
この数年で『未来を構想する』ことの重要性が増しているように感じています。
2010年代は「ソフトウェア・スマートフォンという解決策」によって解ける適切な課題を探すための「未来を手探りで探索する」ことや、課題解決の重要性が相対的に高い時期だったように思います。
しかし2020年代に入り、より大きな事業構築への期待が高まりました。さらに社会の秩序が本格的に乱れることで、2010年代とは異なる不確実性が高まっている環境になっています。
そのような環境の中で新しい事業を作っていこうとしたとき、自らの意志に基づいて「未来を構想する」 ことがより重要になってきているようです。

ではどのようにすればうまく構想(ブループリント)を描けるようになるのでしょうか。
2021年に書いた『未来を実装する』では、「調べても未来の描き方は分からなかった」として、ロベルト・ベルガンディの方法論を紹介する程度に止まっていました。
でも、今ならもう少し先まで行けるかもしれないと思っています。『解像度を上げる』『仮説行動』などの本も書いたほか、最近は未来の構想をするワークショップなども関わること増えてきたためです。
本稿ではそこでの学びを少しまとめておこうという記事です。まだ柔らかい段階で一般論にとどまっている印象もあるので、もう少し精緻化したいとは思っています。
なお、本稿では「新規ビジネスにおける構想」かつ「10年以上先の未来」を意識しながら書いていますので、別の領域では当てはまらないかもしれません。ご留意ください。
本稿で整理している概念
まずこの記事の要点を解説しておきます。
- 構想とは - 未来の一時点での「絵姿」と、そこに至るまでの「ステップ」の仮説である
- 構想の良し悪し - 影響度と確信度の両方が高ければ良い、低ければ悪い
- 構想の構成要素 - 大きさ/細かさ/整合性/順序(時間)の4軸で整理できる
- 構想の作り方は - 発散と収束(=仮説と検証)を、段階的かつ高速に繰り返すことが中心である
また、以下の3つの本の概念を使っています。

なぜ構想が必要か (Why)
なぜ構想が必要なのでしょうか。まず未来の構想を作るメリットはいくつかあります。
(1) やることが明確になる
私たちが今何をすれば良いのかの見通しも良くなります。
未来の構想を作ることで、未来と現在とのギャップが明らかになります。すると「未来と現在に横たわるギャップをどうやって埋めるのか」という問題設定が可能になります。
いわば、未来の理想がなくして、課題は見つからず、課題がなければ私たちが今何をやるべきかが定まりません。

辿り着きたい未来が変われば課題も変わり、解決策も変わり、今やるべきことも変わります。逆に言えば、良い構想を定めることができれば、私たちはこの課題と解決策の往復運動の幅をある程度狭めることができます。
(2) 仲間を作りやすくなる
また、構想があることで、何をするのかが分かりやすくなり、仲間が集まりやすくもなります。
いわゆるロジックモデルやTheory of Changeを公開することで、コレクティブインパクトを実現しやすくなる、ということです。
構想とは何か (What)
私は「構想」を「未来の一時点での絵姿とそこまでのステップの仮説」と捉えています。
つまり、構想には2つの仮説が含まれます。
- 未来の一時点での絵姿の仮説
- そこまでのステップの仮説
絵姿は目標であり、ステップとは戦術や打ち手、ロードマップなどのことです。
いわゆる「ビジョン」だけでは構想と言えず、ビジョンに至るまでの打ち手の仮説、いわば戦略や戦術の仮説が揃ってはじめて構想と言えます。
山登りで言えば、登るべき山とその登り方の計画のセットが構想とも言えます。

構想の『解像度』
「構想」をジグソーパズルで表現してみましょう
「構想がある」と言える状態は、ジグソーパズルにおいて以下の3つの条件を満たしていると言えます。
- 全体の完成形
- ピースが分かっている
- ピースを置く順番が分かっている

ただし実際にはピースが存在するかどうかも分からないため、 その全体の絵姿を完成させるかどうかも分かってはいない、というところには留意が必要です。
このジグソーパズルをメタファーにしたとき、構想の優劣は以下の4つの軸で整理できるのではと思います。
- 大きさ(絵姿の大きさ:パズルの完成形の大きさ)
- 細かさ(ピースの細かさ:要素がどれぐらい分解されているか)
- 整合性(ピース同士が矛盾せず固くつながっているか)
- 順序(どの順序でピースをはめていくかの時系列)

『解像度を上げる』で取り上げた視点で言えば、以下のような対応関係があります。
- 大きさ:広さ
- 細かさ:深さ
- 整合性:構造
- 順序:時間

4つの要素の依存関係
これら「大きさ」「細かさ」「整合性」「順序」の4つの要素には依存関係があります。
- 構想が大きいと整合性を維持するのが難しくなります。たとえば文章でも、140文字以内で整合性のある文章を書くのは簡単ですが、1000文字の原稿だとやや難しくなり、1万文字はそこそこ難しく、10万文字だと更に難しくなることに似ています。
- 一方、構想の整合性や実現性に強くこだわれば、大きな構想は描きづらくなります。両方とも高い状態を意識的に目指し続けなければ、私たちの思考は現実や実現性の重力に引き戻されます。
- 構想が大きいと、細かなところに気を配るのも難しくなります。抽象度の高い大きなピースがいくつかあったとしても、そのピースを用意して持ってくるのは大変です。逆に細かいところに気を払いすぎると、大きな構想を描けなくなります。
- 時間が長くなると『未来のコーン』(不確実性のコーンの逆版)のように、可能な未来は広くなっていき、整合性を取るのが難しくなります。一方で時間が長くなると、発想は広がる傾向にありますし、できることは増えます。たとえば、5年後を目標にすると現在入手可能な技術で実現する必要がありますが、15年後だと多少の技術の研究開発もできます。
なお、最終形の絵姿の整合性もそうですが、時間的にぴったりと整合している(たとえば2040年を狙ったら2040年ちょうどにできている)といった整合性も大事です。

構想は『仮説群』である
構想は仮説だと言いました。仮説とは仮の答えのことです。
そして構想は1つの仮説というわけではなく、複数の仮説がシステム的に複雑に絡み合った仮説群であり、『仮説行動』の言葉で言えば仮説マップとも言えます。

そして構想は仮説であるが故に、決まり切ったブループリントというよりは、常に更新し続ける「生もの」であり、行動や懸賞の結果、更新していくものでもあることは強調させてください。

構想の評価:影響度×確信度
それぞれの仮説や仮説群は、主に2つの軸でその強さを整理できます。
- 影響度(インパクト)
- 確信度(実現可能性)

このとき、影響度と確信度の両方を、目標とステップは行ったり来たりしながら、影響度と確信度の両方が極めて高い仮説群としての『構想』を構築していくのが、構想をするということだと私は思っています。
構想を作る方法:全体の流れ
ここまで、「構想とは何か」について整理してきました。ここからはよりHowの部分を解説します。
基本的には「発散と収束を高速に繰り返すこと」が未来を構想するためのHowです。別の言い方をすれば「作業仮説を作って検証することを高速に繰り返すこと」とも言えます。
基本的な作業仮説の作り方については『仮説行動』とその関連スライドでまとめたので、そちらをご覧ください。

ここでは、未来の構想を考えるという領域に限定した、発散と収束、仮説と検証の方法について解説します。
(1) 段階的に発散と収束をさせる
未来を考えるうえでは、一気に発散をさせるよりも、段階的に発散と収束を繰り返していく方が良いのではと感じています。
たとえば、
- 20年後の自社の大まかな絵姿についての発散と収束
- それを実現させるための道筋についての発散と収束
- (必要なら)最初の1〜2年の検証計画について発散と収束
といった具合です。特に複数人で考えるときには、考えるときにはある程度段階的に行うことで認識合わせがしやすくなります。
ただし、一方通行ではなく、進んでいったときにやっぱり駄目だと思ったら、前の段階に戻ってもう一度発散と収束をすることをお勧めします。
(2) 現在と未来の挟み撃ちをする
「未来から考える」と「現在から考える」の行き来をしながら発散と収束を行います。
映画『TENET』を見たからなら分かると思いますが、現在と未来から挟み撃ちをしていくイメージです。いわゆるバックキャストとフォアキャストの組み合わせとも言えます。
これにより、未来の実現性などの検証もできるようになり、より精緻な方向性を掴むことができます。
ただし、現実の重力が強すぎるため、なるべく未来の可能性に比重を置いた議論をすることをお勧めします。
「段階的な発散と収束」を組み合わせると、以下のような図になるでしょう。未来から現在へ向けた発散と収束と、現在から未来へと向けた発散と収束を行うイメージです。

(3) 具体と抽象の挟み撃ちをする
これは色々なところで言われていますが、具体と抽象の行き来をすることでより精緻になります。多くの人はどちらかが得意で、どちらかを苦手とするので、苦手な方をより意識しておくと良いでしょう。
(4) 空想から始めて、「できる道」を見つける
私たちはついできることから考えてしまいがちですが、まず少し発想を飛ばして、いわば空想から始めることを奨励する必要があります。そこから逆算して、そこに至るための細い道を見つけていくのが構想です。
単なる空想に止まらないコツは、高速に検証することです。検証する能力さえあれば筋の悪いアイデアはすぐに捨てることができます。
(5) 現状のシステムを知る
システム思考的な現状の整理をしておくことは発散・収束の両面で重要です。
1つの要素の変化が他の要素にどのように影響をするのかを知っておくことで、レバレッジポイントも分かりやすくなります。
発散
発散させていくときに一番難しいのは、大きな構想を描くことです。多くの人は、大きな構想を描くことになれていませんし、場合によっては恐れを抱きます。ここを越える方法はまだうまく見つけられていないというのが実情です。しかし、大きな構想を描けなければ、影響度(インパクト)は出ません。
『仮説行動』でも大きな仮説を描く方法について解説しましたが、ここでは未来の構想を考えるための具体的な方法をいくつかまとめます。

(1) 二段ぐらい高所の未来を考える
もし会社であれば、自社よりも一段上の「産業」、さらに一個上の「国」レベルでの未来を考えて、その未来がどうなるから、その未来の国における「産業」や「自社」の位置づけを考える、というのが1つの方法だと思っています。
「自分たちの事業の未来を考える」ということをすると、自分たちの事業の延長線上でしか考えられなくなります。

(2) 情報を集める
大きく考えるためには情報が必要ではないか、という仮説を持っています。
アナロジーを行うこともそうですが、基本的に多くの人は適切な情報を持ち合わせていないため、大きく考える枠を設定できないのではと思っています。
(事前にインプットを揃えるだけで、発散の質が変わります。)
(3) 適切な制約やピン留めをする
アイデアには多少の制約があることで探索空間を緩やかに閉じることができて、逆に枠の外にある発想を促しやすくなるように思います。いわばテーマなどを持つことです。
生成AIを使うときも、抽象的なプロンプトには一般的な回答しか返ってきませんが、良い感じのところにピン留めして(適切な言葉をピンにして)、その周辺のアイデアを出してもらった方がユニークなアイデアが出やすいように思います。
このピンの留め方が、構想の筋の良し悪しをある程度決めてしまいます。
(4) 適切な枠組みをゆるやかに持っておく
他の領域の枠を無理矢理当てはめてみることで、現象の新しい見え方に気づくときがあります。いわゆるアナロジーです。
適切にアナロジーを行うためには、物事の構造的な理解と、構造自体のパターンを持っている必要があります。
収束
収束の多くは「検証」になります。構想で言えば、細かさや整合性のチェック、という形でしょうか。『仮説行動』でいえば「仮説マップの検証」にあたります。
以下は未来の構想を考える上で使える収束の手段です。

(1) 年表を作る
特に大きめの未来を考えるときには、「年表」を書いて、時間的な検算をすることもお勧めです。年表を書いてみることで、未来の構想を「気分」から「構造」へと変えるのを手伝ってくれます。意外と20年などは短いことが分かりますし、考えるべき他の要素の発見や整合性の検証もできます。
(2) 大きくブレない未来で検証する
たとえば20年後でも、おそらく人口の予測は相対的に大きくは変わりません(もちろんレンジはあります)。
それによる社会の変化はあり得ますが、「ベースライン」として比較的使いやすい要素で検証することで、空中戦になり過ぎるのを防げます。
(3) 推定して検証する(フェルミ推定など)
フェルミ推定などを活かすのも検証の一つです。
特に技術においては、理論的な最大値は変わらないので、こうした計算をしておくのはお勧めです(未来においても物理法則は変わらないので)。
https://blog.takaumada.com/entry/calculating-the-impact
(4) 専門性を持つ
それぞれの領域での専門性は、パズルのピースを寄り細かく見ていくために有効です。
特に整合性の穴(抜け)や、制約条件(規制・供給制約・技術的限界)を早く見つけるのに効きます。
(5) 検証の観点を最低限チェックリスト化する
収束の観点が浅いと、 整合しているように見える物語が成立してしまうことがあります。最低限、次の観点で検証することもお勧めです。
- 整合性
- 実現可能性
- 経済性
- 競争
- 反証
そのほか、検証方法については悪魔の代弁者やプレモーテム、プレパレードなど、様々な手法があるので、それらを使うと良いでしょう。
ツール
(1) ChatGPT を使う
アイデアの発散をするときには、ChatGPTなどの生成AIサービスにうまくプロンプトを投げられるようになりました。
特にLLMは発散を得意とします。ある意味アイデアの発散とはハルシネーションでもあるからです。
ただしハルシネーションが起こるということは、検証でミスをしやすいということでもあります。そうした意味で収束を得意とするわけではありません。また収束には意思が必要なので、そのあたりはまだAIに任せることはしづらい部分です。
(2) NotebookLMを使う
ざっくりと情報を入れて、その情報を元に未来の構想の叩き台を作ってスライド化することで、議論の叩き台を作りやすくなります。
Nano Banana Pro や Mixboard など、画像生成系を使うのも1つの手でしょう。
(3) 仮説マップキャンバスを使う
仮説マップキャンバスみたいなものを使って整理するのも1つの手かと思います。
まとめ

本稿では、未来を構想するうえで役立つかもしれないいくつかの考え方をまとめておきました。まだ私たちが試していることを全部書けているわけではないですが、一旦ツール群として使えるようにはなっているはずです。
なお、ワークショップの場合は時間制約に合わせてアクティビティを選んでいくことになりますし、参加者や目的に合わせて変更したり、事前に情報を準備したりするので、やり方は様々だと思います。
そして何より、「未来を予測する」「未来を当てる」というわけではなく、私たちは未来を構想し、それに実際に取り組むことで「未来についての仮説を正解にする」「仮説を現実にする」という気持ちで取り組むのが大事だと思っています。そこを最後に強調させてください。

できれば今書いているリソース本の次に、『未来を構想する』(仮)という本を書いて、そうした本を書きながら、未来を構想するための方法をもう少し自分でも深めていきたいと思っています。
(とはいえ、そろそろHowの本ではない本を書いて、別の考えを深めたいところなのですが…)
NotebookLM によるまとめ