Netflixでツール・ド・フランスのドキュメンタリーを観ている。今までツール・ド・フランスそのものは観ていたが、実際にチームに密着して選手や監督の話が聞けるのがめちゃくちゃ面白かった。
自転車競技の面白いところは個人戦でありチーム戦であるところだ。自転車競技はチーム戦だ。1人のエースを勝たせるために他のメンバーは風除けになったり、アシストに回ったりする。チームには目標があり、そのために戦略がある。その戦略を遂行するためにアシストメンバーは指示の通りに走る。エースを守るために風除けになるのはもちろん、チームのために給水のボトルを運んだり、時にはエースの自転車がパンクしたら自分の自転車を差し出すこともある。
しかしながら残酷なのは、自転車競技は個人戦であることである。どういうことかというと、これだけチームで戦うことが当たり前になっているにも関わらず、記録に残るのは個人の選手の名前だということだ。例えば今最強の選手はタデイ・ポガチャルで間違いないと思う。彼の所属するUAEのチームメンバーは彼を王者にするために働いているが、ツール・ド・フランスの優勝者はタデイ・ポガチャル1人であり、「優勝チームはUAEです!!」とはならない。
ドキュメンタリーで特に面白かったのはイネオスのエースを巡る争い。ツール前はエースとして走る予定だったピドコックだが、レースを重ねる中で若手のカルロス・ロドリゲスよりタイムが遅れてしまう。ここで監督たちはチームの成績を優先するためにエースの交代を決断する。しかし納得できないピドコックは山頂コースでロドリゲスをアシストせずに自分のタイムのためにアタックしてしまう。そのせいでロドリゲスは他のライバルから遅れを取ることになる。
本来自分がエースだと思っていた選手が、戦いの中で「カルロスをアシストしてくれ」と言われるシーンはとても残酷だ。つまりチームは彼のタイムはもうどうでもよくて、それを犠牲にして若手がスターになる手助けをしろと言われるのである。何百人もいるプロ自転車選手だが、そのほとんどはアシストメンバーとしてレースを走る。チームのエースとなれるのはほんの一握りのスターのみ。だから自転車人生の中で1回も自分の勝利のために走ったことがないまま現役を終える選手もいる。そんな残酷で厳しい世界が自転車競技の面白さだ。
よく「1回の勝利で人生が変わる」と聞いていたが、このドキュメンタリーでその意味がちょっと分かった気がする。ステージで勝利しないとチームのスポンサーは納得しないし、1回ステージを勝っただけで、今後はその選手がチームのエースに抜擢されるようになることもある。その生々しさを知ることができて、今後さらに実際のレースを観るのが楽しみになった。今年も7月になればツール・ド・フランスの季節がやってくる。最強の選手タデイ・ポガチャルか、最強のチームに恵まれたヨナス・ヴィンゲゴーか。今年の自転車シーズンも楽しみだ。
