こんにちは、Androidエンジニアの@morux2です。先日 RECRUIT TECH CONFERENCE 2025 にて、「エンジニア主導の企画立案を可能にする組織とは?『スタディサプリ小学講座』に新機能がリリースされるまで」というLTを行いましたので、発表内容のサマリを共有させていただきます。(当日の10分でお伝えしきれなかった内容も補足しております!)
発表資料はこちらになります。
アーカイブも公開されましたので、ぜひご覧ください。
- 導入
- Point 1. 情報へのオープンアクセス
- Point 1. 情報へのオープンアクセス「きょうもできた!」機能の具体例
- Point 2. 提案が歓迎されるコミュニケーション設計
- Point 2. 提案が歓迎されるコミュニケーション設計「きょうもできた!」機能の具体例
- Point 3. 企画の効果を分析するための仕組み
- Point 3. 企画の効果を分析するための仕組み「きょうもできた!」機能の具体例
- さいごに
導入
2024年8月に『スタディサプリ小学講座』アプリに「きょうもできた!」というお絵描き機能がリリースされました。この機能は、私がエンジニアとしての職能を超えて、企画立案・実装・効果分析を主導した案件になっています。機能のリリースによって、「子どものやる気を高める機能や仕組みに満足できなかった」の声が、解約理由1位から大幅に減少するという成果が出ています。



LTでは、エンジニア主導の企画立案を可能にした、『スタディサプリ』の開発組織のポイントを3つご紹介しました。以下の3つです。
Point 1. 情報へのオープンアクセス
Point 2. 提案が歓迎されるコミュニケーション設計
Point 3. 企画の効果を分析するための仕組み
Point 1. 情報へのオープンアクセス
エンジニアが企画立案をする時に、そのきっかけが技術的な興味関心であることは少なくないでしょう。技術的な興味関心を、ユーザー価値、事業の方向性とアラインさせることで、技術をあくまでも表現手段として活用しながら、エンジニアが高いモチベーションで企画立案を遂行できます。したがって、これらの情報に職種問わずアクセスできる環境が大切です。
- 技術的な興味関心
- ユーザー価値
- 事業の方向性
1. 技術的な興味関心
技術的なキャッチアップの場として、領域を跨いだ知見共有会や、社外カンファレンスの登壇・出席の支援が提供されています。
2. ユーザー価値
継続者と解約者向けに定期的にユーザーインタビューを実施しており、職種問わずオンラインで見学が可能です。ユーザーに直接、新機能の要望を伺ったり、プロトタイプを触っていただくこともあります。また、月次でVOC(Voice Of Customer)共有会を実施しており、カスタマーサポートチームから問い合わせ内容の傾向やサマリが共有されています。さらに、解約者アンケート結果も集計しています。
3. 事業の方向性
プロダクトの状況や事業の方針は、4半期ごとのオフラインキックオフや週次のプロダクト定例で共有されます。会議に参加できない場合も、生成AIで作成されたサマリで内容をキャッチアップできます。また、プロダクトのKPIがLookerのダッシュボードで可視化されていたり、『スタディサプリ』のブランドやデザインコンセプトも掲げられています。
Point 1. 情報へのオープンアクセス「きょうもできた!」機能の具体例
ユーザーインタビューを通じてお絵描きやお手紙機能のトレンドをキャッチしたこと、「子どものやる気を高める機能や仕組みに満足できなかった」の声が解約理由1位だったことを踏まえ、お絵描き機能をベースにした企画を考えました。プロダクトの「学習を継続してほしい」という方向性と、小学校低学年向けの「楽しくてワクワクするデザイン」をコンセプトに、ストーリーを練りました。
最終的な企画のストーリーは次の通りです。
「1日の学習の締めくくりに、子どもと保護者が同じタブレットでお絵描きをする体験を通して、保護者から子どもへの褒めのコミュニケーションが促進され、子どもが明日も勉強しようと感じる」
Point 2. 提案が歓迎されるコミュニケーション設計
思い描いた企画を前に進めていくために、職種問わず誰でも提案できる場所と、提案が歓迎される心理的な安全性が確保されていることが大切です。
- 職種問わず誰でも提案できる場所
- 提案の心理的なハードルを下げるコミュニケーション文化
1. 職種問わず誰でも提案できる場所
企画のストーリーが固まっていない場合でも、「よもやま」の場を使ってデザイナーやPdMと壁打ちができます。そしてストーリーが固まったら、「案件エントリー」という会議体に持ち込んで開発の承認を得ていきます。案件エントリーでは、GitHubのissueベースで会話が行われます。あらかじめissueのテンプレートに沿って、企画の背景や目的、企画内容、期待する効果、企画の振り返り手法を記載します。

企画立案のハードルが高い場合は、#dogfooding-jaというSlackのチャンネルにアプリの感想をカジュアルに投稿できます。実際にここに投稿された内容が、案件として開発されることもあります。

2. 提案の心理的なハードルを下げるコミュニケーション文化
WOL(Working Out Loud)と呼ばれる、思考や作業の過程をSlackで呟きながら働くことが推奨されています。また、ポジティブなSlackのリアクションが豊富に用意されていて、手軽に他者に褒めを表明することができます。

この辺りの文化については、私がnew joinerの頃にブログで言及しています。
Point 2. 提案が歓迎されるコミュニケーション設計「きょうもできた!」機能の具体例
「きょうもできた!」機能では、思い描いた企画のストーリーをベースにプロトタイプを作成し、周囲の協力を呼びかけました。実際に動くものを見てもらった方が、口頭よりもイメージが伝わりやすく、現実味を持って会話できると思ったからです。

デザイナーやPdMの協力を得た後は、どんなキャンバスにお絵描きするのかブレストをしたり、案件エントリーissueの記載を協働しました。案件エントリーでは、企画の実現に必要な最小単位のプロダクト(MVP)が論点になりました。
数回のリジェクトを経て、最終的に以下のMVP(Minimum Viable Product)を定義し、開発の承認を得ました。MVPは次の通りです。
- 1日の学習のサマリが視覚的に表現されている
- 子どもが自発的に使いたくなる
- 保護者が手軽なアクションで褒められる
開発着手前にMVPを定義し、意思決定の指針とすることで、デザインや要件が肥大化することを防ぎ、QCDのバランスを取ることができます。実際に「きょうもできた!」機能は、技術検証2week、開発1monthでのリリースが実現できました。
Point 3. 企画の効果を分析するための仕組み
MVPを満たす状態で小さくリリースをし、ユーザーに価値を提供できたか分析をして、エンハンスの判断をしていきます。分析はBigQueryを中心としたデータ分析基盤と、A/Bテストを実現するFeature Toggles基盤に支えられています。
- BigQueryを中心としたデータ分析基盤
- A/Bテストを実現するFeature Toggles基盤
1. BigQueryを中心としたデータ分析基盤
BigQueryを中心としたデータ分析基盤はPlatonと呼ばれています。クライアントからはFirebase Analyticsを介してログを送信しています。分析は企画の立案者が実施する運用にしていますが、ログや分析設計をデータエンジニアに相談できる窓口が用意されています。
2. A/Bテストを実現するFeature Toggles基盤
『スタディサプリ』では、自前のFeature Toggles基盤を運用しており、Darklaunchと呼ばれています。クライアントはGraphQLのクエリで、他の画面の構成要素と一緒にフラグの値を取得し、手軽にUIを出し分けることができます。利用者に対してサーベイが定期的に実施されており、改善も進められています。
query ElementaryHome { familyDrawingFeatureFlag: feature(variantKey: "enable-family-drawing") { enabled } }

Point 3. 企画の効果を分析するための仕組み「きょうもできた!」機能の具体例
クリックログとお絵描きの総画数をBigQueryに送信し、機能の利用日数や活用度を分析しました。*1 その結果、機能を1度でも利用したことがあるユーザーの割合が50%を超えていること、機能を利用したユーザーの方が、継続して学習する傾向があることがわかりました。
また、機能に関するお問い合わせや口コミをいただいたり、「子どものやる気を高める機能や仕組みに満足できなかった」の声が、解約理由1位から大幅減少したため、定性的にも手応えを得ることができました。
これらの結果を踏まえ、機能のA/Bテストを終了し、全ユーザーに対して機能のエンハンスを実施する判断をしました。こうして、『スタディサプリ小学講座』アプリに、新たなコア機能が生まれました。
さいごに
RECRUIT TECH CONFERENCE 2025 は、「技術を活かす現場力」をテーマに2日間開催されました。「きょうもできた!」機能のリリースの経験から、存在を当たり前のように感じてしまいがちな開発基盤や組織文化が、プロダクトの日々のエンハンスを支えているのだと改めて実感することができました。これからも開発基盤や組織文化を維持・成長させながら、ユーザーの声に耳を傾け、技術で応えられるエンジニアでありたいです!
*1:あくまでも分析用途であり、個人の行動やお絵描きの内容は把握していません。