
「自社を越えた大きな構想を描けるかどうか」が、今一層大事になってきているように思います。
特に、
- 複数の企業が協力し、共創やオープンイノベーションを企図するとき
- 顧客の大きな課題解決を行おうとするとき
といったときに、大きな構想を描けるかどうかが問われていると感じています。

そこでこの記事では、共創や課題解決における構想の重要性を、ジグソーパズルの比喩を用いながら、特にスタートアップ向けに解説します。
構想のためのピースを埋める共創

ジグソーパズルを思い浮かべてください。このパズルの全体像や枠が「構想」です。

その構想を実現するために、各社がピースとなるリソースを拠出する――これが共創だと言えます。

ただ、現状のリソースだけではピースが埋まりきらないときもあります。構想が大きければ大きいほど、今はまだない技術や、今はまだない事業が必要だったりするので、空白の部分は大きくなるでしょう。
そのときには、足りないピースを他から持ってくるか、もしくは自社が成長してその空白地帯を埋めます。

つまり、共創とは、自分たちの身の丈を越える構想を実現しようとすることであり、その過程でお互いが成長するという取り組みでもあるとも言えます。

こうした観点から言えば、スタートアップが自社の成長のためにやるべきことは、
- 自社や他社の現在の能力を超えるような構想を描き、
- その実現の中で自社が大きくなるような道筋を描くこと
と言えます。
特に最近のスタートアップで起きつつある2つのシフトが、こうした構想と共創の重要性を増しているのではと思っています。
シフト 1:「現場の課題」ではなく「会社の課題」へのシフト

従来のスタートアップは、顧客の目の前の課題やバーニングニーズを発見し、解決することが鍵でした。デジタル技術の成熟と普及によって、これまで解かれていなかった現場の課題が解決しうる状況になっていて、それを解決すればスタートアップは大きな企業になりえたからです。
しかし、現在のデジタル技術で解きやすい課題や、現場で既に顕在化している課題の多くが先人たちの挑戦によって解かれた今、残されていて解決できる課題は比較的小さな課題が多くなってしまいました。その結果、現場の課題にフォーカスしすぎると、小さなスタートアップにしかならない可能性が高まっています。(生成AIが根本的に従来のソフトウェアを変えるのであれば別ですが。)
そうなると、顧客側で顕在化していない課題を提案側が先んじて提案していく、といったような、問題発見型から問題提起型へのシフトが起こります。
ただ、そのときに設定する問題や課題が小さいと、解決時に生まれる進歩の差分も小さくなります。
そのため、現場の人たちの課題を解くというよりは、会社全体にかかわるような課題や、より遠く大きな戦略的な課題を解いていく、という提案を行っていくことになります。

実際、私の周りにいる、成長しているSaaS系のスタートアップは、エンタープライズという大きな顧客に向かうか、顧客企業の戦略的な課題を解こうとしている、あるいはその両方を行っており、その際に自社の事業を超えて、その産業のあるべき姿などの大きな構想を語り、顧客を説得している傾向にあるように見えます。
以前書いた課題解決パラダイムからの脱却も同様の文脈です。
シフト2: ソフトウェアからディープテックへの領域のシフト

昨今、日本のスタートアップエコシステムで期待されているのはディープテックと呼ばれる領域です。先端的な技術を用いることが多いディープテックでも、こうした構想が求められているように思います。(創薬などは別だと思いますが)
まずディープテックスタートアップが取り組む技術は技術成熟度が低いことが多く、「今すぐ」の課題解決には不向きであり、仮に成熟度の低い技術を事業の現場に持って行っても、「使えない」と言われてしまいます。なぜなら現場が求めているのは、目の前の課題を解決できる、今すぐデリバリー可能な技術(TRLで言うと 8 - 9)だからです。
そうなると、
- 短期で技術を磨きに磨いてそのレベルに引き上げて解決する
- 顧客の中長期的な課題を解決しに行く
といった対応が必要とされます。しかし前者が実現可能なのは稀で、多くは後者のアプローチになるでしょう。
そうすると、顧客の戦略的な課題の解決や、顧客の会社の新規事業を一緒に作っていく、といったような中長期の提案が必要になってきます。そしてスタートアップ自身が成長するためには、提案する構想は十分大きな構想である必要があるでしょう。
つまり、まだ技術的に成熟しきっていないディープテック技術であればあるほど、顧客にとっての中長期の課題や会社全体の課題を解きに行く、ということをしなければ話が噛み合いづらい、ということです。
ソフトウェア製品は基本的にTRLが8-9であり、課題が分かれば解決策をおおよそ作れる、という傾向にあるため、ソフトウェアのスタートアップアプローチとは大きく異なることになります。
事業を構想する
私たちは普段、自社の事業成長のために事業計画等の構想を考えます。そのときに考えるのは、通常、社会の中のピースの1つである自社をいかに大きくするか、といった構想や、顧客企業に合うように自社のピースのでこぼこを変化させるような構想です。

しかしここまで説明してきたとおり、共創や中長期の課題解決をしていくための大きな「大きな構想」はそうではなく、自社を超えて、より大きな枠を描くことではないかと考えています。

そのうえで、自分たちがその構想の中でどのような意味を持つのかや、どれぐらい重要なのかを語ること、つまり自社が高く評価される文脈と構想を設定することが、自分たちの事業の価値や成長余地を決める、ということです。
たとえば同じピースであっても、構想や文脈が異なれば価値は異なります。かといって自社だけが得をするような構想だとしたら誰も付いてきません。その構想が社会的に大きく求められるものであれば、協力してくれる人は増えやすいでしょう。
そうした自社にも他社にも社会にも良い構想を描けるか、というのが、共創をしながら顧客の「会社の課題」を解決し、そしてより大きな産業を作っていくうえでは大事なスキルなのだろうと思います。

話す相手も変わる

こうした構想を中心に事業を考えると、「スタートアップが話すべき人」も変わってきます。
これまでスタートアップが話すのは主に顧客企業の中の、特に現場を担当する人が中心でした。しかし、多くの事業部や現場の担当者は、今の事業の最適化による利益の向上、かつ短期での課題解決を狙うよう設計されているため、こうした構想にはピンとこないことが多いはずです。仮に中長期の戦略的な課題があったとしても、現場の事業部レベルでは考えている人は少なく、それを解くインセンティブ設計もないことがほとんどです。
戦略や中長期の課題を考えているのは通常、次世代の事業成長を考えている事業部長やその上にいる幹部クラスであり、そうした人たちに提案しなければこうした中長期の話は刺さりません。そうした人たちにいかに大きく説得力のある構想を打ち込めるか、それが中長期にかかるビジネスをしていくうえではとても重要なのではないか、と思いますし、そこに提案できるだけのネットワークをどう持つのか、というのがより重要になってくるのでしょう。(あるいはスタートアップ同士で採用し合うか、です。)
実際、ディープテックスタートアップの起業家から聞く話として、「同じ会社に提案しても、現場には刺さらなかったけれど、幹部クラスには刺さった」という話はしばしば聞きます。むしろ現場に持って行ってしまうと、ポテンシャルのある技術が小さい解決策へと丸められてしまうことすらあります。
最終的に何かを進めるのは現場なので、顧客の現場の声を聞くことももちろん大事ではあるのですが、と同時に、大きな構想をどう描いて、顧客の大きな課題を解決したり、顧客の事業戦略の中に自社を組み込めるかどうかが、今後スタートアップが急成長していくためには重要なのだろうと思います。
スタートアップが構想を描く

この構想を描く役目は、大企業でもスタートアップでもどちらでも構いません。しかし、もしスタートアップが急成長したいのであれば、自分たちが急成長できるような構想を描かなければなりません。それができなければ、他企業の描いた構想の中でうまく使われる、一部のパーツの提供に終わってしまう可能性が高くなります。特に交渉力の弱いスタートアップであればあるほどそうなってしまうでしょう。
また、大きな構想であればあるほど、実現可能性矢リスクは高まります。ただそうしたリスクを取れるのがスタートアップの社会的な期待でもあるはずです。
よって、スタートアップが自社の事業を越え、そしてパートナーとなる他社の事業をも越えて、より大きな構想を描き、「この構想が実現できれば御社にも大きなメリットがあります。この共創を通して一緒に成長し、この構想を実現しましょう」といった説得力のある提案することではじめて、自社の事業がやりたかったことが進む――という形になるのではないか、と思います。
もちろん、何もピースを持たない状態で構想だけ話しても乗ってくる人はいないでしょう。最初は小さな実績となるピースが必要になります。それでも最初は小さな共創から始まるのかもしれません。しかしその先にある心踊るような、自社の事業のためではないより広く大きく魅力的な構想と、そして足場となる実績があることで、共創や顧客獲得につながっていくのでは、と思います。
日本の既存企業側もこうした大きな構想を描ける人はまだまだ少ないと聞いています。であれば、それはスタートアップが大きな構想を提案していける良い機会だとも言えます。
カンパニークリエーションも構想ありき

カンパニークリエーションも、こうした構想という大きな枠を作り、その中のピースとしての事業が足りないから、その会社を作りに行く――という動きをしているように思います。
たとえば、VargasのNorthvoltは「EUの電化➡バッテリーが不足」でしょうし、同様にStegra (H2 Green Steel)も脱炭素の構想の中で足りないピースとしてのグリーン鉄鋼を作りに行こうという取り組みだったように見えます。
産業家として未来の産業の構想を描く

以前、「起業家から産業家へ」という記事を書きました。
ある意味で、各国政府や大企業すらピースとして見立てて、構想の枠となるパズルの全体像を描き、その中で大きなピース(事業)になり得る大きな空白地帯を見つけ、その領域でどういった事業をスタートアップとして作っていけるのか――そうした発想ができる人が産業家だと言えるのだろうと思います。
そうした大きな構想を描くと、ほぼ間違いなく自社だけではできなくなり、自然と他社との共創もせざるをえなくなりますし、オープンイノベーションにもつながっていくのだろうと思います。
まとめ

解くべき顧客の課題が、顧客の「現場の課題」から、 顧客の「会社や戦略上の課題」になりつつある今(あるいはそうしなければスタートアップも大きくなれない今)、こうした「自社の事業を越えて大きな構想を描いて提案し、顧客と共創する」ということがより重要になってきているのでは、と思っています。
特にこれからハイグロース・スタートアップを始めたいという起業志望者の方々は、こうした観点でもアイデアを考えてみても良いかもしれません。
その方法論の一部は過去の記事でいくつか触れています。たとえば『未来を構想する』や『デザイン思考🎨🧠を超えて、グランドデザイン🗺️を』などです。
また『リソースフルネス(仮)』という本ではそのピースを集める方法を書こうとしています。もしご興味があれば、そうした記事や本も参照してみてください。