリー作業にもたらす利点――適応性とレジリエンスの最適化――を実感することができます。
ぜひ試してみてください! サポートが必要な場合は、お気軽にご連絡ください。この方法での作業経験を持つコンサルタントをご紹介できます。