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スタートアップと地域との『インダストリー・クリエーション』

NotebookLM によるまとめ

スタートアップのことを考えていくうえで、『産業全体』を考えることの重要性を改めて感じています。

その理由は大きく2つあり、

  • 大きなスタートアップを作ろうとすると、その周りにどういう企業群が必要かを考えなければならない
  • 「2050年に向けて、日本はどういった産業で稼いでいく国になるのか」という問いの重要性がスタートアップを考える上でも増している

と考えているからです。

考える単位を「企業から産業へ」と拡張させることを、スタートアップにおける「カンパニークリエーション」という言葉にかこつければ、「インダストリー・クリエーション」的な思考や取り組みが必要になってきているのだろう、とも言えます。

(ここでのインダストリー・クリエーションとは、単一企業の成功ではなく、需要・供給・資本・人材・制度等の同時最適化により、特定産業領域において価値創造を行うことを指しています。)

 

産業全体が重要な理由

例を使いながらこの背景を整理します。

2025年現在、ペロブスカイト太陽電池が現在日本で注目を浴びています。この研究開発や量産を行うハイグロース・スタートアップが出てきたとしましょう。

しかし電気工事士や施工会社が不足していれば、それを敷設することはできず、おそらくその企業の国内での成長は止まってしまいます。

つまり、仮にハイグロース・スタートアップ的な企業の候補を作れたところで、その周りの企業群が律速となって、そのスタートアップの成長も止まってしまう、ということです。本当にスタートアップを急成長させたいのであれば、自社事業の周辺のサプライチェーンも含めた産業(インダストリー)をどう作っていくかを考える必要があります。

これを図にすると、中心にアンカー企業やハイグロース・スタートアップがあり、円状に沢山の企業がある状況をどう作るか、いわば「産業をどう作るか」を考えなければならない、ということになります。

かつての自動車産業も、中心部にトヨタなどの企業が大きな需要を生み出し、その周辺にTier 1や2などの企業を生み出し、まさに産業を作ってきました。

一方、この20年ほどの日本のスタートアップの「インダストリー」と言えば、ほぼ「IT」であり、これまでなかったWebやスマートフォンという空白の市場に、ITサービスを新しく作り提供することや、既存産業にとっての拡張領域であるソフトウェア市場にITサービスを作ることが「ITという産業」を作ることと捉えられてきました。

ソフトウェアで完結するビジネスであればこうした産業全体をどう作るかという発想はそこまで必要はありませんでした。なぜなら、前後のサプライチェーンを意識する必要はそこまでなく、開発も世界中のライブラリを物理制約なく使えたからです。

しかし、今はIT以外の産業領域でスタートアップの創出が模索されており、それには既存の産業構造があり、地理的・物理的・時間的な制約も出てくるため、こうした全体像を考えながら進めていく必要性が増します。

 

スタートアップ以外の企業を作る難しさ

太陽光の例に戻ると、こうした敷設作業を行う人を雇う会社は、労働集約的なビジネスモデルになり、かつ地域ごとに分散するため、おそらく個々の企業の時価総額はそこまで高まらない形の企業となるでしょう。スタートアップがそこまで見越して、敷設なども行うフルスタックで自分たちでやっていくのも1つの手ですが、そうした垂直統合がかなう領域もあれば、そうでない領域もあります。

また、資金や支援も問題になります。ファンドサイズが大きなVCは中心部にあるスタートアップにしか投資はできません。スタートアップ支援もあくまでハイグロース・スタートアップ支援であり、行政の行う一般的な起業支援も個別の起業が対象となっており、特定の産業に特化してその産業全体を最適化するために起業支援をしていく、といった取り組みはそこまで行われていないように思います。

 

ソフトウェア企業のスタートアップは特異的に1つの企業を作ることに最適化していけば良かったものの、それ以外の領域では産業全体を考えた設計をしないといけないのではないか、というのが問題意識となります。

それはスタートアップエコシステムの役目ではないかもしれませんが、ただこれらも含めて考えていかなければ、大きな企業を作ることはできないことを考えると、スタートアップ側からもこうした産業の全体像を考え、提案することが必要ではないか、と考えています。

 

地域が作る「産業の器」

こうした産業を作っていく観点では、地域が重要だと思ってます。

たとえばホーソーンにSpaceXというアンカー企業が位置し、研究開発と製造をするだけではなく、その周りにサプライヤーが同居して、行政が協力しながらインセンティブや規制の整備を行って、大学等の教育機関も協力した結果、2022年から2024年のわずかな間にも平均年収が2000万円の職が11,000個以上生まれている、と言われています

中国の杭州ではアリババを中心に、イノベーション回廊という地区を作り、現在はAIスタートアップ群の「六小龍」も生み出しています。

日本でも同様の器作りが必要です。各地域にはそれぞれの歴史と産業があり、さらに地理的な特徴もあるからです。港が近ければ輸出入がしやすいですし、どんな教育機関があるかによって採用できる人材も異なります。

過去の取り組みの参考例: https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/senmonka_wg/dai8/siryou2.pdf

こうした設計を各地域でどう行っていくのか、という視点が必要なのだろうと思います。

実際、最近よく私の周りの話を聞くこととしては、『太平洋ベルトの再設計』などがあります。戦後作られてきた太平洋ベルトのコンビナートはグローバルな競争の中で稼働率が徐々に下がりつつあり、またGXに向けて既存の施設や資産を産業・雇用的にどう再設計していくのかを考えなければなりませんが、そのときまさにこうした地域ごとの産業政策が必要な時期なのでしょう。

 

実用最小限のクラスター作りと競争

いわゆる産業クラスターの議論ではありますが、とはいえ昔ほどこうしたクラスターをトップダウンで作るのも難しい一面もあるように思います。戦後はキャッチアップ型の経済であり、化学製品などの需要がある程度見えているからこそ、集中投資して寄り安く供給を行えればある程度国内需要と国外需要をつかめるだろうということが見越せたからです。

一方、現在はどの産業が当たるか分かず、多少探索が必要になります。また、昔とは違って産業を徐々に育てていくようなスピード感で進めるわけでもなく、どうスピード感を持ってこうした産業を作りに行くのか、という発想が必要なのだろうと思います。

そこで新しい産業クラスターを素早く実験的に作っていくというアプローチが必要となってきます。そのときその最小単位を、産業クラスターにちなんでMinimum Viable Cluster(MVC)と呼んだとき、以下のような設計を各地で実験的に行っていく必要であるように思います。

  • アンカー企業(研究・試作・製造を持つ企業)
  • アンカー需要(企業や公共調達などによる先進需要)
  • 周辺供給網(部材・装置・施工・保守を行う企業)
  • 人材パイプライン(職業訓練、マイクロクレデンシャルなどを提供する教育機関)
  • 制度・規制の設計(規制サンドボックス、迅速な認証・前提承認を行う行政)
  • 資金の多層化(VC/PE/与信・プロジェクトファイナンス、公的信用補完などを行う金融機関)

中国の地方政府などはこうした取り組みをしながら、各地方政府が熾烈な競争を行って、そこから新興産業が生まれてきているように見えています。

日本でもそれぞれの地域でこうしたMVCを複数作っていき、日本国内で競いつつ、そこで育った企業が海外に打って出る必要があるのだろうと思います。

そのときの中心的なパーツになりうるのがスタートアップであり、そうなっていかないといけないのだろうと思いますし、そのときに地域の産業政策との連携がより重要になってきます。

実際、地域の持つ価値も徐々に変わり始めています。ITといえば昔は東京一極集中でしたが、たとえば日本が今後もEUと組んでいくのであれば、製造業はグリーン電力が安価に手に入る可能性のある九州や北海道に徐々に拠点を移していく可能性は十分にあります。

 

どの産業で「真ん中」を取りに行くか

とはいえ、すべての産業でこうしたトータルな育成というものはできません。おそらく対象となる産業は、

  1. 日本社会を維持させるために必要な産業(たとえば交通など)
  2. 外貨を稼ぐフロンティア産業

になるのだろうと思います。そこで考えるべきになってくるのが、日本としてどういう産業を盛り立てるか、です。

ITはアメリカのほぼ一人勝ちとなりました。AIの領域でも、さきほどの円の図のど真ん中に OpenAI や Anthropic 等の米国スタートアップがアンカー企業として生まれてきており、日本はAIを使ったアプリ等の周縁部を中心に事業を作ることになっています。しかし、中心部にいる企業ほど最終的な利益が高まり、周縁部に行けば行くほどデジタル小作人的な立ち位置となり、デジタル赤字が拡大するという構造です。

そうすると、世界が求める次なる産業を当てて、世界の中でどう真ん中を取りに行くのか、という発想がより重要になってきます。

また日本発のスタートアップが急成長していくうえでも、こうした産業レベルで成長性を考えて、賭けていく必要性も増しているとも感じています。

広くグローバルの市場を見た上で、経済安全保障の議論における戦略的不可欠性などを考えながら、どういった産業を作りに行くのかを考える必要があるでしょう。

 

実装論:インダストリー・クリエーションの進め方

ここからはどうやるかです。おそらく各地域ごとに、それぞれの歴史や産業を踏まえながら、抽象論ではなくかなり具体な事業を考えていく必要があるのだろうと思います。私案としては、アンカー企業・アンカー需要となる仮説を設定して、それを中心にバリューチェーンを考え、必要かつ高付加価値な事業群を作っていくことです。

そのためには、起業家や投資家が事業を考え、既存企業や行政が先行需要を生み出し、教育機関が人材の育成を行い、行政が規制や認証を素早く行えるようにする――といった連携作業が必要だろうと思います。最終的なマップを作りながら、Minimum Viable Clusterを形成するために必要な手を打ち始めること、そうした議論の場を小さなメンバーで作り始めることが、おそらく各地域で必要なのでしょう。ある意味で、まちづくりの産業版、いわば「産業づくり」のチームを産官学で作っていくということです。

ある意味で、産官学によるオープンイノベーションとも言えます。

そして指標も資金調達額ではなく、国内付加価値率や輸出比率、高付加価値な雇用の創出数など産業の筋力を測るものに置き換えていくべきなのだろうだと思います。

 

まとめ

2050年時点での日本の勝利条件を「ある程度の豊かさで多くの人が生活できる国」と定めるなら、私たちはいま、そうしたミッション志向のインダストリー・クリエーションをどう実装するかを真正面から考える段階に来ているように思います。人口動態、地政学、技術などなど様々な制約があり、国際関係等の変数もありますが、その中で勝てる道筋を見いだしていかなければなりません。

そのためにも自社の成功条件を超え、産業の成功条件を設計する人や場が求められていると感じています。

そうした意味でも「産業をつくること」(インダストリー・クリエーション)を考えていく時代なのだろうと思いますし、理念に終わらず、その実装に向けてできることから始めていければと思います。

 

(過去に『起業家から産業家へ』という記事を書きましたが、本記事はその延長の記事です。)

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