
NotebookLM によるまとめ
供給力不足によって起こる社会課題が起こり始めています。
こうした社会課題を解き、新しい付加価値を生み出していくのがスタートアップをはじめとした新規事業への期待なのだろうと考えていますが、この課題の切迫感についてはあまり共有されていないようにも感じており、この記事で少しだけざっくりとした数字をまとめておきます。
今回取り上げるのは『労働供給不足』という分かりやすいトピックです。既にリクルートワークスの2040年レポートなどでも取り上げられてきた話題ですが、改めて議論します。
現在の労働供給不足
まず足下では、日本の人口は減っているものの、労働力人口(就業者数+失業者数)は増えています。これはパートタイムで働く女性やシニアの増加によるものと見られており、これによって労働供給不足は短期的には多少緩和されています。
しかし、その状態でも人手不足が叫ばれています。この原因としては、
- 一人当たりの労働投入量(労働時間)の増加の限定 - 働く人の数が増えても、それが短時間労働だと労働投入量は大きく増えない
- 需要側(求人)の質の変化 - 事務職などの求人は減り、スキルが必要な職種が増える(たとえば現在の一般事務職は 0.3 倍)
- 需要側(求人)の量の変化 - 一人当たりの長時間労働で補っていたところが、働き方改革による時間制限で、同じ仕事量でも採用人数が増加
- 地域のミスマッチ - 一部の職種は地方での求人が多いが、地方に若手がいない
- 職種のミスマッチ - 介護や建設、運輸などの特定職種が極端に足りない
- 条件のミスマッチ - 賃金や労働時間の柔軟性などが合わない
といったいくつかの問題があるからです。
これらを雇用政策研究会報告書 (2024年) は「需要超過」「摩擦」「構造」の3分類に分けて、それぞれ異なる解決策が必要だと述べています。
つまり、今起こっている労働供給不足は、決して労働供給の絶対量を増やせば解決する問題ではないということです。
と、前置きしておいて何ですが、ここからは分かりやすさのため、労働供給の量に着目した議論をします。
2025年から2045年の人口の変化
まず将来推計人口(2020年国勢調査、2023年結果公表)によれば、2025年から2045年の20年の間に、日本の総人口は約12%減ると言われています。

この内訳を見てみます。20~64歳という働き盛りの人たちの人口は約20%減ります(仮に定年を延長して69歳まで働くとしても、働く人たちは17%減るようです。15歳から64歳という標準の区分を取っても良いのですが、進学率が既に8割程度なので20歳にしています)。

ここでのポイントは、ざっくりと人口を国内需要としたときに、全体の需要自体は12%しか減らないものの、その需要を満たすための供給となる労働者の数は20%減る、というアンバランスさがあることです。こうした状況のなか、現在のような労働需要と供給のミスマッチが起こってしまうと、さらに苦しくなります。
ここからさらに産業や労働で見てみると、より厳しい数字が見えてきます。
社会維持のための産業と付加価値のための産業
まず産業を「国内社会の維持のための産業」(社会時産業)と、「外貨を稼ぐなどの付加価値の産業」(付加価値産業)に大きく分けます。その際、以下のような産業を「社会維持産業」としてざっくりとまとめましょう*1。
- 建設業
- 電気・ガス・熱供給・水道業
- 運輸業,郵便業
- 卸売業,小売業
- 医療,福祉
- 公務

「公務」の人数が含まれる令和3年の経済センサスによれば、付加価値産業には3,259万人、社会維持産業には2,985万人が従事しています。
この産業別の従業員者数の割合が2025年も続いているとして、人口の話と合わせて考えます。
社会維持産業に必要な人手は、需要とともに相応に減ると仮定します。つまり、人口が12%減るので、労働者も12%減っても現在の社会を維持できるとします。(実際は高齢化により、介護などの需要はむしろ増える可能性は十分にあります。)
一方で、20 ~ 65 歳という働く人たちの人口は 20% 減ります。ここから
付加価値産業に割ける労働者 = 総労働者 − 社会維持産業労働者
であると考えて付加価値産業の労働者の数を算出すると、導かれる結論は以下の通りです。
- 20 ~ 65 歳の労働者全体は 20% 減ります
- しかし社会維持産業では 12% の人しか減りません
- つまり付加価値産業に割ける労働者は 27% 減ります

つまり、稼ぐための産業に割ける人がかなり減少する、ということです。
なお、人数ではなく総労働時間の観点から見る数値も加えておくと、経産省の資料によれば、2021年には1,022億時間の総労働時間があるのが、2040年のベースケースでは 828 億時間になる推定になっています。投入できる時間がおおよそ 4/5 になるということです。
(ちなみに経産省の新機軸の資料によると、1994年の総労働時間は1,178億時間で、そこ現在もからかなり減ってはいます。)
ここから私たちが直面する課題は、
- 稼ぐために人を割くのか
- それとも社会維持のために人を割くのか
といったジレンマだと言えます。

社会維持に対する需要は底堅いですが、その需要に供給が引っ張られていくと、付加価値をもたらし経済を回すところに供給が回らなくなる――こうしたジレンマを緩和し、私たちの今の経済状況を維持していくためには、以下のいずれか、もしくは両方の対応が必要だということになります。
- 今の27%以下の人手で、現在と同等の付加価値を生める労働を増やす
- 社会維持産業の効率化で、社会維持に必要な労働を減らす

これを実現するのはかなり難しいことですが、何かしらの技術等で実現できなければ、私たちの今現状の生活を維持していくことはできません。(ただし移民政策や家族によるケア負担を増やす政策などで状況を変えることはできるので、技術だけで解決するべきものというわけではありません。)
これをスタートアップで言えば、
- 社会維持の効率化のためのスタートアップ
- 高付加価値産業の創出のためのスタートアップ
の2つが必要とされている、ということです。

なお、現実は生産性や賃金などで変わるため、これは簡易的なモデルでしかありません。しかし、こうしたことを考えていかなければならない、ということは言えるのではないかと思います。
地域での変化はより急峻

ここまでは日本全国で見たときの数字であり、首都圏以外の地域を見てみると、より大きな変化が起こることになります。
とある北陸の都道府県で見てみると、人口は12%ではなく20%減で、20歳から65歳の人数は 25% 減となります。この結果、付加価値産業に割ける人は 1/3 以上減、といった形でした。
また首都圏以外の地域では、より労働供給が制約される傾向にあるため、「どうやって少人数で多く稼ぐか」はより切迫した課題となります。
産業を見てもより厳しいのが地域です。首都圏にはITや金融といった高付加価値産業が集まってきているものの、地域はほぼ製造業が高付加価値産業の中心です(観光業に期待が集まっていますが、観光業が類する宿泊業や飲食業は、労働の吸収はするものの高付加価値ではなく、むしろこの30年で労働生産性は落ちている(下図)ため、逆にここでの労働者が増えると「少人数で稼ぐ」という面では厳しいだろうと考えています)。

そうした製造業が中国をはじめとした新興国のキャッチアップの中で競争力を維持するのは、かなり難しい戦いとなり、そこに対する答えを作っていく必要があるということです。
効率化するべき職種やタスクを見誤らない
これまでの B2B スタートアップのサービスの対象は主に「ソフトウエアだけで効率化可能」な事務的な手続きの自動化でした。
しかし冒頭でお話しした通り、一般事務職等はすでに有効求人倍率も低く、足りないのはむしろフィジカルな仕事、いわゆるノンデスクワーカーの仕事です。たとえば「建設産業の人手不足」の問題に真っ向から対応しようとすると、本当に人手が足りない現場監督や施工管理の部分にアプローチしなければなりません。
もちろん、ノンデスクワーカーにも発生する事務作業をソフトウェアで少しは減らすことはできるかもしれませんが、それだけではおそらく人手不足を大きく改善することは難しいと思われます。(そうした一部タスクの効率化から入って、全体を変えていくこともあるかと思うので、必ずしもその単体で否定するものではありません)
これぐらい大きな供給不足に対応するには、部分最適にとどまらず、ワークフローやバリューチェーン全体をどう最適化していくのかといった考え方をしなければならないでしょうし、場合によっては点検等の規制の変更や、ロボットといった手段も検討する必要があるでしょう。
まとめ

このまま時間が過ぎていくと、ジリ貧になっていき、新しい挑戦はやりづらくなっていきます。そうした意味で、今私達の世代がやるべきことの1つが、まさにこうした社会課題解決なのだろうと思います。
もし失敗すれば、今の生活水準を維持することはできなくなり、その憤りの矛先は政治や社会の弱者に向いていくことも十分に予想できます。そうなる前に、なんとか手を打たなければなりません。
時間はそう残っていません。新しい高付加価値産業を作ることや、現在の社会維持のワークフローを劇的に効率化して転換していくためには、10年ぐらいの長期の時間が必要です。2045年まで残り20年弱しかありませんし、そして女性やシニアの労働参加の増加が継続する時期もおそらくはそう長くないからです。
残された短い時間の中で、こうした供給力不足にどう対応していくのか、ということを事業サイドも本気で考えていかなければ、事業継続の前提となる社会構造が崩れていく、そんな時期なのだろうと思います。それに対して何かしらの答えを探すスタートアップが増えることを期待していますし、そうしたことに目を向けて課題と解決策を考える人がいれば何かしらの支援を厚めにしていくことが大事だろうと思っています。
補足
多くの人が75歳までことで、労働者自体を増やすことはできます。実際、労働市場退出年齢は現在約67歳(男性66.9歳、女性64.7歳)と言われていますし、より長く働く人は増えてくるでしょう。しかし、身体多岐な限界から、その労働はおそらく事務作業や清掃等の軽作業に向かうのでは、と思います。これらは有効求人倍率が0.4を下回っており、すでに供給過多です。

一方、農業従事者の平均年齢が68歳弱で高止まりして増えていないところを見ると、肉体労働を伴う仕事はこれぐらいが身体的な限界なのだろうなと思います。
介護を受けはじめる年齢は82歳ぐらい(初回認定者の平均年齢)と考えると、75歳まで働くのは結構きつそう、という仮定で 20 ~ 65 歳もしくは 70 歳という数値を出しています。
*1:リクルートワークスの調査では『生活維持サービス』と言われていますが、それを参考にしつつ、経済センサスの産業大分類の数値を使うために異なる分類にしました