このブログ記事は11/2(土)に販売開始する「わたしのペースで歩むエンジニアの道」の中からお話を一つ取り上げたものです。
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自分探しをした日
大学一年生の三月、私は自分探しをすることにした。その冬は本当に寒い冬で、周りの友人たちは皆(思い出せる限り九割ぐらい皆)彼氏をつくり、私と全く遊んでくれなくなってしまった。
凍つく風が吹き荒ぶ中、私は一人で自転車にのりバイト先と自宅を往復する日々だった。ああつらい。私は誰とも愛し合えない。このときは彼氏がいないということがこの世の終わりに感じられた。
圧倒的孤独と、暗闇(大学の周りは基本街灯がなく本当に暗かった)。近くにあるのはコンビニとスーパーとすき家だけで、周りには一人で遊びに出かける場所もなかった。
そんな時に思った、「そうだ、自分を探しに出かけよう」。
自分という人間が誰とも関係をうまく結べないのはひとえに自分が人間として何か足りていない、自分という人間がわからない、この先何をしたら良いかわからないからだ、と悩んだ末の自分探しだった。
聡明なみなさんなら自分探しをしてどうなるんだと思われるだろうが、当時の私は本気で自分探しをしに出かけようと考えていた。
しかし自分探しをしに出かけるには日帰りってわけにもいかないだろう。
でも土日どっちかバイト入ってることが多いしなあ(真剣な自分探しにバイトのことを配慮している時点でどうなんだ?)、そうだ春休みに出かけよう! ということで春休みに数日バイトをお休みして……あれ、ちょうどPunk Spring(Punk中心の音楽フェスティバル)をやるんだね、ふむふむ、ということでPunk Springの次の日一泊二日で自分探しの旅に出かける予定を立てたのだった。
ではどこにでかけるか? ということでたまたま母親から「埼玉に菜の花と桜の花が同時に見れるところがある」と聞いていたところだった。そういった景色がよいところであれば自分を探せるかもしれない! ということで目指した。自転車で。
ところでみなさんハチクロって漫画知っているだろうか? 美大生たちが集まって愛や恋や芸術に対する向き合い方や自分との向き合い方を考える青春群像劇。ちょうど通っていた大学が実写映画の舞台になってね……。
そう! この時の私はハチクロに超!影響されて! ハチクロに出てくる竹本くんが自分のモヤモヤをどうにかするために自転車の旅に出たということで「ならば私も自転車で出かけるしかあるまい」と、自転車1泊二日(竹本くんに比べるとずいぶん短い)旅行に出ることに決めたわけだ。
いざ出発当日、Punk Springの筋肉痛のあまり「本当に行く必要があるのか?」と心折れかけた記憶がある。それでも元気に動けるのが十九歳。今だったら無理よね……。ところで当時Google Mapとかなかったんだけれど、どうやって知らない街に向かったのだろうか。ガラケーのマップでなんとかしてた? 謎。
当初の目標として、千葉県野田市で一泊、二日目に現場到着(埼玉県幸手市)と気合いで家に帰ると言うものだった。当時、大学生はお金がないということで、宿泊場所は漫画喫茶。
一日目に頑張って自転車を漕ぎまくった結果、予定よりもかなり早めに野田に到着した。
漫画喫茶も長居すればするほどお金がかかるものなので、どこかで時間を潰さなければならないと考えた。
漫画喫茶の近くにあるデカい商業施設に映画館があったので、「バッテリー」という映画を見た。ガラガラの映画館。
人生ではじめての一人映画、はじめての林遣都、実は仲野太賀も出ていたらしい。その時何を思ったのか全く覚えていないが、その体験は今もとても覚えている。
一泊した翌日、漫画喫茶を出発してほどなく目的地到着! 桜と菜の花が綺麗〜!!! ということで帰宅!! 頑張ったら半日で帰れたということは、もうちょっと頑張ったら日帰りで行けたのでは? と思わなくもなかった記憶がある。
さて、ここまできて「あれ、この旅なんの旅だ?」と思ったことでしょう。
そうこの旅行を通じて自分が見つかったのか? というと、見つからなかった。その時分かったことは一つ、「自分を探しに出かけても自分は見つからない」ということだった。
聡明なみなさまにおかれましては「そっれっは、そう〜じゃ〜ん!」と思われるかもしない。しかし私は本当にわかっていなかった。本気で探しに出かけたら見つかると思っていた。その割に悠長に映画見たり漫画読んだりしていたな、今思えば……。

いや、「自分探しの旅」ってキーワードが流行(?)するのが悪いと思う。そんなん、「見つかるんじゃ!?」と思ってしまうわけだ。旅にさえ出れば見つかるのでは、と。
あのとき自分は見つからなかったし、家に帰っても見つからなかったし、ま〜しばらく大学生的なモラトリアムも伴い「人生☆ザ☆迷宮」に陥るわけだけど……。
歳をとった今となってはあのときのガラガラの映画館が今も鮮烈に記憶に残っていることや、人生ではじめて一人で一泊の旅行をしたという経験が今の自分にも影響しているんじゃないかとは思う。
自分は見つからなかったかもしれないけれど、自分をつくった一日ではあったと思う。
だって、そのあと自転車でどこまでも行けることに自信を持った私は後日自転車のまま筑波山を登ったわけだから……。ああ、若いってすごい。