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低温で電気信号はどう変わるか?量子コンピュータ向けの配線設計技術の一部を紹介

こんにちは。量子研究所の福盛です。本回は、超伝導量子コンピュータ向けの設計技術の1つとして、低温での高周波電気信号がどのように変わるかを解説したいと思います。

電気信号は配線を通ると劣化する

図1 配線通過前後の信号波形


パソコン、スマートフォンといった電子機器の内部では、1本の配線につき、1秒間に約10億(=109)個の電気信号がやり取りされており、この電気信号は、配線を通過した後、必ず劣化します。その劣化の様子は、送る前の信号の形状、配線の材料、長さ、断面の形状など、様々な条件で変わります。設計者は、これらを全て把握して、配線設計に臨みます。
因みに、今回は電気信号だけに話をフォーカスしますが、電子機器の配線設計では、本日紹介する電気設計の他にも、熱設計、機械設計も必要かつ重要な技術になります。
超伝導量子コンピュータでは、1G~10GHzの電気信号が配線の中を通っています。超伝導量子コンピュータで用いられる信号は、パソコン、スマートフォンといったデジタル信号とは違い、アナログ信号ですので、厳密には「1秒間に約10億個の信号」が当てはまりませんが、高周波の配線設計と言う観点からは、同様の材料特性が必要になります。

室温での配線材料の電気特性測定と低温への適用の難しさ

低温向けの測定技術を紹介する前に、室温ではどんな測定技術があるかを簡単に紹介しておきます。室温で1GHzや10GHz程度の材料測定を行うには、共振器を用いた測定を行います[1][2]。共振器を用いた測定は、絶縁材料のみ、金属材料のみでの測定が可能なため、材料開発の現場で使うにはとても便利な方法です。実際に、高周波向け材料の特性では、共振器測定による材料測定結果が広く使われています。
一方で、共振器の波形はなかなか繊細であり、超伝導量子コンピュータで使われるような配線では測定が困難です。もう少し詳しく説明すると、大きく2つの問題があり、1つ目は高周波信号が通るケーブルで信号品質が悪化するという問題です。超伝導量子コンピュータで用いるような低温の冷凍機では、熱の流入を防ぐため、測定用の電気信号が通るケーブルを細く長くし、また、敢えて損失の大きな材料を使い、信号を弱めています。そのため、信号が弱まったりノイズが乗りやすくなったりして、図のような信号の観測が難しくなります。もう1つは、冷凍機での測定には多くの日数を費やすという問題です。前述の冷凍機は、真空の中で冷却を行っているため、信号波形を見ながらサンプルの位置を調整するといった、微調整が苦手で、場合によっては、やり直しに丸1日かけて昇温・降温を行うといったことも必要になります。共振器測定では、注意深く測定を行っても値にばらつきがあることも多く、複数回の実施を推奨する場合もあります。そのため、規格通りに実施すると、測定にかなりの日数を費やすことになります。
そこで、上記2つの問題を回避するため、富士通研究所では、低温向けに、別の方法を考案しました[3]。

図2 共振器測定での波形の例


超伝導量子コンピュータ向けに配線材料の電気特性を決定

ここからは、できるだけかみ砕いて要旨だけを説明するようには努めますが、学会で発表した内容を説明するため、多少複雑な話になる点はご容赦ください。富士通研究所で開発した方法は、一言で言うと、「複数の配線の測定結果とシミュレーションを駆使して、材料特性を逆算した」ということになります。配線材料の高周波信号の損失要因は、材料が主要因のものとしては「絶縁体での損失(誘電損失)」と「導体での損失(導体損失)」の2種類があります。さらに、設計や製造精度等に由来して、形状が主要因の損失として「反射損失」と「放射損失」という2種類があります。通常の測定では、これらの4つの損失が混ざっており、切り分けが必要となります。そのため、以下のようして要因を切り分けて行きます。
まず、測定前の試料の用意では、図3に示したように、配線断面の形状を2種類以上用意します。さらに、同じ配線断面形状で、配線の長さが異なる(例えば10cmと20cm)ものも用意します。
 これら複数の配線を1枚のプリント基板の中に作り込み、室温で測定します。測定自体は数分で終わるものです。また、同じ基板を冷凍機の中に入れ、数時間以上かけて冷却し、十分に冷えたら(3K)同じように測定します。冷却には時間がかかりますが、この測定もやはり数分で終わります。これら、長さが異なる複数の配線に対する高周波損失の測定結果から、図4の左に示すような、反射損失と放射損失が取り除かれた測定結果が得られます。桃色は断面形状が小型(配線幅110μm)のもの、水色は断面形状が大型(配線幅260μm)のものの室温(295K)でのデータになります。低温(3K)の測定データからも、同じようなグラフを得ます。次に、図3のサンプル形状とそれらを構成する材料特性を用いたモデルから、シミュレーションにより、図4右のような誘電率と誘電損失の関係を計算します。図4右の二つの曲線の10GHzにおける損失の差が、図3右の二つの曲線の差に対応します。図4左の測定結果と、電磁界シミュレーションの結果を組み合わせることで、室温(295K)と低温(3K)での誘電損失と導体損失を、それぞれ計算するのに必要なパラメータを抜き出すことができます。計算方法の詳細については、文献[3]を参照してください。
 この誘電損失と導体損失を計算した結果、図5のように、室温(295K)と低温(3K)では損失の割合が大きく変化することが分かりました。誘電損失も導体損失も低温では、低減しますが、誘電損失が低温では大きく減るのに対し、導体損失は2分の1や3分の1程度にしか減少せず、導体損失が損失要因の多くを占めるようになることが分かりました。そのため、今後は、導体材料の改善に注力することで、配線をさらに長くしたり、細くしたりすることが可能になり、より高密度・高集積な量子コンピュータ向けの配線が登場すること繋がると考えられます。

 以上、駆け足でしたが、簡単に超伝導量子コンピュータ等、低温向けの高周波配線材料の特性と測定方法について解説しました。

図3 配線断面形状と銅箔面


図4 損失の測定とシミュレーション


図5 室温と低温での損失の内訳


参考URL
[1] https://www.jstage.jst.go.jp/article/mes/28/0/28_335/_article/-char/ja/
[2] http://www.sumtec.biz/measurement.html
[3] https://pub.confit.atlas.jp/en/event/ssdm2024/presentation/C-5-03




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